第66話  一般男性 Oさんの化粧知識

今回の(※ は珍しい事にフィクション以外の注意書きが満載です。

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前回までのあらすじ。

 日本唯一のインド渡航者のヘッドハンティングに成功したのだが、帰りにお土産探してたら、日本産の白粉は鉛か水銀入りの毒物と言う事に気が付きました。


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 化粧技術に関しては無月さんもあてにならないし、豊後の殆どの女性が鉛入り白粉を使っているだろうから参考にならない。


「というわけで、現代知識を駆使して化粧品を作ってみるか」


 豊後に帰還する船の中でそう提案したが、生まれてこの方28年。化粧と言えば真夏の工事現場で日焼け止めクリームしか塗ったことがないため化粧とはどういう作法と手順を踏むのか全くわからなかった。

 なお、これにはさねえもんも同類らしく

「白粉ってコメディ映画みたいに石灰か小麦粉でもぶちまけたら良いんですかね?」などと語っていた。

 さすがにアルカリ性の石灰は肌がひりひりするから違うと思うよ?

 セメントを素手で握って3日間皮膚が焼けるような思いしたんだ。

(※セメントは目に入ると大変危険ですので絶対にまねしないでください)


「うーん」


 まいった。完全に手詰まりだぞこれ。

 寄港中もロクな考えが浮かばず、府内上原館に戻ってからも検討が続く。

 それでも何らかの情報を絞ってみよう。

「そういえば、化粧水というのは聞いたことがあるな。たしかへちまの水とかキュウリの汁を使うんだっけ?」とさねえもんに聞く。

「確か肌の保湿成分がうんたらとか、肌に潤いをってコマーシャルで言ってますよね」

 普段の歴史知識はどこへやら、俺と同じくらいのポンコツぶりを発揮する。

 とりあえず手水鉢から顔を洗うような感じでへちまの絞り汁をバシャバシャつける。

「次は、なんだっけ?」

「クレンジングとか、クリームとか、乳液って単語を言ってませんでしたっけ?CMで」

「それだ!」

 意味は分からないがそんな言葉を聞いたことがある。あとコスメなんて呪文も聞き覚えはあるぞ。それがどんなものか全くわからないけど。

「ルナチタ●ウムとかガンダリ●ム合金とかの方がまだ想像しやすいですよね」と有名なロボットアニメに登場する金属名をあげるさねえもん。

 すごくよくわかる。

「ところで乳液ってなんだい?」

「さあ?」

 白粉に鉛が入っていることは知っても乳液の成分は知らない現代男子2人。うーん。

「とりあえず山羊の乳でも塗っとくか。なんか肌に良さそうだし」

「そうですね」と特に反対もされなかったので南蛮人が持ち込んだ山羊のミルクを塗る。うう…乳臭い。

 あとはクレジングにコスメなのだが、これが何を意味するのか全くわからない。

 乳液なら乳の液だからミルク系の何かだと予想が出来る。だが横文字になると類推すらできない。

「クレにingという言葉がついているから何かが続いているのだろうけど、クレというのは英語で何を表しているだろうか」などと頓珍漢な発言しか出せない。

 コスメも『濃酢芽』とかだったら濃縮したお酢だと推測できるわけである。まあ酢なんて塗ったら傷口が染みたので二度とやらないけど。

「とりあえず、土台は固めたはずですから白い粉でも塗ってみようか?」

「そうですね」

 そういって貝殻を粉にして火を通したものと、そうでないものをつけてみた。

 おいこれシジミ汁か何かに使った貝だろ。味噌のにおいがすんぞ。


 で、つけてみた結果…塗った先から粉がぼろぼろ墜ちてくる。

 なるほど、これが世の女性が頭を悩ませる『メイクがおちる』という状態なのだろう。たぶん。

「それ以前の問題だと思いますよ」

 俺の顔を見て、頭を抱えながらさねえもんが言う。

 白い粉で俺の顔は老人のようになったらしい。

 飴食い競争とかで見られるアレだ。

 そこへたまたま通りかかった奥さんである一色さんから盛大に笑われてしまった。


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「化粧品を作るなんてどういう風の吹き回しかしら?」

 と笑い涙を流しながら事態を把握した一色さんと

「大丈夫ですか?」

 と心配そうに聞いてくる奈多(姉)さん。


 そうだ。どうせ作るんなら消費者じょせいの声を取り入れよう。


 白粉に含まれる鉛の毒性を説明した上で何か良い方法がないかを2人に聞いた。

 だが、答えはでてこない。

 まあ白粉の毒性に気がついていたなら別の方法を思いついているだろうしな。

「顔が白ければ何でも良いだろうから貝殻と小麦粉を混ぜて塗ったらどうだろう」と、とりあえず提案したら「五郎様は小麦石鹸の問題を聞いてなかったんですか」とさねえもんから怒られた。

 2012年くらいに小麦由来の石鹸を販売したら、使用者の何パーセントかが小麦アレルギーとなってしまったのだという。

 どうやら人間は皮膚から入った物にアレルギーを発症する恐れがあるらしい。

 戦国は現代ほどパン食とかは進んでないが、食料に乏しいので食べられない食品があるというのは生死に関わる問題となるだろう。

 となると貝殻みたいに人間の食わないものを入れた方が良いのか…

「えっと…白く…するのでしたら、がまの油とか…天花粉とかどうですか?」

 おずおずと奈多さんが言う。

「天花粉?」

「…からすうりの根っこを粉にしたものですが…その、…赤ん坊のあせもを防いだりするのに使う…そんなお肌にやさしい粉なんです」

 へえ、そういえば弟のおしめを換えるときに母親が白いパウダーみたいなのを付けてたっけ。

「…ごめんなさい。赤子用のものなんて……その……怒りますよね」

 と自信なさそうにいう奈多さん。だが

「それ、良いと思うよ」と俺がいいさねえもんも同意する。

 赤ん坊というのは体が弱く、危険な物へは過敏に反応する。

 一昔前にホルムアルデヒドという成分が含まれた床板用接着剤を使用した新築住宅に若い家族が住んだところ、空気中に放出され続けるホルムアルデヒドに赤ん坊の皮膚が反応してアトピー(かぶれ、皮膚病)になる事が多かったらしい。

