第50話 豊後の大商人 仲屋乾通
豊後には仲屋宗悦という大商人がいた。
『大友興廃記』によれば、宗悦は大坂、京、堺にも拠点を持ち、外国船来航の際は、船の口開きを行う権限と、一人で積荷の過半を買い取る財力を有していたという。
架空の人物ではなく、実在の商人で豊臣秀吉の時代にも登場している。ただ、彼の後の一族は不明でありその活躍も書状で断片的に伝わる。
宗悦は1580年代に活躍していた人間なのでこの時代は父親の乾通が動いていたと思われる。
そんな仲屋に瀬戸内貿易について聞いてみたのだが
「各港の商人がこちらの思惑道理に動くかが未知数ですが、交易品はいくつか目星がついてます。海上の安全が確保できれば明との密貿易や南蛮貿易ほどではないですが儲けは出るでしょう」
さらっと犯罪についても言及した。
大分県人でもなじみが少ないこの商人は、後に豊後一の大商人になるようで、1558年以降から運行する長崎に停泊したポルトガル船との貿易にも関わるようになるという。
「ちなみに豊後の商人はフロイス日本史によると長崎のポルトガル商船と取り引きしていたそうで、布の取引で揉めて戦闘になったりとか松浦氏がキリシタンにならないから日本初のキリシタン半大名(一国支配できてないため)、大村氏の領地にポルトガル船が移動したら嫌がらせに船団を率いて町を焼いたりしたそうです」
金を払う暴力団かなんかか?豊後商人は。
「まあ、ポルトガル人がマカオから密輸入した絹や生糸を大阪に売ると10倍で売れたとか言われてましたし、金が絡むと人間は怖いですねー」
PS5の転売ヤーかよ。
それだけぼろ儲けをしてたら瀬戸内の取引は利益が薄いとか言い出すわけだな。
「長期的に利益になるなら暴力は控えますよ。ただ商売は甞められたら終わりでございます故、利益を得るためなら交渉材料の一つとして使う事にはやぶさかではございませぬが…」
やぶさかにしておけよ。この盗賊。
というか、どんなに儲けが欲しくても物を燃やすのは禁止だ。
これは交易路の確保した理由にもつながる。
「そういえばこの施策は大内を救うためでしたな」
思い出したように臼杵が言う。
「同盟国とはいえ他国を救うのですか?」
その言葉に仲屋が驚いたように聞いてくる。
「ああ、そして大内を救うことは仲屋、おまえの商売の飛躍にも繋がるのだぞ」
「え?大内様を救うことがですか?」
戦争は技術の発展を促す。という言葉がある。命を懸けた事態に人は持てる力を尽くして様々な発明や、すでに発明された物の新しい使い方を考える。
手榴弾は203高知で日本の兵隊が有り合わせの火薬で作ったとか、高性能なTVアンテナとして使われている矢車アンテナは日本では注目されなかったがアメリカ軍がレーダーに使用してその優秀性を実証したとか、数学は大陸間弾道ミサイルの弾道計算で発展したとか枚挙に暇がない。
だが戦争は確実に国を貧しくする。
「戦争特需って戦争に参加してない国の話ですもんねー」
日本だって日露戦争を終わらせた理由は金が足りないだったからなぁ。
身近なたとえ話で言えば、自分の家が大砲の砲撃で壊れたとしよう。
今まで2000万の価値があった家屋に家電製品などが一瞬にして0になる。
新たに家を建てるため住宅メーカーに金を払い、家電品を買うために電気屋に金を払う。
周りは小金が入るが、被害者の財産は消滅するに等しい。
戦争で相手の建物を破壊するのは相手の財産を破壊して困らせる事が目的だ。
相手が貧しくなれば豊かな側が有利となる。
つまり国内で戦争をするというのは互いの足を引っ張って貧乏になろうとしているのだ。これ以上貧しくなったり食糧に困りたくなければ従えと言う脅しから入り、直接的な暴力に発展するのがこの時代の戦いだ。
「焼き働きっていう放火活動が筑後の戦いは基本でしたからねぇ」
そのせいで博多は何度も火事で焼けた。
現代社会でも内戦中の国から日本に来た人が「ビルに銃弾の跡がないのに驚いた」と感想を述べたことがあるが、そんな状態で立派なビルを建てたり商売を本気でやるのは難しいだろう。
橋を造ったり電線を引いても破壊されるからインフラも整備できない。井戸にポンプをつけても鉄部分を盗まれてしまうほど短絡的な時代なのだ。
この流れを変えない限り庶民も大名も貧しいままだろう。
「大名が貧しい…ですか」
仲屋が驚いたように言う。
「ああ、食料から生活まで全てが貧しい」
電車も車もコンビニもない時代なんて貧しさの極致である。
江戸時代でも反乱を恐れて公通整備をしてないので徒歩か騎馬しか移動手段が無いとかふざけてんのかと思う。現代人のひ弱さをなめないでほしい。
