第7話 株式会社大友組 社長……の息子 大友宗麟
「おやおや、御屋形様が大変な時に別府での湯治とはさぞ楽しかったことでしょう」
船で府内にきた俺に出迎えた人間から言われた言葉がこれだった。
一応、宗麟はここ豊後の大名の息子で、ネットとかだと若い時には好き勝手やった乱暴者で、人によっては京都にまで行って女あさりとかしてたなどと言われた人間だけど、実態はどうも違うらしい。
俺は船上でさねえもんから言われた事を思い出していた。
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「いえ、大友宗麟になったのなら天下統一は無理です。諦めてください」
「えー」
いきなり試合終了宣告をされた。
あきらめたらそこで試合終了なんだよ?さねえもん。
だいたい、さねえもんから聞いた話だと大友家は意外と人材がいる。
九州一の知恵者に軍神、外交上手に調整役までいるらしい。
さらに
これに歴史知識と現代チートまで加われば敵なしなんじゃないだろうか?
そう思ったのだが、さねえもんは首をふる。
「九州の統一には3つの問題があるんです」
「問題?」
「今まで鎌倉、室町、江戸と三つの幕府がありましたが、九州で単独の勢力が統一したことは一度もありません。これは何故だかわかりますか?」という。
うーん…………………わからない。
四国は長宗我部が統一に成功した。
中国地方は毛利や大内が良いところまでいった。
九州も島津家が7割まで支配したことがあったらしい。
「でも統一には失敗しました」
と、意味ありげに言う。
うーん。何でだろう?
「これはまあ、口で説明するよりおいおい実感できるでしょう」
という。
えー。気になるじゃん。おしえてよ、さねえもん。
「まあヒントとして、1つは山が多く、交通が不便な点。2つは大友家は長い歴史をもつため官僚制度が整っている点。3つ目は大友家当主は雇われ大名な点です」
もっとわからないぞ!
官僚制度が整ってて何が悪いのか?それに雇われ店長とはどう言うことなのだろう?
俺が頭をひねっていると「では3つ目の雇われ大名という点だけ」と前置きして
「大友家は約50年前、1496年に実当主と前当主の父子が殺し合って二人とも死に、跡継ぎがいなくなりました」
「はい?」
…親子で殺し合って家を滅亡させるなんて、馬鹿なの?
「そこで部下たちが前当主の兄弟を新しい当主を選んで、国を維持したという歴史があるんです」
「ほうほう、それで?」
「つまり新しい当主には正式に相続された部下や領地が無かったので、家臣たちの力が非常に強くなり、大友家当主と言うのは名目上のまとめ役。つまり御神輿みたいな状態だったんですよ」
さねえもんが言うには、宗麟の父親と側近は大友家の力を強くするために他の家臣の力を削るという初期の江戸幕府の様な政策をしたために怨まれて殺されたのではないか?との事である。
何でも大友義鑑という人は4つの家を粛正して家の長を殺しているらしい。
佐伯、朽網、大神、日田、高瀬…史料に残っているだけでこれらの大友家臣が讒言や謀反の罪で粛清されたという。そのうち2つは冤罪だったと記録され後に家を復興されているらしい。真っ黒すぎませんか?大友家。
「まあ、部下の方が力を持ちすぎてもまずいですからね」
当主になれたのは家臣のお陰だけど、当主として強権を振るうには家臣が力を持ちすぎるとまずい。そこで領地を召し上げるために無体な事をされたのではないだろうか?というわけである。
「さらに言えば、宗麟の父親、義鑑は宗麟へ家督を譲る引き継ぎをした形跡がみあたりません」
ということは?
「今の宗麟さんの立場は『何の引き継ぎもなければ役職にもついてない、たまに職場に顔見せに来た事のある社長の息子』といった感じですね」
「……その状態で大名になれる可能性ってどれくらいあるん?」
「まあ血統主義が残っているから、宗麟が跡を継げば『みんなが納得しやすい』という利点はあります」
「逆にいえば、それくらいしか利点がないのか…」
ついでに言えば、株式会社だと株数の多い人間に発言権があるが、この時代は兵数。
暴力こそが発言権の元となるらしい。
ベッキーはこちらの味方になってくれるだろうが、他の領主は見返りも無しに協力してくれるとは思えないのだと言う。
「つまり、俺も家臣にとって都合のよい雇われ大名にならないと、大名になれない可能性があるってわけか…」
「今の宗麟さんは跡継ぎに指名されたわけでも、大多数の兵力を持つわけでもないですからね。よからぬ輩が三国志の献帝みたいに傀儡にしようとしたり、下手をすれば、自分が当主になろうとする可能性まであります」
それはひどい。
大名自体やめても良いですか?
