1-16.救出作戦4~
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本文には、暴力的な描写だけでなく、性的な描写も含まれています。
苦手な方はご遠慮ください。
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捕らえられていたミエコさんが、アスカの居場所を教えてくれた。
俺が振り返ると、クーガーは頷き、漆黒の狼が脇道へと入っていいったが、すぐに戻ってくるとクーガーの足元に伏せた。
俺は焚火で松明に火をつけ、一人で左の脇道へと入っていった。
脇道はすぐに広がり細長い四角い部屋になっていた。
レーダーには、青い光点が一つと、黄色い光点が7つ、一列に並んで表示されていた。
松明の炎に照らされた壁には、高い位置にある杭に両手を結ばれた若い女性たちが、一糸まとわぬ姿で並んで立っていた。
そして一番手前の女性、いや少女は燃えるような輝く赤い髪をしていた。
両手を挙げた白く引き締まったスポーツ選手の様な四肢は、すすけてよごれているが、つんと上を向いた張りのある胸を中心に芸術的な美しさを力強く放っている。
「アスカ」
俺は松明を放り投げ、アスカを呪縛から解放した。
「アルス来てくれたのね」
アスカのうっすらと開いた目が俺の視線と会うと、目から涙を流しならが唇を噛み、そして俺から目を背けた。
「ミヅキ、服を持ってきてくれ」
俺が大きな声で頼むとすぐ、ミヅキはうつむいたまま、ぼろ布とかした服を抱えてやって来た。
「…………」
ミヅキは黙ったままアスカの着替えを手伝っている。
俺はいつまでも見ているわけにいかず、吊るされている若い女性達を順番に優しく下ろしていった。
解放された女性はうずくまり、声も出さず泣いている。
それとなく女性達の体を確かめたが怪我はしていないようだった。
俺は全員のロープを切り終えたあと、部屋の外に出て緑色の髪をした女性に、解放した女性達の着替えを手伝うように頼んだ。
「ミエコさん」
「はぃ、なんでしょうか」
ミエコさんは1週間近くも捕らえらえていたのが嘘かのように、しかりした色気のある眼差しで俺を見つめ返してくる。
「ここにいたホブゴブリンとコボルトは始末しましたが、他にも魔物はいませんでしたか?」
「もうしわけありません。わたくしあまり魔物には詳しくありませんの。あ、ただ……杖を持ったゴブリンなら見かけましたわ。そうネックレスや指輪を沢山つけていました」
「シャーマンか、やっかいだな」
真顔に戻ったクーガーが魔法を使うゴブリンのことを教えてくれた。
「魔法を使うゴブリンか。ならミヅキを連れて行くのは危険かもしれない。クーガー、一緒に来てくれるか」
「ああ」
俺はクーガーに頼むと、クーガーは頷いてくれた。
俺達二人は漆黒の狼を連れてホールを出て行く。
「まって、私も行くわ」
「わ、わたしも」
振り返ると、申し訳程度に胸と腰だけを隠したアスカが、胸を突き出したいつものポーズを決めていた。
まるでアマゾネスの様だ。
もしもしゃがんだら、色んなところが見えて大変な事になるだろう。
そしてミヅキもショートボウを胸に抱え、小さな声でアスカに追従する。
「ミヅキはあと何回、魔法が使える?」
「う~ん。多分、あと一回か二回」
俺が尋ねると、ミヅキは上を向いて考えたあと曖昧な答えを返してきた。
「わかった。離れたところから援護を頼む。魔法を使ったら逃げてくれ。あとショートボウをアスカに貸してもらえるか」
「うん、わかった」
ミヅキは力強く頷くと、ショートボウをアスカに手渡した。
俺はシャーマン討伐組と、退避組で分かれて行動するつもりだったが、しかたなく分岐点までは一緒に行動することにした。
ミエコさんと緑色の髪をした女性が、解放した若い女性達を励ましてくれたおかげで、スムーズに移動することが出来るようになった。
俺は何も話さずに黙々と進むアスカが気になり、横目で様子を伺ってみると、表情は以前の物に戻っているように見えた。
分岐点から洞窟の出口まで、救出された女性だけで行動することになるが、ゴブリンから奪った武器を全員に持たせたので、1,2匹のゴブリンならなんとかなるだろう。
そして俺たちは、隊列を組んで少し細い方の分岐点へと入り、再び洞窟の奥に向かって進んだ。
先頭には漆黒の狼、続いてクーガーと俺が並んで歩き、最後にアスカとミヅキが松明を持って続いた。
少し細い道は分岐することなく続き、小さめのホールへ出た。
そこでは豪勢に着飾ったゴブリンシャーマンと、5匹のゴブリンが待ち構えていた。
ゴブリンシャーマンは、手にカナデ婆の杖を構え、首や手に過剰な装飾で着飾っていた。
しかも耳にはアルスの母がしていた、空色をしたピアスが一つぶら下げられていた。
