第37話 合志一夜城
気が付いたら1万PV突破していました。皆さまのご視聴に感謝します。
難しい作業をするときには、図と予定表は必須だと思います。まあ、監督やってたときには無視されたり、相手に紙で渡していたのに現場に来た職人さんが『渡されて無い』とか言いだしたり、それを注意したら逆ギレされたことがあるんですけどね(乾笑)辞めて良かったです。
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晴英は宗麟から派遣された大工から一枚の書状を渡された。
そこには版木で刷られたような文字で、こう書かれていた。
『一夜城作成の日程;』
作業員;大工50人。
同行した兵士100人(夜間作業組なので日中戦う兵士とは別とする事)
※敵にばれないように事前に木材を切りだし、現地へはトロッコ線路を敷設する事。
現地では柵を立てる予定地を一度掘って埋めなおす事で夜間作業が楽になります。
日程表;
日没;資材運搬:トロッコへの積み上げ 兵士100人
※作業員は資材と共に現場へ移動
9:00 作業員は資材を規定の位置に並べなおします。
明かりが漏れないよう柵を設置。兵士100人 ※柵は前日に、あらかじめ掘っていた穴を掘り返し、差し込んで下さい。
11:00~ 柵で明かりが城兵から見えないようになったら土台を組み立てます。
手の合いた兵士は従来の櫓を組んで下さい
※ここで敵に発見されると死ぬ危険があります。明かりは覆いをかぶせ、最低限使うだけにしましょう。
1:00 棟上げ開始。柱を立てていきます。木槌には布を巻いて音が立たないように注意しましょう。
木材の端に書かれた記号が同じもの同士をくっつけます。
※暗い場所での作業なので脚立から落ちないよう注意。
3:00 外壁仕上げ。
敵の城側の壁に、板壁を死ぬ気で打ちつけましょう。
作業員も兵士も関係ありません。
ここまでできれば敵も簡単には攻められないので、内部をゆっくり作っていきます。
5:00 完成。
日の出と共に完成を祝い、敵を威圧しましょう。
ここまでにできあがってなければ戦闘の準備を開始して下さい。
以上
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「というわけで、指示所通りに出来上がったのがこちらでございます。」
なんという事でしょう。
50人の
そんなナレーションがつきそうなほど、見かけだけは良い一夜城が完成した。
「まさか一日で城が建つとは…」
と土木工事中心だったベッキーは目を丸くしたらしい。
豊後に飛ばされてから密かに育成していた建築部隊である。
分業を進ませたため、材木を切り出しからトロッコの敷き設まで、大工たちは手慣れた感じで用意する。
もう20回は立てたプレハブ式の城である。暗闇でも製作は簡単だろう。
おまけに、これは敵から見えない内部は未完成。床板は貼られてないし、後ろは壁板すら作られていない。
兵士たちの手により急ピッチで工事が進んでいる張りぼての城だ。
一夜城は暗闇での作業なので、釘が乱雑だし柱組み以外はかなり雑。それを隠すために外壁には目の覚めるような白い和紙が貼られている。
戦国中期には安土城のように真っ黒な塗装が威圧感を与えるので重用されたが、手軽さ重視なので和紙を貼った白い城にした。
この時代は薄い紙が多く、白い和紙は高級品なのだが「人命に比べたら金なんていくらでも使え」という宗麟の命令の元、惜しげもなく使用された。
このおかげで、近寄ってみればズサンな手抜き工事と分かるのだが、遠くから見れば急に立派な城が生えてきたようにしか見えない。
現代建築の基準からすれば、戦国の建物は水道管も電気コードも無ければ、ベタ基礎も、立ち上がり(基礎から垂直に立つ、土台のコンクリート部分)もないイージーモードの建築だ。筋かい(柱と柱の間に、ナナメに設置された補強用木材)も無ければ耐震補強用の金具も無いから、オメガ金具(地震対策用の分厚くデカイ補強用金具)だけは付けておいた。
「こんな方法がありましたとは!」とベッキーや一万田達は驚いていていたようで、城のもろさが分かる。
