2章

2-1.再起動~

 なんとかゴブリンシャーマンを討伐したアルス達一行は、救出した幼い少女達を引き連れて、洞窟の外を目指していた。


 隣では神聖魔法を使いすぎて気を失ったミヅキを、クーガーが背負ってくれている。

 そして重度の火傷を負ったアルスは、アスカに肩を借りて何とか歩くことが出来ているといったありさまだ。


 『本当に無茶をしたものである』


 魂だけの存在に戻った俺は、アルスの体の中でため息をついた。

 もちろん、責任の所在を突き止めるような愚行は起こすまいと心に誓った。


 洞窟の外はまだ明るかった。

 日の傾きからすると、午後3時ぐらいだろうか。


 一行が救助した幼い少女たちを連れてゴブリンの巣から出てくると、先に救助された40人を超える女性達が集まっていた。

 急いで逃げ出したために女性達は全裸だが、全員が同じ格好だと意外と卑猥さは無かった。


 むしろ胸と腰だけを汚れた布で覆った妖艶なミエコさんや、ギリギリのところで大事なところが隠れている、瑞々しい体をしたアスカの方がエロスを感じるのだった。


 魂だけの存在である俺は視線がバレることが無いので、凝視し放題だったりする。

 ただ視線を動かせるのはアルスだけというのが、もどかしくもあった。


 女性達の顔は明るくはないが、僅かばかりの表情が戻って来ていた。


 そして幼い少女たちが、それぞれの母親の元に駆け寄ると、泣き叫びながらも温かく抱擁し、お互いの再開を喜びあっていた。


 そして周りを囲む女性達にも、自然と笑顔が広がっていった。


 そんな中、気を失っていたミヅキが目を覚ました。


 ぼんやりと辺りの様子を眺めたのち、アルスの容態に気が付いたのか、大慌てでカバンの中からカナデ婆が作った回復薬を取り出した。

 

