第38話 軽くて重い戦国の命と豊後の老害たち
(まめちしき)
1553年に大友宗麟は一万田氏・服部・宗像という家臣に逆心ありということで討伐をしています。
1556年に肥後の代官ポジに着いた小原氏がこれまた逆心ありということで討伐されています。
原因は不明です。
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一夜城を築かせてから半月後、個人的に雇った伝達係により肥後から連絡が来た。
一万田たち3名が死亡したという。
「…そうか、やはり歴史は変えられなかったか」
何でも、3人は槍の攻撃などは防げたらしい。
一度戦いが終わって自陣に戻った時に自分の鎧をずいぶん自慢していたという。
だが、調子に乗って深入りし過ぎた。
高所からの落石で頭を潰されたというのだ。
まあ、練皮の鎧は刃物を通しにくいけど、重いものを防ぐ効能はない。一応鉄の補強材は入れていたが60kg位の落石が降ってきたら人間の体の方が保たない。
出陣前に見た少し生意気そうな、俺を小馬鹿にしたような顔を思い出す。
あんなでも豊後のために命がけで戦ってくれた男たちだ。懇ろに弔わせよう。そう思っていると。
「なお、城主が降伏してきたため、親族や家臣の身は保証するのと引き替えにその場で処刑しました」
「何やってんのアイツ等」
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今回の戦いは肥後の混乱を収めるための戦いと言ったよね?
処刑するにしても、何で俺とか八郎君に判断を仰がないのかな?
八郎とベッキーも当然そう思ったらしく、問いただすと「こちらは大将首を3つも取られているのだ」と言っていたという。
自分たちの身内が殺されたのだから、相手の首も取らないと釣り合いがとれない。そういう理屈らしい。
とんでもない事をしてくれた…。
これでは「大友家は降伏しても許さないらしい」とか「肥後のためなどと言っても結局は自分の部下が大事なんだ」などと言われかねない。
とりあえず肥後領主からの信頼は大きく下がっただろう。
「なんで、こんな事を教えてくれなかったんだよ、さねえもん」
「いえ、史実だと相手領主の処遇については特に書いてなかったんですよ」
まあネットも新聞社も無い時代に細かい記録まで残っているわけもないか…。
すると、今回の処刑はイレギュラーな事態だったのだろうか?それとも書かれてなかっただけなのだろうか?
「なんとも判断がつかないですね…」
1556年に小原さんが肥後で反乱を起こしたというが、これって大友家に恨みをもった領主にそそのかされたんじゃないだろうか?
「史実だと大友家とそうでない家の軋轢が原因と言われてます(専門用語で同紋衆と他紋衆の争いと言うらしい)が、このままいくと大友家支配に危機感を覚えた肥後領主の復讐に利用された。という方がしっくりきそうですね」
やっぱりそう思うか、さねえもん。
勝敗は戦いの常。
そうは言うが、自分は傷つかず、相手をコテンパンにして領地を手に入れたいと想うのが戦国時代の武士たちである。
健闘した相手を称えるなんて事はなく「ウチはこれだけ不幸になったのだから、相手も同じくらい不幸にしないと気が済まない」と考える奴がいてもおかしくはない。
命は軽いようで重さがしっかりあるのが戦国の世なのだな。と実感しつつ「これからの肥後統治どないしよ…」と頭を抱えるのであった。
数日後、一万田の親族より死亡の報告があり、葬儀に顔だけ出すことにした。
すると、形見であるはずの鎧がぞんざいに捨てられていた。いや、これ見よがしにズタボロにされて門の脇に置かれていたと言う方が正しい。
所々切り傷はあるが、貫通しているものは一つもない。
うん。やっぱり俺の鎧は刃物に対しては十分な強度を保てたようだ。
その光景を遠めに一万田の親族と弔問客がヒソヒソと話している。どう見ても好意的な目ではない。
先に忍ばせておいた伝達係に話を聞くと
「殿から貰った鎧のせいで息子たちは死んだ」とふれ回っているらしい。
なんでやねん。
あの鎧、見た目はひどいけど穴は空いてないやんか。
圧着した繊維は簡単に切れない。
釣り用のワイヤーは、はさみで簡単に切れないようなものだ。
この時代なら最高レベルの頑丈さである。
なのになんで鎧のせいにされているというのか?