おまけに、この時代の武士は質素倹約を基本とし普段はご飯と汁物に野菜が基本料理。せっかく収穫した食べ物を焼いたり畑を放り出して戦争してれば食糧事情は悪くなって当然だ。
農業技術は改善されて収穫自体は増えているが現代からすれば収穫量は低すぎる。
なので、国全体をまずは貧しくする悪循環から変えていかないといけない。
「豊かになる経済の基本は物を作って労働力分を上乗せして売る事じゃ」
農業は収穫に時間がかかるので工業製品を増やしたい。そのためには材料をまずは流通させられる下地が必要だ。
藍などの染料が出回れば染め物が盛んになり服のバリエーションが増える。
こうした生産物を庶民レベルでつくり足りないところへ互いに売れば財産がどんどん増えていき生活レベルもあがるだろう。
こうした豊かさの基盤を大名が支えていると認識されれば反乱に賛同する人間は減るだろう。
特に大内がそのコネで多くの協力者を作ってくれれば得する人が増える。
「QUOカードやTポイントカードみたいに加盟店と利用者が増えれば便利になる奴ですね」
戦国時代人には全く分からない補足説明をありがとう。さねえもん。
こうした平和による恩恵を増やしていき『大名の仕事は戦争では無く地方のインフラ整備』と認識が変われば大内家の悲劇も防げるのではないかと思うのだ。
なので、今回の瀬戸内の交通も『大内家が認めた家しか安全な海上移動はさせない』とすれば簡単に反乱は起こせない…となれば良いなと思う。
別に大内でなくても良いのだけど、折角6国も纏めているのだ。既存の組織を作りなおすと時間がかかるし、毛利元就みたいな戦闘マシーンが台頭して西日本が戦乱に巻き込まれたら、その平定だけで時間がかかる。
将来的には東南アジア貿易を進めたいのだから、国内の雑事などかまってる暇はないのだ。
「……あまりにも規模が大きすぎて、手前には把握できておりませぬが…」
仲屋はそう前置きして
「お屋形様が自国以外の民一人一人の事まで考え、明確な目的を持っておられる事は、この不肖の身にも分かりました」と言った。
まあ、500年の試行錯誤のうえでできた社会を知っているから目的だけは揺るぎないな。
だが、商人は理想だけじゃ動かない。明確な利益が必要だ。これは変な問いかけをされそうだな。逆にこちらから質問しておくか
「仲屋よ、お主は近江商人をしっているか?」
「?はあ、少しだけ商いをさせていただいておりますが」
「彼らの言葉に、こんな言葉がある。『三方よし』と」
商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる。という考え方だ。
「つまり、商人とは一方的に利益を得るだけでなく、作り手を育て、売る客も育てるのが長期的な儲けに繋がるのじゃ。作り手が豊かになればもっと良い商品を作れるようになるし、客が豊かになれば次にはもっと高い商品を買ってもらえるかもしれぬ。その橋渡しをする商人が豊かになれば作り手も買い手も豊かになるわけじゃ」
商売というのは誰かが不幸になると連鎖的にみんなが不幸になる。就職浪人時代に勉強した経済の本にそう書いてあった気がする。
身を切る改革とか緊縮財政って結局貧乏になるための政策であって、徳川吉宗とか水野忠邦の経済政策って失敗してるんだけど、何故か称賛されてたんだよな。
そんな間違った答えで育った日本の経済関係者は間違った政策をして貧しくなっているのだから30年も不景気から脱出できないのだろう。
なので俺は投資と信用貨幣を駆使して、日本の景気を良くしていこう。
そのためには…
「農業は作物を育てるが、商業は人を、いや国を育てるのじゃ。その大事業の礎をお主にも託したい。金は製塩で得たものが少しある。やってくれぬか?」
流通に乏しいこの時代、商売人の影響力は大きい。
ここで焼き畑みたいな『自分さえ儲かれば良い』という商人から『国を育てればもっと儲かる』という考えをもった商人を生み出すことができれば有名武将を引き抜く以上の価値がある。
さて、仲屋はどう転ぶだろうか?
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昔は銅銭とか金貨のような価値のある金属がお金として使われ、お札は金貨の引換券でした。(金本位制)なので発行できるお金には限界がありました。
ですが、現在は国の信用でお札を刷っている管理通貨制度なので日本はたくさんお金を刷れます。
今の日本が不景気なのはお金の流通量が少ないからだと外国の経済学者は指摘しているようですが、なぜか日本の経済関係者は日本は借金大国とか言っているので改善されないようです。
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