 今は床板用接着剤にホルムアルデヒドはほとんど含まれていないが、新しすぎる家に住むときは、換気はしっかりした方が良いし、引っ越すなら変なにおいが消えてからの方が良いだろう。


 話がそれた。赤ん坊でも使える医薬品なら体につけても健康になるだけで害はないだろう。

 というわけで実験再開だ。

 化粧水を付けた後や付けない状態で量を調節しつつ天花粉を顔に押し付けてみる。

 こうして『うろこの落ちる病気にかかった半魚人』とか『皮膚が溶けだした妖怪』などと言われた実験を失敗しつつ問題点を書き出していく。


「化粧水が多いと粉が溶けるし、少ないと乾燥して落ちる…か」

「…やっぱりだめでしたね。…あの…すいません」と奈多さんが申し訳なさそうに言う。

「いや、着眼点は間違ってない。汗と乾燥の問題をクリアすればいいんだ」


 何度も実験して思ったが、要は皮膚が乾燥したり汗をかくと化粧が簡単に落ちるのが問題らしい。

「そういえば、クリームとか塗ってませんでしたっけ?」

 それだ!(2回目)

 つまり化粧とは最初に保湿を行い、次に油を塗って水分の蒸発を防ぐ。さいごに着色を行うという3つの工程を経るものらしい。

「工程」

 うん。コンクリの基礎を化粧するときだってプライマーを塗って塗料の喰い付きを良くしてからコンクリが痛まないように外壁塗装をするものである。

「塗装」

 考えてみれば単純だ。人間の皮膚だろうがコンクリの壁だろうが何かを塗ってコーチングする作業だと考えたら化粧品だって工事用具と変わらないだろう。

「「「その例え、絶対他の女性の前で言ったらダメですよ」」」

 3人から説教された。


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 クリームには水と油という本来混ざるはずのない物を混ぜる界面活性剤、別名『乳化剤』が入っている。

 乳液というのはたぶんこの乳化剤を使った液を指すのだろう。…ミルク塗ったの無駄だったんじゃん!

(※これは間違い。乳液は水分が多くサラサラしたもので皮膚に油分を与え、クリームは油分が多く、水分にふたをする保湿の役割をもつそうです。ただ、彼らの知識では経験の蓄積が足りないので、その問題点にまだ気が付けません)


 塗ってみてわかったが、クリームは油と水分が混ざっているので汗をはじくし、保湿はばっちり。ベタベタしてるから化粧粉の食いつきもばっちりだ。


「これを一週間くらい試してみて、問題が無いようなら生産ラインに乗せてみよう」

 上手くいけば日本人の平均寿命が延びるだろうし、特産品が一つ増えるだろう。

 さらに銀に変わる海外への輸出品にだってなるかもしれない。


「そのときは、大衆用と庶民用に分けると良いわね」と一色さんが言う。

 京都は古いしきたりとか中国物をありがたがる風習があるので、それに匹敵する高級ブランドとして箔をつけておくべきだという判断らしい。

 そうだな、単なる生活用茶碗ですら国一つと同等の価値があると言われる唐物ブランドに対抗できるくらい高級品として売らないと化粧品のシェアは奪えない。

『九州なんて辺境でつくりはった安モン、誰が買いはりますか。ぶぶづけたべていきなはれ』とか京都人に言われかねないだろう(偏見)。


 貴族や金持ちを相手にするときは、『買ってください』ではなく『売って差し上げてもよろしくてよ』くらいの気位の高さでいかないと嘗められるし値切られるのだ。(切実)

 なので、ただ良い物を作れば売れる。というのではなく入念な根回しが必要だろう。

 いくらみんなの為といっても、それで素直に聞き入れられるなら大名さっさとやめたいとかいいだしてない。

 

 とりあえず半年は自分の体で実験してみて、問題がなければ販売するということで、その日はお開きとなった。

 アレルギーとか起こしたら大変だけど、体調の変化は自分の体でないとわからないからね。

 特に奈多さんは実験台になりたそうだったけどこの中で一番皮膚が弱そうだし、化粧なんかしなくても十分きれいだから無理にリスクを負うべきではない。と言ったら顔を真っ赤にされ、一色さんからは太ももを思いっきりつねられた。え?何?俺なんか変な事言った?


 ・・・なお化粧した顔だが、その日、風呂に入ってタオルでこすっただけでろくにクリームを落とさずに寝てたせいで翌日大変なことになったのは言うまでもなかった。

 化粧めんどい。超めんどい。


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 というわけで今回、グーグル先生の知識をいっさい借りずに前半を書いてみました。烏瓜が白粉の代用品に使われていたと教えてくださった海猫様ありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。


 なおクレンジングはメイクを落とす道具。コスメは皮膚に刺激の少ない化粧を指すようです。(歴史とマンガ知識以外無)

 世間的には一般常識と思われますが、私の周りにとってはクトゥルフ神話の方がまだなじみが深い連中ばかりですので丁寧に掘り下げてみました。

 筆者はこれくらい化粧における知識は皆無なのですが、ベビーパウダーを調べてたら外国製のベビーパウダーで主成分のそうで、現代でも化粧というのはリスクがあるのだなと思い基本知識くらいは乗せようと、知ったか知識ではありますが掲載しました。

 あんまり効果のほどは期待しないでください。

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