「ミヅキ、フィアーを!」
俺は叫びながら、漆黒の狼の後を追ってホールへと飛び込んでいった。
クーガーも俺に並んでに駆けだした。
「フィアー」
ミヅキが神聖魔法を唱えると、下品な顔でにやけていたゴブリン達は、一斉に顔を引きつらせ慌てて壁際へと背中を見せて退いていく。
その背中に漆黒の狼と、アスカの放った矢が次々と襲い掛かる。
俺とクーガーは、ゴブリンシャーマンに魔法を使わせまいと突き進む。
しかしシャーマンは怯むこともなく、杖を掲げながら、何やら歪んだ声で詠唱した。
「…………サ・ラ・マン・ダー」
瞬く間に俺たちとゴブリンシャーマンの間に、炎で出来たトカゲの様な姿をした精霊が現れた。
それは、全長3mはあるワニの様な姿をしていた。
前触れも無くサラマンダーが口から炎を吐きながら首を振ると、俺とクーガーの前に炎の壁が出来あがった。
「くそ!」
クーガーは飛びのくと悔し気に武器を構えた。
「一か八かやるしかないか。アスカ、援護射撃を」
俺は一旦後ろに下がりながら、アスカへ指示を出した。
そしてスモールシールドを顔の前に構えながら息を止め、炎で出来た壁への中に飛び込んだ。
「おい、何をする!」
クーガーの声が聞こえてきたが、ここで止めるわけには行かなかった。
スモールシールドが覆っていないところから服に炎が燃え移ったが、気にせずスモールシールドを投げ捨て、ゴブリンシャーマンへ向けてファイアーを叩き込む。
「ファイアー」
しかし、俺の左手から出た炎はシャーマンに届くことがなく、目の前に広がっていくだけだった。
俺の頭をかすめてアスカの放った矢がシャーマン目掛けて飛んでいく。
「グギャーー」
俺は姿勢を低くして、床の上で燃え上がるファイアーを盾にして、回り込むようゴブリンシャーマンへと接近する。
アスカの放った矢は矢はゴブリンシャーマンの右肩へに命中していた。
肩からが矢を抜こうとしているゴブリンシャーマンの耳から、俺はアルスの母がしていたピアスを力任せにむしり取った。
「グギャーギャー」
「ウィンディーネ」
奪い取った空色のピアスと、俺の、いや、アルスの耳に付いているピアスから、青い光が放たれた。
すると目の前に、美しい女性の形をした水の精霊が現れた。
ウィンディーネは手を上げると、そこから大量の水が放たれサラマンダー諸共、炎の壁を消し去ってくれた。
「グギーー」
「バッシュ」
サラマンダーを消滅されたくやしさからか、自暴自棄になったシャーマンが叫びながら、カナデ婆の杖で殴り掛かってきた。
俺はすかさず右手に持っブロードソードで、剣スキルのバッシュを放った。
恨みのこもった目で俺を睨みながら、ゴブリンシャーマンの首が宙を飛んでいく。
ゴブリンシャーマンの首を失ったまま立っていた。
…………
その胸に描かれた紋章が赤く点滅すると、床に転がった頭部と立ったままの体が青い炎に包まれていった。
「あ!あちちちちーーーー」
いまさらながらに、俺は自分の服も燃えていることに気が付き、床の上を転げまわった。
ブシューーー
ウィンディーネが、俺にまとわりついて離れない炎を消火してくれた。
「アルスちゃん」
慌てて駆け寄ってきたミヅキがヒールを掛けてくれた。
すぐに下半身を覆った火傷の痛みが引いていく。
俺の横ではゴブリンシャーマンが灰となり燃え尽きていた。
床にはカナデ婆の杖と、鈍く光るこぶし大の石が床に転がっていた。
『ふ~、傷がいえていくぜ。あれ?』
「かあさん」
いつの間にかアルスは意識を取り戻し、まだ痛む体を気にすることなく、呆然と立ち上がっていた。
気が付けば、俺はまた魂だけの存在に戻っていた。
そしてアルスの視線の先にあるウィンディーネの顔は、確かにあの慈愛いに満ち美しい顔をしたリリーに似ていた。
ウィンディーネはアルスを見つめて微笑むと、きらめく光と共に姿を消していった。
茫然と立ち尽くすアルスの横では、今度はミヅキが意識を失ったように床に崩れ落ちてしまった。
今はアスカが介抱してくれている。
クーガーは背中を見せて、肩を震わせている。
『あれれ~?もしかして泣いてるのかな?』
レーダーを見てみると、クーガーを表す光点は再び青色に変わっていた。
壁際にはゴブリン達が青い血を流しながら崩れ落ちている。
残っていたゴブリンは全て漆黒の狼が処分したようだ。
『ふ~、これでとりあえずアスカ救出作戦は終了かな』
このあと漆黒の狼が、ゴブリンシャーマンのいたホールにあった、隠し扉を発見してくれた。
隠し扉の奥には、さらわれた幼い少女たちが監禁されていたのだが、クーガーが中に入り全て解放した。
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