「命がけの戦場なのだから耐久度を上げるための工夫はしてるだろう」と思っていたのに筋かいすらないのはがっかりだった。というか断熱材が無いから冬場寒くて仕方が無いんだよ!早く合成繊維で腐らない糸を作って断熱材もどきを作りたい…。(以下10行にわたり、不便な家への苦情が続く)
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「………………………なんて立派な建物だ…」
熊本内陸の小高い丘、竹迫城に籠城していた合志の兵たちは目を疑った。
目の前には3階建ての異様な建物と、それに付随していくつもの建物が一夜にして出来あがっていたのである。
1560年代に松永久秀が造るまで日本の城には天主閣という物はなかったという。というか2階建ての建物も『二階崩れ』という名称がつくほど、九州では珍しかったらしい。
それが3階建て、しかも真っ白な建物として突然現れたのである。
驚かない方がおかしいだろう。
『ズサンな手抜き工事』というのもお客さんと県の視察官の目が肥えた現代の基準で見ればの話で、戦場で造られるプレハブの様な木造城としてはオーパーツの様な出来栄えと言える。一言で言うなら『やりすぎ』だ。
時間などの関係で断念したコンクリート壁まで造っていたら「ダイダラボッチが現れた」とか妖怪の仕業にされたかもしれない。
合志の兵たちは「あんな魔法を使えるような相手に勝てるのか?」と不安になっている。それくらい、日本で誰も成し遂げた事のない一夜城はインパクトがあった。
本来なら大友家を相手にしても一歩も退かない勇士たちだが、さすがに無駄死には恐ろしいようだ。
「大友家には鬼神でも味方に付いているのか…」
菊池側の領主、合志は冷や汗を流した。
教養ある領主の合志は一般兵のように単純に驚いた訳ではない。
城を作成するのに材料さえ揃えば、一日で作成するのも不可能ではない事は頭のどこかで理解できた。
だが、それは作業に携わる人間が、その作業に熟練していた場合である。
暗闇の中、不眠不休で作業をさせるなど、兵士の不満を考えたらできるはずがない。暗い中で危険を伴う作業など、よほどの恩賞を約束でもしないかぎり無理だし、それでも3日はかかるだろう。
史実の秀吉でも墨俣は時間がかかった。彼が真の一夜城を作ったのは1587年の九州征伐の時。関白となり天下人として威を振るってからだ。
尋常でない人数と経験、そして権力がないと成功しないような作業なのである。
戦うにしても兵たちの不安を取り除かなくては成るまい。
大友家当主と、その弟はまだ20歳の若造で指揮官としての経験もないと聞いていたが、甘く見ていた。
「それを成功させるとは…大友軍の八郎とは恐ろしい男だ…」
菊池家への義理立てで参加した戦いではあるが、最後まで味方する気はなく、手切れ代わりに一度だけ本気で戦い、大友家に自分の家の強さを見せつけてから和睦をしようと思っていたのだが、その一戦へのハードルが爆上がりした。
「反旗を翻したのは軽挙だったかもしれん…」
肥後領主としてのメンツと部下を率いるための手段が奪われた合志は頭を抱えた。
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そのころ一夜城では
「よし、い~ほの部分の組み合わせは間違っておらん!昼の作業班は筋交いをつけて補強!足軽たちは3交代で土塁をセメントで補強せよ!」
「壁板はさっさとつけろ!作業中なのがばれる前に、死ぬ気で取りつけろ!あ!そこ紙を破くんじゃない!」
「今日は夜襲があるかもしれないから。夜作業した組は森の中で休憩とれ!日中の組は組上がってない木材をバレないように運べ!」
と、まるで9月2日に夏休みの宿題をすませるようなグダグダ感で見えない部分の工事が続いていた。
「トンカチの音はうるさいし、床板もない城とかありえんだろう…」とみすぼらしい張りぼて城をみながら、兵士たちは不満を漏らした。
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イベントスペース設置のバイトをした事がありますが、立派な催し会場の裏側がこんな感じでした。
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