第67話 安全な化粧品を普及させるために 陶隆房(晴賢)を崩壊に追い込んでみた
気が付いたら7万PVに近付いて来て予想以上の反響に驚いています。
有難うございます。
夢なら覚めないで欲しいです。
なお、本作での陶隆房(晴賢)の扱いはマリアナ海溝よりも低いです。
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白粉に変わる新製品は中々難しく、クリームを頑丈にしたら皮膚呼吸が出来ずに息苦しくなったり、薄くしたら天花粉が取れるなど色々失敗した。
なお化粧水はキュウリなどの食品ではなくヘチマ水を使っている。
詳しい原理は理解出来なかったが、小麦石鹸のように人間は皮膚や粘膜に付着したものは異物とみなす可能性があり常食食品だとアレルギーを起こすかもしれないからだ。
生命予後に関わる重篤な食物アレルギーの実態調査・新規治療法の開発および治療指針の策定 https://research-er.jp/projects/view/145899 という厚生労働相の研究で
『石鹸使用中止後5年後の略治率は約40%、略値期間の推定中央値は5.3年と推定された』と五年で小麦アレルギーは4割が治ったようだが危険な事に変わりはない。
「6割は治ってないってことですからね」
そんな危ないもの付けない方が良いのだが、自分が使ってたものは毒だった。などと信じる人間は以外に少ないから無理だろう。
これ『テロール教授の怪しい授業(講談社)2巻』のP156に書いていた『認知的不協和』という人間心理で、人間は今までの習慣が間違ってても人間はそれを中々認めない。『誰だって毒なんて飲みたくない。飲んでいたと認めたくない。(略)だからこれは安全なものだと思いこむ』という老害ムーブが備わっている事を示唆している。
だから「鉛入り白粉は体に悪い」と正面から主張するのは悪手であり、今俺がするべきなのは高性能な白粉を作って正面から叩き潰す事なのだろう。
『鉛入り白粉はカスや!』と言われるくらい至高の化粧品を作るのだ。
…領民の健康のためとはいえ、毒物を喜んで使っている愚かな者の機嫌を取ってやめさせなければいけない大名というブラック職も十分カスだが…
この仕事は出来損ないだ。食べられないよ。
「おじいちゃん。現実逃避はさっきしたばかりでしょう」
と言いながら、同様に実験台となってる さねえもんがいう。
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ある程度、質の良いものは出来たのだが、こうした品を広めるにはインフルエンサーが必要だ。豊後はウチの奥さんや家老のコネを使うとして、問題は他の国だ。
普段から白粉を使い、発信力のある人間はいるだろうか?
そう考えてたが2人いた。
化粧と言えば女性がメインの消費者だが、公家と役者も結構使ってたはずだ。
彼らに限定販売して宣伝してもらえば良いのではないだろうか?
「そう上手くいきますかね?」
この時代の京都公家は財政が逼迫している家が多いらしい。
なので白粉代にも困っているような貧乏貴族を一人だけ選んで、豊後製白粉を格安で販売し、彼を通して売りさばくというのはどうだろうか?
しかも、売れれば代金の1割をマージンとして渡せば商売魂にも火がつくだろう。
「それ、
「この時代だったら無尽講っていうんじゃなかったっけ?」
利益で人を釣り、末端会員に損をさせる商法というのは感染力が高い。
儲かる話というのはふつうなら他人に教えないのだが、それを教えるというのは①教材商法か②格安の人力が必要か③養分を求めている場合である。
まあ、今回はシェア拡大のためにビデオテープの技術を無料公開してβと呼ばれるビデオ形式を駆逐した方法に近くする。
主幹産業として利益はきっちり頂くが鉛入り白粉からシェアを奪うにはこれくらいがちょうどよいだろう。
「しかし、そのような公家をどうやって探すのですか?」
うーん。確かにそうだな。
大友家と関わりのある公家は3家ある。
小笠原家と田村家と
小笠原家は小笠原流でおなじみの武士の礼節を指南する一族。これは1500年頃、大内の内紛で大内高弘さんと一緒に豊後に亡命してきた一族が豊後に土着した一族(と、言われてます)。
田村家は幕府と結びつきが強かったようで宗麟の父の代から豊後に住み、室町幕府とのパイプ役を務めたそうだが幕府滅亡後は力を失ったらしい。
最後の久我家は源氏の流れで宗麟が朝廷工作を盛んにするようになってから豊後に来て、息子の久我三休という人物は宗麟の2女と結婚している。
さらっと書いたが大友の公家情報は論文が単独でかかれるくらいマニアックな知識だったりするので、知識自慢ができるだろう。
使える範囲が大分でもかなり限られる知識だけど…
