2-3.儚い夢~
街へ向かったアスカとミヅキを待つ間、アルスは大勢の女性達に囲まれて幸せそうに生活していた。
ミエコさんとマリナさんは言うに及ばず、若さが溢れ輝いている7人娘までもが、争うようにアルスの面倒を見ていた。
『あれ?この娘達ってこんなに輝いてたっけ?というか美女ぞろいだったけ?』
最後に俺と結ばれた、藍色の髪をした娘だけは、相変わらず控えめで目立たないけれど、残りの6人の髪は輝きを放ち、色とりどりの花が開花し咲き誇っていた。
この辺境の地に、一夜にして7人組のアイドルユニットが誕生してしまった。
まさにそんな状況だった。
『これもミエコさんの魔法だろうか?』
ちなみにレーダーに映るマリナさんと7人娘の光点は青色に変わっていたが、ミエコさんは黄色の光点だった。
『ミエコさんだけは、なかなか手ごわそうだ』
…………
…………
…………
そして平和な昼の時間は過ぎていき。
ついに俺の待ち望んでいた、大人の時間がやって来た。
ピークを迎えた女盛りの女性2人と、新生アイドルユニットの7人組に囲まれる至福の時が!
焚火の爆ぜる音、むせるような酒と女の香りが俺の鼻をくすぐる。
俺は固唾をのんで、アルスが眠りに落ちるのを待ってたい。
「はぃ、あ~んして」
「あーん、もごもご、おいしい」
ガラガラガラ
遠くから迫りくる馬車の音。
「ヒヒーーーン」
近くでいななく馬の声。
『うん、これはダリルだな。って、早!』
「アルス、おまたせ」
黒毛の牡馬に跨ったアスカが、赤く燃えるよな輝く髪をなびかせながら、颯爽と現れた。
「あ、アスカ姉ちゃん。おかえり。ふぁあ~あ」
『いや、いや、待ってないから』
遅れて馬車の御者台に乗った黒髪の美少女、ミヅキが現れた。
横には黒い鬣に赤毛の仔馬、アレックスの姿もあった。
「アルスちゃん。大丈夫だった?」
「うん。だいじょ~……」
『おやすみ、アルス』
さてと、どうしたものか。
さすがに俺は、まだ幼い少女二人がいる前で破廉恥な行為に及ぶわけにもいかず、この日は大人しくすることに決めた。
…………
…………
…………
次の日の朝、アルスは顔を舐められて目を覚ました。
「ふぁ~、くすぐったいよ~」
横を向くと黒い鬣をした仔馬のアレックスがいた。
どうやらこの子がアルスを起こしたらしい。
そしてその後ろには赤毛の牝馬がいた。
「あ、良かった。無事だったんだね」
アルスはピョンと跳ね起き、赤毛の牝馬の首に頬ずりした。
牝馬も嬉しそうに前足を動かしている。
早速、アルスは馬たちの世話を始めた。
「アルス、おは……。おまえ!」
起きてきたアスカは、赤毛の牝馬に駆け寄りると、馬の首に強く抱き着いた。
村がゴブリンの襲撃を受けてから、赤毛の牡馬はアスカと共に行方不明になっていたのだが、無事だったようだ。
『これで、少しはアスカも元気になるかな』
…………
ミヅキが乗ってきた馬車には、女性物の古着が満載されていたらしく、救出された女性達はアマゾネスから、朝には普通の村人に戻っていた。
例の7人娘も、ただの美しいだけの村娘に戻っていった。
『はぁ、儚い夢だった』
俺のつかの間のハーレム生活はこうして幕を下ろした。
…………
…………
普通の朝食の後、幼い子供たちを馬車の荷台に乗せ、全員でミゼアの街に向けて出発した。
昨夜、アルスが寝ている間に、アスカとミエコさんが今後について話し合いをした結果、全員でミゼアの街に行くことにしたそうだ。
ミエコさん達は男手を失ったまま、村に残っても生活することは厳しいと判断したのだろう。
当面は、教会の孤児院に子供たちを預かってもらい、女性達は仕事を探すらしい。
あと当座の村人たちの生活費は、アスカとミエコさんが出すことになっていた。
どうやらミエコさんの指輪も魔法のカバンだったようだ。
ワインもそこに入っていたんだろう。
ミゼアの街に着いた一行は、真っ先に冒険者ギルドへと向かった。
さすがに大勢で押し掛けるわけにはいかず、アルス、ミヅキ、アスカの3人で中に入った。
受付嬢のシルフィーさんが温かく迎えてくれた。
「お疲れさまでした。アルサスさん、ご無事で戻られて何よりです」
「あ、はい。クーガーさんのおかげです」
美しい受付嬢の笑顔につられて、アルスも天使の微笑みで答えた。
「討伐の報告はミヅキさんより伺っています。すでにギルドの調査員からゴブリン達の規模についての報告も上がっていますので、報酬のお支払いも可能となっています。それでは冒険者証を提出してください。あ、アスカさんもお願いします」
「え!」
アルスは驚いて、アスカを振り返った。
「ふふ~ん」
アスカはこれ見よがしに、足にはめた冒険者証を取り外して、アルスに見せた。
