39.ユキナオ、シンクロ
ソニックオーダー、演習完了。
その翌々日に、雷神、サラマンダー、ジェイブルー、ソニックオーダー演習に参加したパイロットのみ集合の飛行隊三隊合同のミーティングが開かれた。
その時になってやっと、オーダー主である大隊長の城戸雅臣准将が現れる。
それぞれのフライトスーツ姿で集合をし、雷神のゴリラ、フジヤマ、イエティ、ブラッキーの四人が共に座っている。雅幸と雅直が不機嫌そうな顔で肩を並べて座っていた。
エミリオも濃紺ダークネスなフライトスーツ姿で、サラマンダー部隊で参加した銀次と、指揮をしてくれた鈴木少佐、隊長のクライトン中佐と並んで座っている。
その銀次が雷神のほうへと視線を向けながら、エミリオに耳打ちをしてきた。
「英太さんに聞いたんだけどさ。あいつらも誓約書を交わしたうえで、ソニックオーダーの後に、あの資料映像を視聴閲覧したってさ」
「そうでしたか。しかし、あれを知っておかないと、今回の演習の意図が通じないとは思っていたので、今日のミーティングでどう諭してまとめるのかと思っていましたよ」
「んで。自分たちだけ試されて、エレメントリーダーにも騙されていたと知って、昨日から不機嫌なんだとよ」
「なるほど」
だが、雅幸と雅直なら、いまは腹立たしくてもその真意を噛み砕いて、誰よりも理解できるパイロットだとエミリオは信じている。
もう少し離れた席には、コバルトブルーのフライトスーツ部隊、ジェイブルーのパイロットと指揮官がいる。
藍子と海人が穏やかな表情でひそひそと会話をしているのが見えて、エミリオもホッとする。時々、先輩の菅野大尉と城田中尉が海人をからかって楽しんでいる姿も見え、それをおおらかに見守ってあははと笑っているだけの岩長部隊長も一緒だった。
「諸君、私の無理なオーダー演習をこなしてくれてご苦労だった。成果は充分だったと実感している。だが、ここで上官や先輩である者にもよく考えて欲しいと同時に、このようなケースに遭遇した時に、実践能力は高いが、まだ判断には心許ない若い隊員をどう牽引していくか、また、若輩である隊員自身がどう覚悟を持つかを知ってほしかったためである」
ソニックオーダーの趣旨は、演習を『仕組む側』だったアグレッサーと、雷神のベテランパイロット側ではわかっていたことだった。
だが『仕掛けられた側』の双子は、当日、肝を冷やす展開に陥れられ、そこにまんまとはまったことを知って、気持ちが良くないのだろう。
そんな双子へと、叔父でもある城戸准将の鋭い視線が向けられた。
いつもおおらかで親しくしている叔父さんが、ソニックとして権威を見せつける瞬間。さすがに不機嫌だった双子の様子が一変し、軍人らしく姿勢を正し神妙な表情に整った。
「さて。ここで、その若手であった城戸雅幸海曹と城戸雅直海曹のふたりに問う。指揮にある管制上官の判断と、上官にあたるエレメントリーダーの指示に従わなかったのはなぜか」
叔父ではない、大隊長の顔で問われ、双子が顔を見合わせる。
眺めているエミリオだが、彼らが言いそうなことがわかってくるし、きっと二人揃っておなじ思考で返答だと思っている。
「イエティ、雅幸から答えよ」
ユキから立ち上がり、大隊長でもある叔父の問いに神妙に答えた。
「せめて自分ひとりでも、たとえこの後、懲戒がありコックピットに戻れなくても、本番でも自分はやると思いました。いつまでもファイターパイロットでいたいがための保身など意味がありません。防衛してこそ、護ってこそのファイターパイロットです。あそこでクルーを見殺しにするぐらいなら、なにもできないのなら。その後すぐに自分は軍人を辞めます。だとしたらおなじです。辞める覚悟で護る方を選びます」
「ブラッキー、雅直はどうだったのだ」
「兄とおなじです。兄が残ればそれで良いし――」
そこで弟のナオが黙ったが、少し迷った後にこう告げた。
「いえ、兄のイエティも来ると思っていました」
「自分もです。たとえ一人でもとは思いつつも、それよりも、弟のブラッキーも必ず来ると思っていました」
誰もが予測はしていたことであって、でもまざまざと双子の不思議な意思疎通を見せつけられた瞬間でもあった。
彼らは互いにおなじ決断をすることを判っていたのだ。それもあって決意に加速がついたのかもしれない。
「ほらな。俺たちも気をつけておかないと、双子の奇妙な決断で、責任をとらされるかもしれないぞ」
そしてエミリオは、ソニックオーダーのもうひとつの意図を突きつけられた。
新しくこの双子のリーダーとしてやってくる銀次とエミリオに『この双子はこういうこともするから肝に銘じておいて欲しい』という現実を体感させてくれた演習でもあったのだ。
双子の毅然とした返答は、いつもの子供っぽい彼とは異なった。だがエミリオが聞いても、それは至極真っ当な意見だとうなずける。自分でもそうする。ファイターパイロットの意義はそこにある。迷っている間にとんでもない結果を生み出す。どちらにしても悔いるなら、被害を抑える選択をする。
だが、思う。雅直がこうもはっきり言いのけられるのは、あの資料を視聴閲覧したからだ。まさに現場でその選択をした艦長がいた。あの資料の存在を知れば、自分たちの選択にスタンスは間違っていなかったと自信を付けるだろう。
ただし、リスクをわすれてはいけない。御園少将がそうであったように。その場を立場を去る覚悟があるかということだった。
雅臣さんはそのことをしっかりと、勇猛果敢な甥っ子ふたりに刻みつけたかったのだと、エミリオは思っている。
そんな双子と共に、海へ出る前に。そんな気持ちを覚えた彼らを城戸准将が、新しい飛行隊長に預けるための儀式だった気もしたエミリオだった。
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