「雑兵の投げた岩で死んだとあっては外聞が悪い故に、彼らは矢で射られて死んだ事にしたようです」
え?それはどう言うことだ?頭をひねっていると「弓取りという言葉があるように、矢は武士の主力兵器です」さねえもんが補足する。
「なので、射殺されたというのは少なくとも武芸の練習をする身分の者から殺された事になります」
それで?
「逆に投石や落石は足軽や農民でも可能です。それでは体裁が悪い。という事でしょう」
ちょっと待て。こいつら殺された相手を選り好みするのか?
そう、混乱していると、親族から色々吹き込まれたらしい弔問客が
「このたびの戦いでは五郎様のお作りになられた鎧のせいで亡くなられたとか…。これからは余計な事はせず、頭領としての本分を全うされなされ」とか、したり顔で言い出した。
本人は全うなアドバイスのつもりらしいが、相手が嘘をついている可能性を考慮しようよ、この単細胞。さすがの俺も謂れの無い中傷には反論するぞ。
「いや。一万田は岩に潰されたと聞いておる。矢よりも恐ろしい武器じゃ。それゆえに…」もっと強い防具を作るか、高所の相手と戦わずに済む方法を考えよう…と言おうとしたら
「五郎様!なんと言われます!」と一万田の親族が抗議してきた。
出たな、デマの発生源。
「事実だ。ワシが科学様のお告げで作らせた防具は弓矢など通さぬ。現に、この鎧には穴が空いておらんではないか」と鎧を掲げて見せた。
腹立ち紛れに何度も切りつけたであろう鎧からは一筋の光も漏れていない。ところが
「いえ、その鎧には穴が空いております。せがれは矢傷がもとで死んだのです」と言う。
「では、どこに穴があるか申してみよ」
そういうと、ものすごい形相で睨みつけてきた。
それでも態度を変えないと「五郎様はせがれを不憫には想いませぬのか?せめて武士らしい最後にさせてやろうというお情けはありませぬのか」と泣き落としに来た。
息子を失って悲しいと言うよりも、自分のメンツを守ろうという魂胆がありありだ。
だが、いくら恨まれようと泣かれようと、一個人の体裁を守るために鎧の開発を止める訳にはいかない。
ここで「五郎様の作った鎧は役に立たない」などと言われれば新技術で作った鎧を着けようという人間が減る。
そうなれば戦場で死ぬ人間が増える。
一万田の名誉を守るためだけに、さらに多くの死人を出すわけにはいかないのだ。
というか、初めから俺に責任を擦り付けようとする、その性根を叩っ切ってやりたい。いくら雇われ大名でもここまでバカにされるとはおもっても見なかった。
正直、偽証罪で処刑したい。
まあ、葬式で波風立てるのも悪いから「おまえのくだらないメンツで他の家臣を無駄死にさせるわけにはいかないし、大名をバカにするな」とオブラートに3回ほどくるんで説明してやった。すると
「五郎様はワシ等一族をバカにしている。侮辱された」などと言い出した。
いや、嘘をつく方が悪いだろ。
おまけに家臣の中には「五郎様は武士の情けというものを知らない」と同調して悪口を言う者まで現れだした。
…………だったらお前らが武士の情けで、事実を認めろよ。
普段偉そうにしているのだから、自分の都合の良い時だけ弱者の振りをするのは辞めてくれ。
家臣の機嫌をとるなら
機嫌をとらない…というよりも正しいことを正しいと言ったら「おまえの言葉に傷ついた。侮辱された。なんて非情な奴なんだ」と自分に都合のいいように被害者ぶられる。
あ、これもしかして1553年の一万田反乱の布石になるのかな?だとしたら、この場で全員処刑しておきたい。
こんなのどっちを選んでも詰んでるじゃねえか。
「私の息子は立派に戦いました!死んだのは五郎様の鎧のせいです!」とわめく親族たち。ハッキリ言って醜悪である。
「お前等のお気持ちに合うように現実を変えさせるんじゃねぇ!」と言いながら目の前でわめく猿たちをガトリング砲をぶち込んでやりたい。今すぐ。
現代日本で働いているときも「年長者を敬え」とかいう訳の分からない理由で自分のミスをもみ消そうとする老害が大分には結構いたが、こいつらの子孫なのだとしたら、未来の大分のためにもここで根絶やしにしておきたい気分である。