「でも、彼らって朝廷とはそこまで関わりが無いですよね」
とさねえもんが言う。
うん。小笠原さんは生粋の豊後人になってるし、田村さんは武士関係者。久我さんはまだ豊後に来てない。
外交担当の臼杵さんが話を持ちかけても警戒されるだろうし『武士が勧めた白粉(笑)』とかバカにされそうな気がする。相手は京都人だし。(偏見)
「では、そろそろ『山』を動かすか」
「山ですか?」
その言葉にさねえもん以下、大友の重臣が反応した。
今まで秘密裏に進行していた大内領調略の作戦開始をこのとき決定したのだ。
まさか化粧の販路開拓のために滅ぼされるとは思わないだろうな。陶晴賢こと、高房。
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それから5日後。
「五郎様。山口より公卿の方々が訪問されました」と長増から報告があがる。
なんでも山口では当主の大内義隆が失踪し、大変な状況らしい。
というのも、義隆の直筆で
『このたび陶隆房が自分に対して謀反の企てをしていると聞き驚いている。しかも、大内譜代の家臣の多くがそのような悪事に賛同し、毛利、吉川などの自分が目をかけた豪族までそれに同心したと聞く。
領民や家臣のために心を砕いて来たのに大変残念なことである。
だが、下が別の当主を求めるのならば唐国の賢帝の故事に従い周防守護としての地位を譲ろうと思う。
逆賊 陶を倒した者を正式な周防守護として認め印を譲るよう幕府に取りはからおう。
7国を治める気概と野心のある者は奮って参加するが良い。
なお九国の中で自分に従った者たちへは、このようになった事をふがいなく思う。願わくば大友や島津のような正しき守護の下で領民を守って欲しい。
2月10日 太宰大弐 周防守 大内義隆』
この直筆書状を中国地方から九州までの城主クラスに、行商人や寺経由で送り届けた。らしい。(すっとぼけ)
大内義隆が豊後にいることは秘密にするため、経路不明とするためだ。
効果はてきめんに現れた。
陶にとって、今まで『義隆殿を倒して正しい政治を行う』と息巻いていた仲間が、自分の地位を奪う簒奪者に早変わりしたように見えたのである。
至高の地位というのは奪うのは自分の望んだタイミングで出来るが、守るのは常時警戒が必要である。
今まで批判するだけで良かった口だけの扇動者が、覚悟もないまま当主の地位にされて標的扱いされたわけだ。そこまでの準備が出来ているはずもない。
実際の反乱は今年の9月で半年くらい先の話だしな。
史実の陶は傀儡を立てないと当主になれず、それさえも5年で失敗した無能だったので、このような状態になった場合どのように行動するか分かりやすい。
案の定、味方の一人に標的を定めて『裏切り者』の粛正を始めた。
「史実でも陶は、反乱直前になって味方となった杉重矩にすべての罪を押しつけて討伐してますから、見せしめとしてこのタイミングで討伐するのは彼でしょうね」と、さねえもんが分析する。
陶がまがりなりにも大内家を乗っ取れたのは『文弱な大内義隆が政治を誤ったから、みんなで討伐した』という大義名分と共犯意識があったからである。
みんなで下克上を行った仲間であり、陶が大内を滅ぼしている間、大内の味方だった毛利は反乱の混乱に乗じて攻めてきた尼子を防いでいる。
この時点では毛利も陶の味方だったのだ。
ところが陶はケチで『毛利元就のすべて』と言う本によると、『毛利が希望した備後の旗返城を、陶は腹心の江良房栄を置いて直轄』とし、よりによって毛利が欲しがった領地を、逆に毛利への牽制に使いだした。
このため毛利は陶から吉見氏討伐を依頼されても態度を保留し『仮に吉見攻めが成功しても晴賢におごりが生じて忠不忠の見境がつかなくなろう』とか『晴賢は主君殺しの報いを受けるのは必定』などと書状で書いている。
アホが政権をとったけど言うほど気前がよくもなく、猜疑心の塊と知るにつれ毛利などの領主は陶を見限り、厳島での戦いとなった。
これが大内崩壊後の中国の動きである。
そんな過程を経ずに、この時点で味方に責任を押しつけても『当主から逆賊扱いされた逆賊が本性を現した』以上の感想はないだろう。
本来なら成功したはずのクーデターも成功するかどうかも怪しくなった。
このせいで中国地方は内乱が続くだろうが、おかげで10年後の九州の内乱が消えるだろう。
それに先だって大内義隆さんが集めた技術者や文化人に「陶は武偏の猪武者だから、文化人は冷遇されるだろうし公卿は殺害されるだろう。九州へ移住れば食い扶持があるぞ」と甲賀忍者を使って風説コマンドを実行したのである。
おかげで灰吹き法経験者や庭園などで培った治水技術者が技術投資なしでタダで手に入った。
