第53話 大友の宗麟 誕生(消防署の方から来ました詐欺的にに
「というわけで、トロッコと糸電話の技術を伝授しますので、そちらの灰吹き法をお教え願いたい」
山口の御屋敷で無月さんが堂々とした態度で告げる。
大友家から大内家への使者として向かった我々は、使僧の無月さんと大友家当主の名代として齋藤鎮実の二人を先頭に面会を許された。
対面相手は大内義隆。
当時日本の7カ国を領有する日本一の大領主である。
現代では貴族趣味で国を滅ぼした男色趣味の平和ボケした大名と思われているが、彼の父は逃亡してきた室町将軍を助けて京都に同伴し、数年ほど室町幕府の後ろ盾として活躍した文字通り天下人の大内義興。
「その息子である義隆さんも20代は東の尼子と戦いながら九州北部を荒らしまわり、佐賀の守護だった少弐氏を滅亡に追いやり、大友家の牙城まで後一歩まで届いた西日本最強の大名だったんですよねぇ…」とさねえもんが言う。
貿易港として有望だった博多を奪うために度々豊後を襲い、豊前筑前までをも奪い取った怪物らしい。
今は40歳を超えていたはずだが、大変な生活にいた為かだいぶ老けて見える。
ただのおじさんではないんだな。と感心していると目つきの鋭い大内の家臣が
「殿。いくら姻戚にある大友家と言えども、あの技術は秘伝中の秘伝。おいそれと渡せるものではございませんぞ」と注意する。
灰吹き法。
銀鉱山から、金や銀を鉱石などからいったん鉛に溶け込ませ、さらにそこから金や銀を抽出する、今までの日本では抽出できなかった貴金属を取り出す方法である。
名前を知っているのだが細かい方法はしらないし、一般現代人がご家庭の裏ワザとして実際に使用する事は絶対にない技法である。
研究すれば独自に発見できそうだが、その研究資金や時間がもったいないので技術交換をしようと持ちかけたのだが、家臣はあまり乗り気ではないようだ。
え?トロッコはともかく糸電話を交渉材料にするなんてぼったくり?
馬鹿を言ってはいけない。それを言うならボタンなんて簡単な技術だけど十字軍が
、イスラム社会から教わるまで西欧社会にはなかったし、日本はもっと後に入った技術になる。らしい。(埴輪についているという説もあるが、その後の使用は見られないから多分鎧のかざりだろう)
たかが糸電話でも町レベルで使用する場合、混線しない様に運用するノウハウとか失敗例の積み重ねは思い付きだけでは絶対に見つけられない。
先日なんか、糸がからまって府内町のHさんとIさんの(ぷらいばしぃ保護のため名前は伏せる)の謀反計画をうっかり聞いてしまったりできたりもするのだ。
「それ、盗聴っていいませんか?」
はて?人様の技術で国を奪い取ろうなんて考える奴に人権など(戦国時代には)ないんじゃないかなぁ?というか不幸な事故だから。別に盗み聞きしたくてしたわけじゃないよ。
とまあ、みんなが使えば使うだけ(反乱防止に)便利な新技術。今なら灰吹き法だけでお譲りしようと言う訳だ。そう考えれば悪い条件ではないだろう。
まあ、これが『一度断って相手から有利な条件を引き出そうとする茶番』な可能性もあるのだが、ハッキリ言って時間の無駄だから止めてほしい。
建築現場でも値引きばかりして「私はいくら安くできました!何て優秀なんだろう」と勘違いしている営業がいるが、そういうアホには相場の3倍くらい高い見積もりを出して1.5倍の値段まで下げて仕事をしている事が結構ある。
0.5倍分はくだらない値引きの茶番に付き合わされる迷惑料である。
さて、中国地方の名門 大内家当主はどんな反応をするのかな?と思ったが
「互いの国が栄えるなら、まあ良いではないか。聞けば豊後の別府に日田郡の津江村では新しい金鉱山が見つかったそうじゃ。ならば、それ相応の見返りもあるじゃろう」
………さらっと国家機密の金鉱山情報が洩れている。
どうやらスパイがいるのだろう。平和ボケしているように見えて抜け目ないな。このおっさん。
そう感心していると大内さんから
「ところで、何故このような技術を大友殿は我が国に紹介されたのですか?」
と聞かれた。
これに対し、無月さんは鉱山からの運搬や伝達のロスを軽減できるので必ず役に立つという利点を挙げた。山に登らなくても通信できるとか素敵やん。
ただ、もう一つ大事な点を忘れているので補足説明した。
「それに、この技術は拠点に敵兵が来ない大内家や大友家の様な大国でないと使えないからです」
何度も言うがインフラというのは、戦争で毎年破壊されるような国では整えるのが難しい。電線を盗まれたりレールにいたずらされるような国では使えない技術なのである。つまり『この便利さを継続して使いたいなら叛乱なんて起こせないよ』という事を便利さに慣れきった後に、知らさせれば謀反に賛同した連中も考え直すんじゃないかなという淡い期待込みで言っているのである。まあそれでも反乱は起こるだろうけど。
「まずこの便利さを理解できるような素養のある場所が日の本を見ても大内家程の教育が進んだ大国しかないのはもちろんですが、反乱でも起こらない限り府庁が戦乱に巻き込まれない程の力を持っているのは大内家を於いて他に存在しません」
『反乱でも起こらない限り』という言葉に力を込める。何しろ半年後には起こるからね。陶晴賢の叛乱(当時は陶隆房名義)。
何人かの賛同者らしきものが、その言葉に反応した。ああ、こいつらもう計画に加わってそうだな。甲賀忍者にマークさせとこう。
