1-13.救出作戦1~
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本文には、暴力的な描写が含まれているます。
苦手な方はご遠慮ください。
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クーガーと出会い4日目。
村を出てから5日目。
いつものように、朝早くアルスとミヅキが冒険者ギルドの一階に降りていくと、カウンターの端で、クーガーと受付嬢のシルフィーさんが、難しい顔して話し込んでいた。
クーガーの手には1枚の依頼書があった。
クーガーはアルス達に気が付くと、話は終わりだとばかりに、
「じゃー頼んだぞ」
クーガーは有無を言わさず、依頼書を受付嬢に渡した。
「はぁ~、わかりました」
クーガーの言葉に、受付嬢は仕方ないと頷いた。
「三日間の予定だ」
「お気をつけて」
受付嬢は姿勢を正して、お辞儀をしたあと、アルスとミヅキへほほ笑んだ。
しかしその笑顔はどこか寂しそうだった。
次にクーガーはアルスとミヅキを連れ、隣にある道具屋へとやって来た。
クーガーは手早く3人分の松明や食料と、それらを入れる袋を購入すると、アルスに手渡した。
最後にクーガーが乗る馬を、冒険者ギルドから借りた。
そして3人と一匹と3頭は、防壁に囲まれた街を出立した。
ダリルの村へ向けて。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
その日の夜、一行はアルスが住んでいた山小屋に到着した。
そのまま3人は山小屋に泊まることになったが、その間、クーガーはほとんど何も話さなかかった。
…………
朝になるとクーガーはアルスの案内で、アルスの父、クリフの墓へとやって来た。
クーガーは、クリフの墓に酒をかけ、膝を折ると頭を垂れた。
「クリフ隊長は、孤児だった俺を鍛えて兵士にしてくれた」
クーガーは、誰に聞かせるともなく、ポツリ、ポツリと語りだした。
「あの日、俺と隊長は山賊に襲われている奴隷商人を発見した。隊長は俺が止めるのも聞かずに、狭い谷あいの道を走っていったよ」
…………
「俺は不利な地形で、無理して商人を助ける必要がないと思ったんだよ。しかも相手は奴隷商人だ。ろくな奴らじゃない。なのにあの人は……」
…………
「俺が仲間を連れて現場に駆け付けた時、あの人は谷に落ちそうになった少女を助けようとしていた」
…………
「二人は山賊に蹴落とされたよ」
…………
…………
…………
「でも、生きてたんだな」
…………
「よかった」
クーガーはアルスと視線を合わせることなく、山小屋に戻っていった。
3人は無言で朝食を取った後、装備の確認作業を始めた。
クーガーはソフトレザーアーマを着こむと、左の腰にロングソードを吊るし、腰の後ろへ片刃が櫛のようになったダガーを差した。
さらにソフトレザーアーマーの胸や手、足といったところへ投げナイフを差していく。
アルスも同じく大き目のソフトレザーアーマを着こむと、左腰にショートソードを差し、背中には矢筒とスモールシールドを掛けた。
左手には父が使っていたロングボウが握られている。
ミヅキは収穫祭で着ていた、巫女装束の下にチェーンメイルを着こみ、背中にはショートボウと矢筒を掛ける。
右手にはショートスピアーが握られている。
ミヅキは長い祭事用の錫杖を持っていきたかったようだが、鈴の音がうるさいと、クーガーに却下された。
3人が装備を整えた後、珍しくクーガーが作戦を説明した。
1.見張りを弓と投げナイフで倒す。
2.洞窟に入りゴブリンを各個撃破する。
以上であった。
『シンプルイズベストって……もうちょっと考えようよ』
そして一行は冒険者ギルドで借りた馬だけ山小屋に残し、ゴブリンの巣へと向かった。
ギルドから借りた馬を残していくのは、戦闘訓練はされていないからだ。
それに引き換え、黒毛の牡馬、ダリルは軍馬と同等の訓練がされており、前回と同様に3人を乗せて逃走可能だった。
巣には午前10時頃だろうか、昼前に着くことが出来た。
やはり洞窟の入り口には2匹のゴブリンと1匹の狼が見張りをしていた。
しかし3匹とも寝ているようだ。
俺の視界の右上にあるレーダーにも、赤い光点が3つ表示されている。
