3.クイン、Loveモード
もうすでに新婚夫妻のようにして一緒に住んでいる新居に帰宅。エミリオも定時で終業できたようで、藍子が夕食を支度しているところで帰ってきた。
夏の制服姿の彼に、藍子は今日、海人と一緒にアメリカキャンプのハイスクールへ出向いたことを伝える。
すでに、いつものシャツとパンツ、エプロンのスタイルになっている藍子は、帰ってきたエミリオに、湊からの招待状を手渡した。
そこで海人の功績であることも伝える。
あっさりと出席を決めた理由も伝えると、エミリオも仰天している。
「え、あのコンビニに行くならと承知してくれたのか」
「それだけじゃなくて。お父さんとお母さんと一緒のお部屋も嫌だったみたい。イチャイチャすんなとか言っていたのよ……。年頃だとわかっていても、なにが気に入らないか、そこまでは考え及ばなかった」
エミリオが黙り込んでしまった。心なしか、ちょっと気まずそうな顔をしているように、藍子には見える?
「いや、それを聞いて。俺も身に覚えがあるっていうか」
「え! エミルが、子供だった時にってこと?」
「うちの両親は、いつもくっついているだろう。ところ構わずキスもするし。いまはまあ、好きにしてくれと俺も平気になったんだけど。湊ぐらいの年齢の時におなじことを思っていたんだ。イチャイチャすんなって怒鳴ったことが何度もあって、近寄りたくなかったというか……」
「えーー! 信じられない。だって、エミル、いまは本当に弦パパもエレンママも大事にして大好きじゃない」
「だから。大人になったからだろう。そうか……、湊もおなじなのか、気がつかなかった」
あの年齢特有のものなのかと、藍子も理解した。
海人も『ほんとあれ、嫌だよなあ。別のところに泊まってくれて助かった』なんて、説得のためのはったりなのか本心なのかわからないが、男の子はそんなことを少なからず思っている、思いつくものだと初めて知った気がした。
しかも両親を大事にしているエミリオですら! お年頃の時に身に覚えがあるということらしい。
「ん? 待てよ? 確かに銀次さんとメグは仲が良い夫妻だけど、つまりは、自宅で子供の目に触れること平気でやっているってことか」
そういうことになるのかと、藍子も初めて気がつく。
仲睦まじい夫妻というのは、よく聞く話だが、自宅内でどれだけお熱い触れ合いをしているかは、人目に触れないようにするもの。だが子供には知らず知らずのうちに見せてしまっているものなのだろう?
「これは、銀次さんに伝えるべきかどうか迷うな。オレンジのコンビニと千歳のイーグル目当てと、両親と一緒にはいたくないお年頃だっただけと、誤魔化しておくか」
「そうだね……。もしかすると、お父さんとお母さんを二人きりにしてあげようという気遣いかもね」
「それは、あるかもな。俺はなかったけど。ほうっておいたら勝手にいちゃいちゃしていたからな」
そんな気遣いもしない十代少年だったと聞いて、藍子は苦笑いをこぼす。そんな戸塚少佐、想像ができない。でも夫になるエミリオから、こうしていろいろな面を知っていくのも、妻になるからだろうなと、美瑛冬休みからずっと感じている。
「あと一ヶ月だが。その前に、短期の海上任務が入っているから、それに行かないとな。残りの忙しい準備を藍子に任せきりですまない」
エプロン姿の藍子へと、制服姿の彼が近づいてくる。
黒髪に触れる彼の手からはもう、いつものトワレの香りがする。
麗しいブロンドの彼が、そっと藍子の額にキスをしてくれた。
「大丈夫だよ。なんか知らないけれど、瑠璃が頑張ってくれているみたいで……」
「知ってる。双子が必死に、俺に見つからないようになにかを隠して行動しているな」
額だけで終わらず、エミリオはさらに藍子の耳元の黒髪を除けながら、耳元にもキスをしてくれる。
シャボンの香りと彼の唇の感触にうっとりしながらも、藍子はそのまま続ける。
「そうなのよ。海人もサポートしているみたいで、教えてくれないの。目に見えているけれど、しらんぷりしてる」
「俺もだ……」
なんていいながら、エミリオの唇が藍子の首筋に移っていく。
「エミル……。あの、ご飯、もう仕上げなくちゃ」
「あ、いけない。……なんかな、また海上に出ていくから、その前に藍子をたっぷりと補給しておきたいと、焦ってきたというか」
そう言われるだけで、藍子はいまでも頬が熱くなる。
まだ式も挙げていなければ、入籍だってしていない。なのに大きな新居に移って半年以上たつし、すっかり新婚みたいな生活に馴染んできている。
好きな時に肌を重ねているし、休日なんか二人一緒に離れることはない。
さらにエミリオは雷神に移動してから、任務へと海上へ旅立つ前になると、藍子を求める夜が多くなる。さらに帰ってきた後の数日も激しい。
その期間に入ったのだと思った。
その通りに、真面目に夕食の支度を帰宅後から頑張っているのに、いつものシンプルなシャツにパンツスタイルにエプロンをしている藍子を、ブロンドの彼が翠の目で、じっと熱く見つめている。
「もう、なに。エミルったら」
「藍子はシンプルな服ほど、そそるというか」
どうやら、もう目で藍子を脱がしているようだったので、びっくりする。
でも藍子も諦める……。もう、そういうエッチモードに入っちゃっているんだわと。
「ドレスも楽しみだな。藍子のことだから、ふわふわしたドレスじゃないんだろうな。シックで大人っぽい……かな。はあ、楽しみだな」
「……当日のお楽しみ」
「そうだな。今夜のお楽しみも、食事の後だな」
さらに頬にもキスをされて、最後に藍子のくちびるに、彼の唇が重なった。そうなるともう、エミリオの手は、藍子の肌を探している。シンプルな白シャツ、自宅だから襟元を広く開けているそこに、シャボンの香りがする手が滑り込んだ。藍子の鎖骨のあたりにある肌を、愛おしそうに撫でながらも、彼の深いキスがさらに強く、藍子を吸っている。
エミリオの肌から、さらにシャボンとアールグレーのあの香りが強く立ちこめた。
藍子ももうクインの熱愛の泉に引きずり込まれそうになる。夏制服のシャツを握りしめて、もうエプロンを外して、彼にシャツを脱がしてほしくなる。
だが彼がハッとしたように、急に藍子から離れた。
「あ、俺も絶対にやばいよな。男の子が生まれたら、十四歳ぐらいに要注意だな」
自分もイチャイチャ気持ち悪いオヤジにならないように、なんて、いまからそんな心配をするエミリオに、藍子は笑ってしまった。
訓練と研修を兼ねたパトロールの海上任務が来週から、一ヶ月ほど。
その任務から帰還したら、藍子とエミリオはそろって夏の長期休暇に入る。
同時に、小笠原で招待をしている上官に同僚、後輩、その一家と共に、美瑛へと向かう打ち合わせになっていた。
エミリオが航海に出発して少ししてから、瑠璃からまた連絡が来る。
お姉ちゃん、ラベンダーのつぼみがついたよ。
もうすぐ、美瑛へ行く。
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