冒険者証の石は燃えるような赤色をしていた。
「はぁ~」
アルスはポカーンと口を開けている。
「それとホブゴブリンの体内から魔石が採取できましたが、どうなさいますか?」
「それなら、ゴブリンシャーマンから取れた魔石と一緒に買い取りをお願いします」
驚きから覚めないアルスに変わり、ミヅキが答えた。
「かしこまりました。それでは少々お待ちください」
受付嬢は魔石と3人の冒険者証を持って奥へと下がった。
「ふふふ、アスカさんたら嬉しそう」
「な、なによ~」
受付嬢を待っている間にミヅキが状況を説明してくれた。
助け出した女性達の服を買いに街に来たミヅキとアスカは、最初に冒険者ギルドに行きシルフィーさんに事情を説明した。
するとシルフィーさんが意外な事実を教えてくれた。
実はアルス達がゴブリン退治へ出発する前に、ギルドからダリルの村を襲ったゴブリン退治の依頼書が発行されていたというのだ。
しかもクーガーさんが討伐に出発する前にその依頼を受けていたということだった。
さらにクーガーさんは、仕事が終わったら旅に出るから、報酬は全額アルスとミヅキに渡すようと、シルフィーさんに伝えていたらしい。
そしてミヅキからゴブリン退治が成功し、数多くの村人を救出したと聞いたギルドは、追加で村人を街まで護衛する依頼をすることにした。
そこで、すかさずアスカは冒険者登録を済ませ、村人の護衛依頼を一人で引き受けたというわけである。
『クーガーの兄貴に、また会える時はくるのだろうか』
ほどなくして報酬と冒険者証を持った、受付嬢が戻ってきた。
「今回の報酬はゴブリン退治が金貨8枚、魔石が銀貨5枚、村人の護衛が銀貨3枚となります。あとアルスさんとミヅキさんの冒険者レベルが3にあがりました」
「ありがとうございます」
アルスは嬉しそうに、シルフィーさんから冒険者証を受け取りながらお礼を言った。
「アルサスさん。それとですね。もし村人を連れて教会に向かうのでしたら、太陽神の教会がおすすです。町の中心にありますのですぐにわかると思います」
「そうさせてもらうわ」
美しいシルフィーさんに嫉妬でもしたのか、アスカは胸を張りながらアルスの前に割って入ってきた。
…………
…………
次に一行は、シルフィーさんに教えてもらった街の中心にある教会へと向かった。
太陽神を祭る教会、いや、神殿は見上げるほど大きく、白く滑らかな壁は金色の飾りに縁どられていた。
アスカが村長代理として先頭に立ち、ミエコさんとアルスを従えて教会の中へと入っていた。
対応に出てきたのは、ルクスというの名の神経質そうな司祭だった。
アスカがこれまでの経緯をかいつまんで説明した。
「それは大変でしたね。我々が出来ることがあれば、何なりとおっしゃってください」
ルクス司祭は顔色を変えるでもなく話を聞いていた。
「それでは子供達を少しの間預かってはいただけないでしょうか」
「それはもちろんです。ここから少し歩いたところに我々の孤児院がありますので、後程ご案内いたしましょう。あと……」
ルクス司祭は、途中から何やらアスカだけに聞こえりよう小声で伝えた。
「わかりました。そちらについては後でお願いすることになると思いますわ」
「お待ちしております。それでは。皆様に神の御加護を」
ルクス司祭は短く祈りをあげ品良く腰を折った後、供を連れて去っていった。
そして後に控えていた修道女が、アルス達を孤児院へと案内してくれた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~
孤児院は街の裏通りにある薄汚れた教会の裏にあった。
ちょうど孤児院の前で掃除をしていた老婆が、一行を出迎えてくれた。
「おやおや、大勢でお越しくださいましたね。歓迎いたします」
柔らかな物腰の老婆は、一行にににこやかな笑みを向け挨拶した。
「こちらは、孤児院のアーネス院長です」
ここまで案内してくれた修道女が紹介してくれた。
「わたしはダリルの村から来たアスカです」
アスカは一行を代表して院長に挨拶をした。、
「それは、それは、さ、立話もなんですから教会の方へ。もしよろしければお話の間、お子様たちは孤児院の方で遊ばせては如何でしょうか」
アーネス院長は村の名前を聞いただけで察したのか、そのように提案してくれた。
「あ、はい、お願いします」
アスカは素直に提案を受け入れると、アーネス院長は修道女に子供達を孤児院へ案内するように指示をだした。
教会に入ったアスカは、ルクス司祭にしたのと同様に、これまでの経緯を説明した。
「そこで村人たちが生活できるようになるまでの間、子供達を預かってはいただけないでしょうか」