 「アルスちゃん、これを!」


 ミヅキはこぼさないように気を付けながらも、急いでアルスに薬を飲ませてくれた。


 すると、治りきっていなかった下半身を覆っていた火傷があっという間に完治した。


 「ありがとう。ミヅキちゃん」

 「う、うん。もう無茶するんだから!」


 ミヅキは赤く染めた頬を大きく膨らませた。


 ほのぼのとした雰囲気に包まれる二人は、とても大仕事を終えたばかりの冒険者には見えなかった。


 「じゃー後は頼んだぞアルス」


 クーガーはアルスが回復したのを見届けると、漆黒の狼を連れて森の中へと入っていた。


 「え、クーガーさん!ちょっとまって……」


 慌ててアルスが呼び止めるが、クーガーは立ち止まることなく森の中へ消えていった。


 そして漆黒の狼もユッサ、ユッサと尻尾を大きく振りながら、クーガーの後に続いた。


 「……行っちゃったね」


 ミヅキも寂しそうに一人と一匹を見送ていた。


 …………


 その後、アルスを中心にミヅキ、アスカ、ミエコさんの4人で、今後の行動について話し合うことになった。


 アルスは話し合いの前に、ミエコさんにだけ村の惨状を伝えたのだが、意外なほど冷静に受け止めていた。


 そして話し合いの結果、以下の行動指針が決定した。


 1.一番近いミヅキの家により女物の服や布を中心に補給する。


 2.アルスの家に行き、同じく服や布を補給する。


 3.今晩はアルスの家を中心に野営をするので、ミヅキの指揮のもと準備を進める。


 4.アスカとミエコさんは、それぞれの家に用があるので、アルスが護衛として村まで同行する。


 5.アスカとミヅキは準備が整い次第、馬で街へ向かい、冒険者ギルドへと報告する。


 6.アスカとミヅキは救助した女性たちのために、街で服や馬車を調達して戻ってくる。


 始めアルスは、アスカとミヅキが夜を徹して街へ向かう事に反対したのだが、アスカの強い要望で実施することになった。


 話し合いが終わると、直ぐに一行は移動を開始した。


 『まぁ、こんな場所には居たくないものな』


 最初に一行が向かったミヅキの家であった。


 岩壁に掘られた家は、今も変わることなく残っていた。


 ここでは、幼い少女達を中心に服を着ることが出来た。

 ミヅキのおさがりが大活躍した。


 次に向かったアルスの家では、リリーの着ていた服を若い女性達へと配ることが出来た。

 父、クリフが着ていた服も僅かにあったが、不人気だったようだ。


 しかし熟女のお姉さま方へは服は行き渡らず、カーテンや、ベットのシーツなどを破り、胸と腰だけを何とか覆うことになった。


 唯一人の男性であるアルスはそんな女性達に囲まれ、まるで女性だけの村に迷い込んだ美少年のようだった。


 「そろそろ村に行く?」


 恥ずかしいのかアルスが促すと、アスカはギルドから借りている馬に乗り、黒毛の牡馬にはアルスとミエコさんが乗った。


 馬上で必要以上にアルスに後ろから抱き着くミエコさんを、アスカとミヅキが睨んでいるが、本人はどこ吹く風とばかりに妖艶にほほ笑んでいた。


 『うお~~、この背中に押し付けられた大ボリュームで滑らかな感触が~~~』


 しかも馬が揺れるたびに背中に胸の柔らかな感触が広がるのだ。


 …………


 ほどなくして村に到着すると、ミエコさんは馬から降り、一人で反物問屋があった家へと向かって行った。


 『もう行ってしまうのか……』


 しかたなく、アルスとアスカは二人で村長の屋敷へと向かった。


 アスカは、屋根が焼け落ちた屋敷を見て、しばらく沈黙していたが、直ぐに気持ちを吹っ切るように馬から飛び降りると、屋敷の中へと入っていた。


 アルスは、アスカに付いていこうか迷ったようだが、結局、外で待っていた。


 ほどなくして、アスカはカバンを肩から掛けて戻ってきた。


 「あれ?家の中には何もなかったと思ったけど……」


 「これでも一応村長の家だからね。万が一に備えて、魔法のカバンを隠してあったのよ。中には大量の保存食とお金が入っているわ」


 アスカは自慢げにカバンを開けると、中から保存食を取り出して見せた。


 反物問屋に向かうと、背筋をしゃんと伸ばして佇むミエコさんがいた。


 服装はかわらず胸と腰を布で隠しただけだったが、指には黄色い宝石が付いた指輪をしていた。


 『これもマジックアイテムなのだろうか?』


 そして3人は、お腹を空かせている女性たちの元へと急いで戻った。


 アルスの家の前では暖を取るための焚火の準備が進められていた。


 そしてアルス達3人を、緑色の髪をした女性が出迎えてくれた。


 「こちらはマリナさん。大棚の若女将よ」


 ミエコさんが、緑色の髪をした女性、マリナさんを紹介してくれた。


 マリナさんも、ミエコさんに負けないナイスバディをしているが、こちらはどちらかと言うと健康的な印象を受ける。


 アスカが魔法のカバンから取り出した保存食を積み上げていくと、ミエコさんとマリナさんが女性達に配布してくれた。


 すると、女性達はよほどお腹を空かせていたのか、保存食を温めることもせず、むさぼるように食べ始めた。


 そうか、ゴブリンは捕らえた女性達には、まともな食事を与えられていなかったのだな。


 『酷いことをする』


 「それじゃー、アルス。みんなをお願いね」

 「アルスちゃん。夜の番をおねがいね」

 「うん、わかった」


 アスカとミヅキが馬上から、いたずらっぽく念を押すと、アルスは天使の笑顔で答えた。


 2人ともアルスが夜になると熟睡して起きないことを知っているから、女性だけの環境にアルスを置いていけるのだろう。


 『だが、甘いのだよ二人とも……』


 俺は一人、アルスの体の中でほくそ笑んでいた。


 そういえば、いつの間にかミヅキも一人で馬に乗れるようになったようだ。


 アスカは黒毛の牡馬、ダリルに跨り、ミヅキはギルドから借りている茶色の馬に跨って、街に向けて走り去っていった。


 アスカの背には、アルスの父が使っていたロングボウが掛けられている。


 余談だが、ホブゴブリンに止めを刺したショートソードは、2度に渡るファイアーの熱で変形してしまい、鞘に納めることも出来なくなってしまった。


 『ごめんよ~、アルス』


 俺は父の形見のショートソードをダメにしてしまったことを心の中で詫びた。


 あと、カナデ婆の杖はミヅキが所有することになったのだが、巫女には使えないアイテムだったようで、アスカの魔法のカバンにしまってある。


 あとゴブリンシャーマンが灰になった後に残っていた、鈍く光る石だが、マリナさんが魔石であると教えてくれた。


 魔物の体内に生成される石で、冒険者ギルドが高値で買い取ってくれるらしい。


 さすがに大棚の若女将だっただけあり、マリナさんは幅広い知識を有しているようだ。


 そしてアルスだが、さっそくミエコさんと、マリナさんに両側から世話を焼かれながら、温かい保存食を食べていた。


 ただ、当の本人はこの状況を理解していないのか、戸惑うこともなく、天使の笑顔を周囲に振りまき、病んだ女性達を癒していた。

 …………


 辺りが暗くなると、自然とグループごと別れて、焚火を囲み休むことになった。


 なお幼い少女達はアルスの住んでいた、山小屋の中で既に眠りについている。


 山小屋の周辺にある空き地には、いくつもの焚火がたかれ手狭となっていた。


 そこでアルス達は少し離れた森の中で、焚火を囲んで軽い食事をすることになった。


 アルスの右隣りにはミエコさん、左隣にはマリナさんが座っている。


 そして焚火の向うには、アスカと共に捕らえられていた若い女性が7人並んでいる。


 みんなアルスのことをチラチラと見ているが、話しかけてはこない。


 「さ、アルサスさま。助けてくださったお礼です。こちらをお飲みになってくさいな」


 ミエコさんは、どここからか取り出したワインを器に注ぎ、アルスへと勧めてきた。


 「アルサスさま、お肉も焼けましたよ」


 マリナさんは脂の滴る肉を切り分け、アルスへと勧めてきた。


 「あ、ありがとう。ふぁぁぁあ」


 アルスは欠伸をしながらも、勧められるがままに肉を口にしていく。


 …………

 …………


 そして激しい戦闘と大怪我とで、体力が消耗しているのだろう。

 アルスはあっという間に眠りに落ちて行った。


 『くくくく……』


 俺は暗闇の中、悪代官のように笑いながら、憑依スキルをアルスに使った。


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