これに対して陶は後に「無駄な人間を整理して出費を削減できた」と自画自賛していたが『経営が苦しくて余裕のないバブル崩壊後の会社』と『人手が足りなくて、好条件で人材をどんどん雇うバブル崩壊前の会社』ならどちらが勢いがあるかは歴然だ。
戦国時代の支出とは食料の消費が大部分を占めるのだが、その問題がクリアされるなら生産人口は多い方が良い。
大内家が発展してたのも、幅広いインフラと技術者によって支えられていたといえるのだが、研究投資や文化面の出費を『無駄』とするようなビジョンしか描けない経営者ではこじんまりとした事業しか描けないだろう。
成長企業は人材を求める。これは間違いない。
「でも、彼らを雇うお金はどうするんですか?」
「そんなの食料を物納するか紙幣をもっと刷ればいいんだよ」
「それで納得しますかね?」
「はじめはしないだろうなぁ」
お金は『これに価値がある』とみんなが共同幻想を持つことで価値を持つ、人類全体で決めたルールみたいなものである。
仮にこの時代で10万貫(約1億円)を持っていたとしても、欧州に行って「これは1億円の価値があるので食料を売ってください」とお願いすれば銅自体の価値しか認めてもらえないだろう。
逆に原価10円の地方商品券などの紙切れでも『これは1万円の価値がある事にします』と宣言し、みんながそう思いこめば1万円として使えるのである。
「まるで
金なんてそんなものだ。
翻って、大友家が発行した紙幣の価値はどこまであるだろうか?
日雇い労働者たちは毎日の飯や日用品を購入できるので十分に価値あるものとして機能している。
貧乏領主の次男三男である彼らは大友家の公共事業へ労働力を提供することでしか収入がなく、得られるのは紙幣だけだからだ。
どこぞの家臣は「大友ペリカ」などという酷いネーミングをつけているが日給200文(約2万円)は破格の給与だと思うぞ。
大友家がつぶれたら価値は0になるけど…
いつも通り話がそれた。
そんな便利な大友紙幣だが、定期収入のある領主は未だに紙幣には抵抗があるようだ。
詐欺師にだまされない警戒心は大事だが、一応君たちの仕えている国をもう少し信用してほしいものである。こんちくしょう。
そこで紙幣の価値を高める為にもう一歩踏み込んだ流通システムを始める必要がある。
「それが、この化粧品とか南蛮物の販売だ」
「どういう事です?」
「ある程度、この化粧品を流通させたら天花粉以外は『紙幣以外では販売しない』事にするんだ」
「ああ、某RPGゲームのカジノコインみたいにするんですか」
ごく一部にしか分からない例えだなぁ。
要は『化粧品だけは銭では買えない商品』として一度紙幣に交換させるのである。
豊後の店では紙幣で買い物を全て可能とし、紙幣だと他の商品は割引サービスが使えるようにする。
宿も税金も紙幣で払うなら2割引き。銭で払うなら割引0。
こうなれば利益に聡い商人は必要分を紙幣に換金して当然のように使うだろう。
この実績で『大阪商人でも豊後を信用して紙幣を使っている』という安心感ができるはずだ。
Tポイントとか商品を購入すると次回割引されるサービスは一部店舗でしか使えなかった時代は、そこまで価値があるように思えなかったが、生活必需品にまで使用できるようになれば十分価値がある。
この共同幻想の範囲が広がれば広がるほど、大友家は金を刷る能力が増して経済的に潤うのである。
税務署もポイントカードを疑似通貨として課税しようとするわけである。あれ、企業が発行した疑似通貨だもん。
というわけで、経済を握り毒物化粧を日本から駆逐するため、陶晴賢はここで犠牲になってもらおう。ついでに毛利も潰せればラッキーなのだが、そうは上手くいかないだろうし尼子と手を組んで生き延びそうな気がする。
そうならない様に、見込みのありそうな領主に武器を渡して内乱を長期化させとこう。
「なんか我々が毛利元就みたいな立場になってませんか?」
とさねえもんが言っていたが、そこまで酷い事はしてないだろう?今はまだ。
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本作での陶の扱いが酷いのは、『他人の悪口と社長へのごますりだけで反対派を追い出して実権を奪ったものの経営能力がなくて会社を崩壊させたクソハゲ営業とやってることが余りにも似すぎているから』です。
あんなアホに何でだまされる奴がいたのか不思議でしたがコロナ騒動でマスクやトイレットペーパーの転売ヤーから高値で買うという非合理的な行動をとっている人間が多いのを見ると納得はしました。
『活動的な馬鹿より恐ろしいものはない。(ゲーテ)』という言葉もあるように、そのまま放置してれば多くの人が不幸になる存在ですが、人間はこれからも騙されて不幸になっていくんでしょう…。
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