赤い光点は敵を表すようだ。
「アルスは左のゴブリン、ミヅキは狼だ。一発で仕留めろよ」
クーガーが小声で指示を出す。
3人が各々の武器を構える。
クーガーが投げナイフを投げるの合図に、アルスとミヅキの矢が放たれた。
アルスの弓はゴブリン胸へ、ミヅキの矢は狼の眉間へ、クーガーの投げナイフはゴブリンの喉へ突き刺さった。
矢が突き刺さった3匹は、痙攣したあと動かなくなった。
レーダーに映っていた3つの赤い光点も消えた。
クリフが合図すると、漆黒の狼は音もなく茂みから飛び出し、洞窟の入り口へ滑るように移動し中の様子を伺う。
漆黒の狼が伏せたのを確認すると、クーガー、アルス、ミヅキの順で入り口へと向かった。
クーガーは火をともした松明をミヅキに渡すと、アルスに指示をだした。
「アルス、お前は一番後ろだ。後ろに気を配れ」
「うん」
アルスは右手に持ったショートソードを強く握り、小さく頷いた。
ちなみにレーダーには、仲間以外の光点は表示されていない。
漆黒の狼を先頭に、クーガー、ミヅキ、アルスの順で洞窟に潜っていく。
中は、大人が2人並んで歩けるぐらいの幅で、まっすぐ伸びていた。
しばらく進んでいくと左右に細い脇道が現れた。
クーガーが左の道へ顎で示すと、漆黒の狼は左の脇道へと飛び込んでいった。
俺だけが見ることが出来る、レーダーには左側に赤い光点が4つ、右側に赤い光点が5つの表示されている。
そして左側の赤い光点が音もなく次々と消えていく。
クーガーは油断なく前方へ続く道と右の脇道を警戒していた。
アルスは、はっと思い出したかのように、後ろを振り返り来た道を警戒した。
ミヅキが手にした松明の光が、洞窟の壁で細かく震えている。
しらばくアルス達が待機していると、口から青い液体を垂らした、漆黒の狼が左の脇道から忽然と現れた。
「行くぞ」
クーガーは小さな声で言うと、漆黒の狼を十字路に残して、右の脇道へと踏み入れた。
それに松明を持ったミヅキとアルスの順で続く。
脇道は狭く、クーガーはダガーを右手に構え、少し屈んで進んでいく。
5mも進むと小さな丸い部屋に出た。
床には、沢山の食べかすや動物の骨が転がり、そして5匹のゴブリンがだらしなく寝転がっていた。
レーダーの射程は長くはないが、壁の向う側も索敵可能らしい。
数も正確だ。
クーガーは、指でアルスに2匹、ミヅキに1匹を指示した後、残りのゴブリンへと忍び寄る。
アルスとミヅキも、武器を構えながらそれぞれの獲物へと忍び寄る。
クーガーがダガーを振りかぶるのを合図に、アルスはショートソードを、ミヅキはショートスピアを、幸せそうに眠るゴブリンへ振り下ろす。
「グギャーーー」
ミヅキが刺したゴブリンが苦痛に呻く。
ミヅキは慌ててもう一度刺したとき、アルスが次に倒すべきゴブリンが目を覚ました。
「ゴラァ?」
アルスは慌て目覚めたゴブリンにショーソードで切りかかるが、わずかにかわされ右手に傷を負わせることしか出来なかった。
攻撃されたゴブリンは傍に転がっていた棍棒を、掴み叫ぼうと息を吸い込んだ。
「ゴ・ギャ・・・・・?」
アルスは一瞬目をつむり、再び開いたときには、ゴブリンの喉から投げナイフが生えていた。
「はぁ……」
振り返ると、すでに2匹目のゴブリンを倒したクーガーが、投げナイフを投げ終わった姿勢のまま、ため息をついていた。
3人は急いで十字路へと戻り、漆黒の狼を先頭に隊列を組んで、更に奥へと進んでいった。。
…………
道は緩く左へカーブしていた。
そして同様の小部屋を2か所つぶしたところで、今度は二股に分かれていた。
左へとカーブをした太い道から、わずかに幅の狭い脇道がまっすく伸びている。
クーガーが漆黒の狼を見ると、狼は鼻をヒクヒクとさせた後、太い道を進み始めた。
「後ろに気をつけろよ」
クーガーは再びアルスに小声で伝えると、漆黒の狼の後に続いた。
「うん」
アルスは小さく頷くと、左手にスモールシールドを構え、右手のショートソードを強く握っり、ミヅキの後ろを、最後尾を歩いていく。
アルスは時折、後ろを振り返り、ソワソワしながら進んでいた。
…………
漆黒の狼が立ち止まると、道の先に開けた空間が見えてきた。
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