そう目星をつけながら、この中央に険しい山をもつ山陽地方での運用を、ジョークを交えながら解説していく。
ここらは建築会社で培ったプレゼン技術があるので、どれだけの重役を前にしようがお手の物だ。実際に豊後で運用されている中での問題点も包み隠さず正直に話し、判断はお客様に委ねる。嘘をつけばそれが露呈した時が怖い。建築は正直で無いければならないのである。
「以上が大内家で、このような技術を提案させていただく理由となります」
と説明を終了すると義隆さんから興味深そうに
「そちらは豊後で有名な僧の無月殿に大友家の若手筆頭の齋藤どのとお見受けしますが、今お話されている方はどなたですか?」と聞かれた。
「ああ、この者は私の弟子に当たりまして、名を【宗麟】と申します。」
史実の大友義鎮が宗麟と名乗るのは1562年だが、今回山口旅行するに当たって偽名として使用する事にした。
そのために髪の毛は完全に剃って坊さんのコスプレまでしていたりする。
一々「五郎様」とか「義鎮さま」と呼ばれても、ゆるい大分県人としては今一ピンとこない。宗麟はやっぱり宗麟と呼んだ方がしっくりくるし、書いてる方も義鎮(後の宗麟)と書くのは面倒らしい。
「いえ、昔会った事のある方の若いころに少し似ていましてな。少し気になっただけです」
と言われた。せっかく頭を剃って化粧までして変装したのだが、これはバレただろうか?それとも、男色関係のお誘いだろうか。
「寝言は鏡見てから言って下さいね」
とさねえもんから真顔で言われたが、
「おそらく、半信半疑なので反応を伺っているのでしょう」とは
なるほど。やっぱりこのおじさん。ただ者ではないな。
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結局、大内さんの部下たちの『たとえ便利な事をしようとしても、先ずは自分達が5日ほど無駄に時間を使って話しあい、どのように中間搾取できるか検討してから、色々ゴネた後に承認します』という審査過程を通ってから結果発表するらしい。(彼個人の感想ですが日本の社内闘争なんてこんなものなので昔だってこんなものだと思われます)
こんなやつらが大内家崩壊した後に、江戸時代になってから『殿さまは重代の家臣をないがしろにして、軽薄で怪しげな新参者を登用したので国は荒れた』とか軍記物に書くんだろうな。
鉛を積載したトロッコで挽き殺してやりたいものである。
いっそのこと正体ばらしてゴリ押しで認めさせようと思ったが
「それ豊後に帰っても同じ事が言えますか?」とさねえもんに言われて正気に返った。
うん、大名なんて所詮お飾りだったね。船と言う好き勝手出来る実験空間が発生してたから忘れてたわ。
とりあえず、蒸気機関で動くトロッコ汽車(蒸気機関使用)と糸電話は実験的に使用許可がおりそうだと大内家に送り込んだスパイから報告が来た。
いざと言う時にノンストップで海まで出て逃亡するルートの作成許可が下りた。
やったね。これで大内義隆生存ルートが見えてきたよ。
最悪、義隆さんが死ぬのは回避できそうだ。
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「この澄み酒というのは中々良いものですなぁ…」
挨拶も終わって、宴会の席となった。
なんでも最近は公家との酒宴が多くて少し疲れ気味だったらしい。
接待宴会で飲みたくも無い酒を飲まなければならないのはいつの時代でも同じなのかもしれない。
なので今回は礼儀作法にゆるい、くだけた席となった。
ついでに、戦国末期に発見される『澄み酒』別名灰持ち酒を贈り物に用意したのだが、これがかなり好評だった。酒に灰を入れるとどぶろくみたいに濁った酒が今の日本酒みたいに透き通る酒だ。
先ほどの目つきの鋭い家臣の人など顔を真っ赤にしながら「うまいうまい」と飲んでいる。これは酒で買収できないだろうか?
などと黒い事を考えてしまうくらいには好評で、大内さんも普段よりかなり機嫌が良いらしい。さっきまで笑ってても目が笑って無かったからとてもわかりやすい。
これはもう一つの目的も達成できるかもしれない。
そう思って、無月さんにある質問をさせた。
「ああ、そう言えばこの町には、遠い天竺(インド)よりやってきた僧がおられるとか」
そういうと、今までにこやかだった義隆さんの顔が歪む。
「ああ、あの者達か…」
ちなみに大内義隆さんは1550年にキリスト教の宣教師に『同性愛は犬にも劣る』と言われてお怒りになった過去がある。
なのでこの時期のキリシタンへの感情はすこぶる悪い。だが、気にせずに無月さんは言う。
「仏の教えを学ぶ物としては、彼らに本場の教えをご教授させて頂きたいのですが、面会させては頂けないでしょうか?」と。
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戦国大名は他国の情報に敏感です。
大友宗麟も晩年、島津との戦いで当主である息子に敵の情報をアドバイスしています。
ですが、『なぜか味方の裏切りには気がつかない』のですが…
(『島津四兄弟の九州平定』を書かれた新名先生よりご指摘いただきました)
のほほんとしているようでも経営者というのは外部への嗅覚は凄いものがあります。ただ何故か身内の裏切りには嗅覚が働かないだけで…
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