1-12.特訓2~
特訓3日目。
クーガーは3枚の依頼書と、大きな袋を二つ持ってくると、アルスとミヅキに袋を1つづつ渡した。
アルスが受け取った袋は、ずっしりと重い。
「部屋に戻り着けてこい」
2人は、クーガーに言われるがまま部屋に戻ると、おのおの手に持つ袋の中身を覗き込んだ。
アルスの袋にはソフトレザーアーマーが詰め込まれていた。
そしてミヅキの袋には、細いチェインを荒い網のようにして、編んで作られたチェインメイルが入っていた。
「うわぁ~すごい」
「いいのかな~」
ミヅキは素直に喜び、アルスは少し困惑しているようだ。
2人はお互いに背中を向けて、着替えを開始する。
アルスのソフトレザーアーマはブーツ、銅鎧、籠手の3点セットだった。
そして冒険者証は籠手の上からも付けることが出来た。
ミヅキは巫女装束の下にチェインメイルを着こんでいた。
ミヅキの白い小袖から覗く胸元が、隠れてしまい残念な感じだが、スリットからのぞく白い足は健在だった。
少しだけ丈の長いチェインメイルが、ちょうど丈の短いタイトカートのようになっていて、白い下着を隠している。
『ん~~、これはこれでいいかもしれない』
見えそうで見えないラインが最高だ!
それぞれの鎧のサイズは大き目のようだが、動きが邪魔をされることはなさそうだ。
鎧を身に着けた二人が、再び受付のある1階に降りていく。
「よし、行くぞ」
2人の新たな装備を確かめもせずクーガーはギルドを出ていった。
その手には、新たな袋が下がっていた。
『なんだかな~』
冒険者ギルドを出たところで、クーガーから幼い二人に別の指示だ出た。
「今日は馬を連れていく」
アルスは一人で冒険者ギルドの裏にある、馬小屋に向かうと黒毛の牡馬のダリルと、その子供のアレックスを連れてきた。
そして3人と一匹と2頭は街を出た。
ちなみにクーガーは馬を持っていないので、徒歩での移動だ。
前日と同じく一角ネズミを狩り、次にゴブリンを狩るのだが、今回はアルスとミヅキの二人だけで、2匹のゴブリンを相手させられた。
アルスはひたすらにゴブリンの攻撃をスモールシールドで防ぎ、隙を見てミヅキがショートスピアで攻撃する。
何度かゴブリンの攻撃がアルスをかすめたが、ソフトレザーアーマが防いでくれた。
お陰で、今日はミヅキが唱えるヒールの出番はなしだった。
「よし、休憩したら最後の獲物を狩るぞ」
クーガーはカバンから出した干し肉を漆黒の狼に与え、自分も干し肉を口にする。
休憩を終え、漆黒の狼を先頭に3人は森の奥へと分け入っていった。
突如、漆黒の狼が立ち止まり、姿勢を低くした。
「ガァルル……」
すると前方の茂みの中から、低い地響きのような唸り声が響いてきた。
「アルス、ミヅキ、俺が合図するまで後ろで待機しろ」
クーガーは、幼い二人に指示を出すと、右手にロングソード、左手にダガーを逆手に持ち飛び出していく。
ダガーの片側の刃は、目の粗い櫛のように切り込みが入っている。
『もしかしてソードブレーカか』
ソードブレーカは、櫛状になっている峰で敵の剣を受け止めたあと、ソードブレーカを捻ることで剣を折る武器の事だ。
クーガーが茂みに到着するのと同時に、真っ黒な壁が現れた。
黒い壁に見えた物は、立ち上がると2mを優に超える巨大なクマだった。
しかも鋭い爪を伸ばした前足は4本もある。
前に飛び出したクーガーは左手に逆手で持ったダガーで、巨大グマが繰り出した攻撃をいなしていく。
そしてロングソードを小さく振ったり、突いたりしながら、クマに確実に傷を与えていった。
「ミヅキちゃん。弓を使って」
アルスは、ミヅキを近づくのは危険だと判断し、弓を使うように指示した。
『なかなかいい判断だ』
そしてアルスはじりじりと、巨大グマに近づいていく。
無数の傷を負った巨大グマの動きが鈍ったとき、背後から漆黒の狼が音もなく飛び掛かり、首元へ牙を突き立てる。
「グゴーーー」
巨大グマは漆黒の狼を振り払おうと暴れるが、いっこうに離れる気配はない。
「いまだ!」
クーガーは合図を出しながら、右手に持ったロングソードと。ともに巨大グマの腹目掛けて襲い掛かる。
アルスも一拍おくれで、盾を前に構え、ショートソードをランスのように構えて飛び込んでいく。
ヒュン
アルスの斜め上をミヅキの放った矢が通り過ぎ、巨大グマの肩に突き刺さる。
クーガーの袈裟切りが、巨大グマの首の付け根から胸にかけて炸裂する。
「グガーー」
そしてアルスのショートソードが巨大グマの腹部へと、根元まで突き刺さった。
「グオーーーーー」
それでも動こうとする巨大グマから、アルスは慌て剣を抜き後退すると、入れ替わるようにクーガーがロングソードとダガーをクロスするように巨大グマの脇腹に突き刺した。
ブズススーーー
ギシャー
さらに深く突き刺さったロングソードとダガーを左右に大きく開き、クーガーは巨大グマの腹部の右半分を切り裂いた。
「ゴボゴボボボ…………」
巨大グマは白目をむいて仰向けに倒れた。
ドスンーーーーー!!