「止めはしませんけど、新しい当主から最悪殺されるかもしれませんよ?」
あ、そっか。不満を持った人間が新しい当主に担ぎ出す恐れがあるのか。
詰んでね?これ。
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こうした楽しい戦国ライフのお話をして、屋形に向かった先でもらったのが冒頭の言葉だった。
どうやら宗麟の立場はそこまで安泰と言う訳ではなかったらしい。
俺に嫌みを飛ばしてきた、この『ひょろっとした神経質そうな痩せ男』も大友家の当主になりたいのだろう。
といっても、この男が誰なのかわからない。
「失礼ですが、どちら様でしたでしょうか?」
わからないなら聞くしかない。だが、痩せ男はお気に召さなかったようで
「右京だ!服部右京!貴様は叔父の顔も忘れたのか!」
残念ながら、そんなマイナー武将聞いた事がない。
「さねえもん。服部さんってだれ?」
「3年後(1553年)に反乱を起こそうとしたという事で討伐される人にそんな名前がいたはずです」
「なにそれこわい」
何でも大友家で服部という姓は非常に珍しいらしく、どこの一族で先祖は誰なのか一切わかってないらしい。
「江戸時代に豊後から山口に流れた人の記録だと、宗麟の母方の叔父にあたる人という記述があります。…ただ、内容が一部信じられない部分があるんですよね」
なんでも大友義鑑の奥さんである大内義隆のお姉さんは浮気症で、都から来た役者とかと恋に落ちたため実家に送り返されたとあるらしい。
それでは体裁が悪いので奥さんの侍女を代わりに妻とさせたとか、その侍女の母親は「今の天皇の子供を身ごもった後に服部家の妻として与えられそこで女子を生んだ」…つまり宗麟の母親は天皇の娘だった。とか書かれているらしい。
「うさんくさいなぁ…」
「まあ天皇の話は置いとくとして、服部家の記録が大分ではほとんどないのは山口の家で、お姉さんが大友家に嫁いだ縁で豊後に移住したのかもしれません」
失礼だが、この男をみてるとろくでもない親戚が勝手に居座って好き勝手やっているようにしか見えないな…。
まあ、こういう理不尽な敵意を持つ奴は腹に二発ほどパンチをぶち込んで格付けをしとけ。という塗装会社の社長(荒くれ者10人を束ねていた)のアドバイスに従っておくか。
「この時代でも犯罪ですのでやめてください」
そんな俺たちを見て
「お前がゆるゆると湯治されておる間に、ワシは逆賊討伐の軍を用意したのだぞ」という。
「逆賊って、この上原屋形で討たれたんじゃないの?」
「この時代、反乱は一族にも罰が下りますから臼杵市の田口と津久見市の津久見にいる家族を指すのでしょう」
ろくでもない制度だな。
聞けば田口はそこまで兵も持たないと言う。
弱者をいたぶって点数稼ぎをしようというのが見え見えらしいのだが、逆賊討伐自体は筋が通っているらしい。
服部は勝ち誇ったように兵士たちに指示を出す。
「田口の方は石見守と和泉守、与一郎に松枝という娘の4人の首をあげるまで戻らぬ覚悟で行け」
うわぁ…女性までいるのか。おまけに●●守とかついてる偉そうな人だけでなく、一般人っぽい名前までかよ。
「与一郎というのは元服した後に貰う仮名(けみょう)というやつですね」
この時代、義鎮などの本名で呼ぶのは失礼にあたるそうなので五郎のようなあだ名か課長とか部長みたいな役職名で呼ぶのが一般的だったらしい。
「ちなみに、その与一郎さんって何歳なの?」
「元服したばかりで討たれたはずだから10歳位です(※諸説あります)」
「こんの 腐れ外道が!」
気がついたら服部の右頬にビンタをかましていた。
「……やっちゃいましたね……」
さねえもんが「あちゃー」といった顔でつぶやいた。
…いくら源頼朝の話があるとはいっても10歳の子を連座で殺すのは人としてどうかと思う。というか連座自体どうかと思う。
服部とかいった男は尻餅をついて呆然としていたが、自分が何をされたのか理解するとけたたましい声で「この私を誰だと思っている。おそれ多くも今上陛下に連なる血のだぞ!」とか言い出した。
「だから?別におまえは皇族じゃないんだろ」
話を聞く限り皇族なのはおまえの姉さんだけだろ。それなのに何を勘違いしてるん?この男は?
そう返すと信じられ者を見たような目でくちをパクパクさせながらすさまじい形相でにらんできた。
「……これ、ほぼ謀反確定しましたね」
その前に、当主になれたら…ですけど。と、さねえもんが俺のやらかし(暴力、勝手な兵への命令など)を指折り数えながら諦めたように言った。
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1553年に反乱を起こそうとして成敗された服部氏は、どんな人物か分かってないので大友氏の宣伝小説を目指す本作ではエンタメ小説として自由に設定させてもらいます。
5年間色んな史料探しましたが、当時物の書状は3枚しかないのだから仕方ないですね。
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