2-4.パーティ~
朝食を終えたアルス達3人は、受付嬢のシルフィーさんに今後のことを相談することにした。
「あ、あの~クーガーさんが受けてたのは?」
シルフィーさんの淀みのない説明に付いていけてないのか、アルスは慌てて質問をした。
「クーガーさんが受けていたのは討伐対象が指定されたものです。魔物の生息域を熟知していたり、あの闇狼みたいに優秀な猟犬がいる場合は前者の方が効率がいいといえますが、みなさんの場合は後者のエリア指定型がいいと思います。エリアごとに生息している魔物はギルドでもある程度は把握しているので、比較的安全ともいえます。もちろん油断は禁物ですよ!」
「は、はい!解りました」
必死に話を聞いていたわりに、アルスが理解できたかは怪しいが、汗をかきながら返事をしていた。
「あと、アルスさんとミヅキさんは冒険者LV3ですが、アスカさんはまだLV1しかありません。今のままですと同じ依頼を受けることが出来ないのですが、3人をパーティとして冒険者ギルドへ登録することで、一緒に冒険者LV3向けの依頼を受けることが可能となります」
どうやら、受けられる依頼には冒険者ランクだけでなく、レベルも関係するようだ。
「え…………とそれは?」
やはり、アルスは理解出来ていないようだ。
「つまり、パーティとして依頼を受ける場合は、所属メンバーの中で一番高い冒険者LVが、そのパーティの冒険者LVとして適用されるということでしょうか?」
代わりにミヅキがシルフィーさんに確認をする。
「その通りでございます」
「わかりました。アルスちゃん。パーティ登録していい?」
「うん。いいよ」
ミヅキに促されるまま、アルスは同意した。
「それではパーティ名とリーダーを決めてください」
「う~んそうね。パーティ名は金色の天使で、リーダーはアルスでいいわ」
これまで黙っていたアスカが、率先して、しかも独断で決めた。
「……」
アルスは困ったような顔をしていたが、ミヅキはニコニコして頷いた。
「承知しました。それではパーティ名は金色の天使。リーダーはアルサスさんで登録いたします。手続きには冒険者証を使用しますのでお預かりします」
『金色の天使って、アルスの事かな?』
こうして『金色の天使』は結成された。
魂である俺にだけ見えるスタータスウィンドウにも、パーティ名として『金色の天使』が表示された。
そんな和やかなムードの中、忘れ去られていたあの男が現れた。
『……クーガーさん。じゃないよ』
背中に大きなバトルアックスを括り付けた、山の様に大きな男、如何にも悪臭がしそうな男、ギガンが冒険者ギルドに入ってきた。
後には痩せこけた男がクロスボウを背負って控えていた。
「おう、なんだ良い尻をした女がいると思えば、アスカ嬢ちゃんじゃないか。いや、もう村はないから、ただのアスカちゃんか。ガハハハハハ」
「お前は!」
下品な顔をしてアスカの体を、上から下まで嘗め回すように見ているギガンの前に、ブロードソードに手を伸ばしたアルスが立ちふさがった。
「なんだ、だれかと思えばハーフエルフのガキじゃね~か。まさか生きていたとはね~。かーちゃんはどうした?あのケツは気持ちよかったぜ~。ヒヒヒ~、ジュル」
何を思い出しているのだろうか、ギガンの顔はさらに醜く歪み涎を垂らしていた。
「そこまでにしてもらいましょうか、ギガン!いくらあなたでもギルド内で騒ぎを起こせば、ただでは済まさないわよ」
そんな時、突如、受付の横にある階段から、タイトスカートをはいた女性が腰をくねらせながら降りてきた。
髪を結いあげ、眼鏡をかけた目は冷たく輝いている。
まるでスパルタ女教師の様だ。
「けっ、ギルマスさまのお出ましかよ。俺はただ新人冒険者を可愛がってあげようと思っただけさ。なぁ!」
ギガンはアルスを見下ろしながら威圧してきた。
「そう、それならこの子たちは冒険者ギルドが責任をもって教育をするから、もう関わらないでちょうだい」
「は~~なんだかやる気が失せちまったぜ、今日は飲むとするか。いくぞ」
ギガンは悪態をつきながらも、アルスを一睨みしたあと、痩せた男を引き連れ、逃げるように冒険者ギルドを出て行った。
2階から現れたギルマスと呼ばれた女性は、アルスの間近までくると、指先でアルスの首から顎までをなぞった。
「うふふ。私はルミーナよ。坊やお名前は?」
そして先ほどのまでの冷たい表情とはうって変わった、妖艶な笑みを浮かべてたずねた。
「アルサスです」
「そう、かわいいわね。アルサス君」
アルスは真っ赤な顔をして答えた。
「うわ、わっ、なんですかあなたは」
今度は、アスカが慌てて二人の間に割って入った。
「私はここ、冒険者ギルドのマスターよ」
「え、ええええ。し、失礼しました」
ルミーナさんが真冬の冷気の様な、冷ややかな瞳でアスカを見下ろすと、アスカは平謝りした。
ミヅキはどうしていいかわからず、アワアワしている。
「シルフィー」
「は、はい」
ルミーナさんに呼ばれた、受付嬢のシルフィーさんも珍しく緊張していた。
「この子たちの面倒はあなたが専属で見てあげなさい」
「はい。わかりました」
そしてルミーナは2階へと、肉好きの良い腰を振りながら戻っていった。
「ふ~、一時はどうなることかと思いました」
シルフィーさんは、額の汗をぬぐった。
「凄い人ですね」
「そ、そうですね。しかもルミーナ様はグラハム男爵家のご息女ですので、くれぐれも失礼の無いようにしてくださいね」
茫然としたアルスの感想に、シルフィーは苦笑いしながら、さらなる驚きの事実を伝えるのであった。
その日、アルス達のパーティは、シルフィーさんのお勧めエリアで、一角ネズミを2匹と、大きな丸まった角を持つ角猪を一頭だけ狩ることに成功したが、クーガーが一緒の時の様には上手くいかなかった。
狩りの時間効率も悪かったが、それ以上にメンバー間の連携を取ることがまったく出来ていなかったのだ。
そして今日の報酬では、3人分の宿代と食事代を賄うことは、とうてい出来なかった。
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