「ハァハァハァ……」
さすがのクーガーも肩で息をしていた。
アスカとミヅキに至っては、その場に座り込んでしまった。
「休んでいる間に魔物に襲われたらどうする」
クーガーは、放心状態の幼い二人に冷たく言い放つと、ギルドから持ってきた袋から、魔物の皮で出来た、頑丈で滑らかなシートを地面に広げていく。
次に巨大グマの両足をロープで括り、黒毛の牡馬、ダリルに引かせると、巨大グマをシートの上に移動した。
最後に巨大グマを大きなシートで包み、ロープを使って馬に繋げると準備完了である。
『なるほどね。よく考えられたものだ』
頑丈で滑らかなシートで巨大グマを包むことで、引きずったときに獲物がすり減るのを防ぎ、さらに地面との摩擦も軽減して運びやすくして、馬への負担も減らしているようだ。
そして3人と一匹と2頭は大きな獲物を持って街に戻った。
4本腕の巨大なクマは貴重な材料になるらしく、冒険者ギルドが銀貨50枚で買い取ってくれた。
その内、銀貨30枚が二人の鎧代、さらにクーガーの取り分が銀貨10枚、そして残りの銀貨10枚がアルスとミヅキの取り分であった。
あと一角ネズミとゴブリンの討伐報酬は全額アルスとミヅキが受け取った。
ちなみに、この世界の通貨単位は、
銅貨
銀貨 = 銅貨100枚
金貨 = 銀貨100枚 = 銅貨10000枚
となっていることが判った。
また、これはあくまで俺の感覚だが、各通貨を現代の相場に当てはめると、
銅貨:100円
銀貨:10000円(一万円)
金貨:1000000円(百万円)
といったところだ。
そして、猛特訓の成果だろうか、三日間でアルスがLV4、ミヅキがLV3にそれぞれレベルが上昇した。
さらに、二人の冒険者レベルもLV2に上がったことが、受付嬢のシルフィーさんから告げられた。
アルサス(※サイアス)
LV4(冒険者LV2)
クラス:ファイター
スキル:
ソード(剣):LV2
→バッシュ
→スラストアタック(突き)
アックス(斧):LV1
ボウ(弓):LV3
→スリーショット
→ハードショット
精霊魔法(火):LV0
→ファイア
シールド(盾):LV1
乗馬:LV3
ウイップ(鞭):LV1
→調教
※神眼:LV3
→鑑定
→索敵
※霊体:LV2
→憑依
なんと、というかついに、アルス君のクラスが村人からファイターになりました。
『おめでとう、パチパチパチ』
いまいちこの世界におけるクラス(職業)システムの事が判らないが、要は本人の気の持ちようなのかもしれない。
あと地味にシールド(盾)スキルも獲得しているのは有難い。
そして神眼に新しく索敵が増えた。
アルスの中にいる俺の視界の右上に、新しく緑色をした円が表示されるようになった。
それはレーダーのようで、中心に白い光点があり、まわりに青色や黄色の光点が表示されている。
ちなみにミヅキと受付嬢のシルフィーさんは青色で表示されているが、クーガーは黄色だったり青色だったりしている。
ミヅキ
LV3(冒険者LV2)
クラス:巫女
スキル:
採取:LV1
神聖魔法:LV3
→ヒール
→ホーリーライト
→ホーリーフラッシュ
→フィアー
ボウ(弓):LV2
→ハードショット
乗馬:LV1
ポールウェポン(槍):LV2
→ ダブルアタック
ミヅキの方も順調に成長している。
今回、ミヅキは新たにフィアーを覚えたのだが、お祭りの夜にも使ていたのは、なんだったのだろうか?
ちなみに祭壇にあるお皿を光らせたのはホーリーライトを使ったと思われる。
それにしてもクーガーがした猛特訓は、効率重視のLVあげ(レベリング)そのものだった。
この世界にも、LV上げとゆう概念があるのだろうか?
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