「それはもちろんです。お預かりいたしましょう」
アスカがお願いすると、アーネス院長は二つ返事で引き受けてくれた。
「それで少ないですが……」
アスカは銀貨10枚をアーネス院長に差し出した。
「いえいえ、それはみなさまの生活のためにお使いください。この街はそれなりに豊かなところです。子供達の食事に困ることはありません」
アーネス院長はやんわりとアスカの手を押し返した。
「で、では、これだけはお受け取りください。私が稼いだお金です」
改めてアスカは銀貨3枚を差しだした。
冒険者として初めて稼いだ、村人たちの護衛料だろう。
「それでは、ありがたくいただきます」
アーネス院長はこうべをたれた。
話し合いが終わり、子供達の様子を見に孤児院へといってみると、中から賑やかな子供たちの声が響いてきた。
孤児院の子供たちと村の子供達は、既に打ち解けていて楽しそうに遊んでいた。
特にフワフワとした癖のあるプラチナブロンドの髪を長くのばしたした幼い女の子が、率先して村から来た子供達に話しかけてくれていた。
その子の笑顔には、不思議と人の心を和ませる力があるようで、見ているだけで心が軽くなっていく。
母親たちが、今後のことを幼い子供に説明しても、駄々をこねる子は一人もいなかった。
「すぐに迎えに来るからね」
母親たちは思い思いに子供を抱きしめた後、孤児院を後にした。
~・~・~・~・~・~・~・~・~
その後と、一行はマリナさんの知り合いが経営している宿屋へと向かった。
宿屋は裏通りにあるにしては、珍しく3階建てと大きなものだったが、いかにも安そうな作りをしていた。
当面はこの宿に、母親を含め助け出されたた女性全員が泊まることになった。
宿泊代は、アスカが出来る限る出すと申し出たが、村人を代表したミエコさんが断ってきた。
話し合いの結果、アスカとミエコさんが半分ずつお金を出して、宿泊代を立て替えることに決着した。
~・~・~・~・~・~・~・~・~
そして村人たちと別れた冒険者の3人、アルスと、アスカ、ミヅキは冒険者ギルドに戻り宿を取った。
部屋は、以前にアルスとミヅキが二人で泊まったのと同じ大きさの部屋で、小さなベットが3つ並んでいるだけだ。
3人は部屋に入り、各自の荷物をベット脇に置いた。
するとアスカが姿勢を改め、アルスとミヅキに向き直った。
「アルサスさん、ミヅキさん。村人を助けに来てくださり、本当にありがとうございます。村を代表してお礼を申し上げます」
アスカは深々と頭を下げた。
「え、いいよ。アスカ姉ちゃん。そんな……」
「そうですよ。アスカさん」
アルスとミヅキは、慌ててアスカに頭を上げさせた。
「う、うん。ありがとう。二人とも。あと実はもう一つお願いがあって……」
「うん。なにお姉ちゃん。何でも言ってよ」
「うん、うん」
アルスは即答し、ミズキも頷き同意した。
アスカは俯き、言いにくそうにしていたが、勇気を出して話し出した。
「実は太陽神で司祭様から聞いた話なんだけど……、ゴブリンに襲われた女性が身籠ることがあるらしいの。しかも……生まれてくる子供は全てゴブリン……。でも太陽神の神殿で身を清める儀式をすれば、魔は体の中から消え去るらしいわ。ただし一人に付き銀貨10枚が必要なのよ」
「いいよ。ね、ミヅキちゃん」
「うん。金貨8枚あるから足りるよね?」
アルスは即答し、ミヅキも素早く計算して同意した。
「ありがとう。二人とも」
アスカは二人に抱き着き、しばらく号泣した。
そういえば、太陽神の教会を進めてくれたのはシルフィーさんなわけだが、そこてなら女性達の身を清めることが出来ることを知っていたのかもしれないな。
『さすが、出来る女は違います』
助け出した大人の人数は、50人ぐらいだったから金貨5枚で足りるだろう。
幸い幼い少女たちは無事だったから、そちらは心配いらないと思う。
それにしても一人当たり10万か、なかなか商売熱心な司祭のようだ。
少しはアーネス院長を見習ってほしいものだ。
そして3人は、よほど疲れていたのか食事もとらずに、そのままベットで眠ってしまった。
結局、後日、40人が身を神殿に行き身を清めてもらった。
ただしミエコさんを始め、マリナさんと7人娘とアスカは辞退した。
ミエコさんの話ではアスカは難を逃れたようだし、あの藍色の髪をした娘は処女だったからいいとしても、他の女性達は大丈夫だろうか。
まさか、俺とランデブーしたから平気とか、本気で思っていないだろうな。
…………
『心配だ』
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