働きたてで右も左も分からない時に、税抜き金額を税込みと勘違いした請求書を発行して五〇万円の損害を出した自分のミスを人(というか俺)に擦り付けようとしたK橋という経理のババアとか、色々理由を付けて仕事をさぼったのが社長にばれたら監督のせいにしようとしたW松という職人のクズたちの顔を思い出してそう思った。
(※くどいようですが本作はフィクションです)
性根の悪い老人は甘やかすとつけあがる。
そんな知りたくなかった社会経験を、大名になってまでしたくない。
それで反乱を起こすなら喜んで討伐してやるぞ俺は。
むしろ今すぐ反乱しろ。そのほうが精神衛生上実によい。
…これが歴史の修正力と言う奴だとしたらなんと巧妙な嫌がらせなのだろう。
「御館様、目が怖いです」と隣のさねえもんが注意する。
おっと、いかんいかん。
「とはいっても、これで『宗麟は若造でワガママで自分勝手』なんて言われたら、何もできないよ。なんかアイツ等を黙らせる便利などうぐはないかな、さねえもん」
未来の猫型ロボットにでも泣きつきたい気分だった。
敵と戦っているのに、ガキみたいなメンツにこだわる味方の方が頭が痛い。
史実の宗麟も、こんな誹謗中傷を受けていたのだとすれば、そりゃ大名引退して自由に生きたくもなるし、味方が死んでも「ザマァwww」と言いたくもなるだろう。
(※宣教師の記録だと、もう少しオブラートにくるんでます)
なんか史実の宗麟さんに同情したくなってきた。
「この調子だと史実の通りに進みそうですね」
ぼそり、とさねえもんが言う。
「いや、それはないな」
「どうしてです?」
不思議そうに尋ねるさねえもん。
「たぶんこれは夢だから、悪人を全部皆殺しにすればゲームクリアして醒めるに違いないさ」と明るく言う。
多分、俺がこの時代に呼ばれたのは理不尽なクレーマーを合法的に抹殺する事だったんだろう。今までチートすぎるから制作していなかった迫撃砲とかミサイルを作る方法を思い出しながらどうやってこいつらを駆除するか計画を立てる。
醜い人類は滅ぼせ。ゲームクリア。俺的にハッピーエンドである。
「……笑顔で現実逃避するのやめてもらえます?」
あきれたようにさねえもんが言う。
イヤだー!こんな職場もういたくねえ!さっさと毛沢東とかスターリンみたいに、気に食わないやつや逆らいそうな野郎を粛正して「きれいな職場」にしたいんだ!
ストレスのない職場は暴力によってでしか手に入らないんだよきっと。
結局、一万田鎮実というまともな人間が親族をなだめて謝罪に来たので少し溜飲が下がったが、多分アイツ等、再び同じようなクレーム付けてくるから黙らせる方法を考えないと。
「有能な敵よりも、無能な味方の方が恐ろしいってこんな感じなんだな」
戦争中でも味方同士で争うようなポンコツな味方、だれか引き取ってくれ…
俺は心の中で魂の叫びをあげた。
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経営状態が不味いときに、業績を上げようと社員が協力せず犯人探しをして責任を押しつけるようなクソ会社がある大分よりお届けしました。
一件も仕事を取ってこなかったクセに、偉そうに新人に責任を押しつけようとした営業とか、自分の地位を守るために同僚を売る部長とかロクでもない権力闘争とか見てると、悪者にされたトップというのは、どうも素直に受け入れがたいものがあります。歴史って生き残った奴らが書きますからね。
なお今回の話で一万田と遺恨を残させたり、史実宗麟の苦悩を描いたりする予定は一切なかったのですが、何故か入力の段で思いつきました。
はじめ「こうしたら話の進みがコントロールできなくなる」と想ったのですが、何故か綺麗にオチがついたのでびっくりです。
もしかしたら何かが取り付いて書かせたのかもしれません。
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