第3話 1550年2月10日 府内上原館 史実;二階崩れの解説
「やっぱりあの時の方でしたか」
落ち着いた様子で元少年が俺を見る。
「どうやら、ここは1550年の別府のようですね」
少年は言う。
記憶を照合すると我々は1550年2月10日深夜にいるらしい。そして俺は大友五郎義鎮(おおともごろうよししげ)、後の大友宗麟になるのだという。
「先ほどの会話を聞けばおそらく二階崩れの真っただ中なのでしょう。仮に神様と言うのがいて九州で何かを起こさせるなら、間違いなくこの日に移動させるはずです。もしもそれ以外の日を選ぶなら、よっぽど製作者はひねくれているか限定された時代を書きたいにちがいありません」
と、まるで異世界転生を何度もしたかのようなメタ的な発言をする。
なお少年は大友家臣の一人、斉藤鎮実(さいとうしげざね)という名前らしい。
「今回の騒動で義鑑公から手打ちにされたと言われる、斎藤播磨守の息子ですね」
初めて聞く名前だ。
なんでも大分市丹生(にゅう)の領主で、一時は家老だった事もある、いいとこのお坊っちゃんらしく、それで宗麟と一緒に居たのだろうと言う。
「実際は鎮という名は当主から与えられるものなので、このころは役職名、兵部少輔とか呼ばれていたそうですけどね」(大分県先哲叢書 大友宗麟83号)
なんか、ややこしいな。
名前の一部をあげるから鎮実と呼ぼうか。
「だめですよ。名付けは当主の仕事です。お父上がご存命なのに勝手に当主の仕事をしたら「若君が当主の座欲しさにお父上たちを殺害した」と言われかねません」
ええー。そうなのか。厳しいんだな。
じゃあ、親しみを込めて「さねえもん」と呼ぶことにしよう。なんか官位っぽいし。困ったときに呼びやすいし。
「断固拒否します」
0秒で拒否された。
周りの人に確認すると、日時は2月10日。襲撃も起こったのは確定らしい。だとすると俺たちはどう立ちまわるべきなのだろうか?
というか二階崩れの変ってどんなお話なのだろうか?
おしえて、さねえもん。
「・・・・・・本当にこれが戦国時代なら、この2・3日後に父親の大友義鑑公は死亡し、若君が当主となるはずです」
と前置きして語り出した。
【1550年2月10日 府内上原館 史実;二階崩れ】
大分市の上野丘高校の近くの高台に上原館と呼ばれた大友家の館があったという。
ここに居住していた豊後大友家の20代当主 大友義鑑(よしあき)が部下に生害された。つまり刀で斬られたらしい。
「原因は江戸時代の小説だと『後妻の息子に跡を継がせようとしたのに反対して殺されそうになったから』とか『家臣との争いで義鑑が斎藤に小佐井という人間を殺害したので同僚だった2人が危機感を覚えたから』と書かれてますが、実際の所はわかりません」
「え?大名家のお話なのに分からないのかい?」
昔から日本では謀反の理由と言うのは記録される事が珍しいらしい※
「そうか…。まあ下手人は成敗されたって言ってたし、ここにいれば安全なんだな」
「でも、反逆者たちの親類が自暴自棄になって若君の命をねらってるかもしれませんし、昔冤罪で改易された大神一族の家臣が復讐に襲ってくる可能性もあります」
「困るよそれ!」
なんでも十年くらい前に、大友義鑑は讒言で今の速見郡日出町の領主だった大神氏を館に呼び寄せ騙し打ちし、領地を取り上げたらしい。
『殺された殿さまのカタキ!』と襲われても仕方ないという。
ちなみに『城下かれい』で有名な日出は別府湾を挟んで10kmほどの距離である。日中なら肉眼で家々が見える別府の御近所と言えるだろう。
ついでに2年前の1548年には日田市の高瀬氏も謀反の疑いありと言う事で討伐されたそうだし、他にも佐伯、朽網と犠牲者がいるらしい。
殺し過ぎである。
こりゃ「次は自分の番かも」と思って、先に襲撃しようと考える人間がいても不思議じゃないなぁ。
そんなことを話していると北の平地に松明の火が見えた。
「なあ…あれ、日出の方面だよね」
「ええ、ちょうどお話した日出の方面ですね」
互いに顔を見合わせて、あははははと笑う。
やばい、嫌な汗が背中からダラダラ出ているのを感じる。
20か30だろうか?どちらにせよあの人数から襲われたらひとたまりもないだろう。
「もしかして、あれが反逆者かな?」
だとしたら、俺の命はここで終わりだ。そう考えると心臓がキリキリ痛くなってきた。
警察もスマホもない無法地帯。
急にココが危険な場所だと自覚する。
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※くじびき将軍を殺害した赤松氏も殺害の理由は不明で、大友興廃記の場合娘を殺されたからとか書いてますし、織田信長を裏切って自分以外の一族を皆殺しにされた荒木村重はその後豊臣秀吉の家臣になりますが、結局謀反の理由は語られておらず現代でも諸説あるありさまです。
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