002: Happy Birthday (2)

「俺って十一月生まれやったんやなあ」


 我ながら今さらやけど、俺はびっくりしてアキちゃんと話してた。


 京都の街中まちなかにある、その夜もう閉店間際の、ある洋服売ってる店でのことや。


 なんかおそろいの小物でも買っちゃおうかなあ、イヤーン言うてな、ウフフ、ウフフ言うて店に入ったんや。


 けど、おそろいちゅうのが今さら恥ずかしい気がしてもうてな、お互いもじもじしてもうて、イマイチ買うもんが決まらへんかったんや。


 それで、ついつい雑談なんかしてもうててな。


「事務作業、頼んだ時に、神戸の蔦子つたこさんとこの狼さんが言うてたんや。お前も誕生日もうすぐやって。俺もそれで初めて知ったのやけどな」


 アキちゃんは店のたなにある手袋とかを見ながら、気まずそうに言うてたわ。


「ごめんな。そんなもん勝手に知ってんのもやけど、知らんかったのも。去年、ちゃんと聞けば良かったよな。それくらい」


 アキちゃんはそれがえらいひどいことやったみたいに言うてた。


「別にどうでええで。ほんまの誕生日とちゃうもん。気にせんとってくれ。生まれた日なんか憶えてへんもん」


 俺はほんまにそない思って言うたんやけど、アキちゃん勝手に反省顔やったわ。


「そんなん、俺かて憶えてへんで。自分が生まれた日がほんまに今日かなんて。親が嘘ついてんのかもしれへんやんか?」


 アキちゃんマジで言うてるみたいやった。


 そう言われたら、そうやなって思えて、俺も可笑おかしいなって笑ってた。


「ほんまの誕生日がいつか知らんのやったら、書類に書いてあんのが、お前のほんまの誕生日でええやないか。同じ十一月なら、二人分一緒に祝えるやろ。これから……ずっと」


 最後の方、ええぇ何々て言いたいぐらい声小さなってて、俺は神のごと蛇聴力スネークイヤーを開発せなあかんかった。


 もっと大きい声で言えへんのかジュニアは⁉︎


 お前のおとんは、いつも怜司兄やんに、平気で好きや好きや言うてやってたぞ⁉︎


 そのタラシの遺伝子どこ消えたんや。ほんまにもう。別にええけどな⁉︎


 ええわけあるかい! ギャアア畜生ちくしょうと俺は思ったけど、アキちゃんがめっちゃ恥ずかしげに商品棚のマフラーをんでるのが目に入って、それ、ええなあ、ぬくそうやなあって気づいた。


 それ、アキちゃんに似合いそうやったんや。暗めの色合いのタータンチェックでな、いい色やった。それに触り心地もよさそうやしな。


「アキちゃん、それにしよか。そのマフラー俺にも似合うかな? さっきから店員さんが、はよ帰ってくれってオーラめっちゃ出してる」


 閉店時間ギリやった。ほんまにギリ。もう無理ぃ。レジ閉めさせてお願いぃっていうぐらいの。


 アキちゃんはハッとしたふうに自分がんでたマフラーを見て、それから向き合ってる俺を見た。


 ふわっと柔らかい肌触りのカシミヤ山羊やぎさんのマフラーを、アキちゃんが俺の首に巻いてくれた。


「よう似合うわ。これ好きか?」


 アキちゃんがまぶしそうに俺を見るんで、俺もそのアキちゃんの顔をまぶしく見上げて、こくこくうなずいた。


 そしたらな、ウウォッフォングフェッグフェッって店の人がもう死ぬんかっていう咳払せきばらいをした。ああもうレジが。レジがあ!


「これ二枚ください。一個ずつプレゼント包装で」


 めちゃくちゃ照れてる顔で、アキちゃんは幸せやわあっていうオーラを発し、息できてへん店員さんに言うた。


 もう店閉めるしプレゼント包装やめてくれへんかっていう店の人のオーラと、アキちゃんの幸せオーラがぶつかり合い、火花がバチバチ言うてた。


 せやけど、アキちゃんの我がままオーラに勝てる者などいてへんわ。


 かしこまりました言うて、店の人がかしこまってくれた。ほんますんません。


 それでアキちゃんと俺は無事、お互いへのプレゼントを手に入れて、家に帰ることがでたんや。もちろん、ばっちりプレゼント包装でな。


 空気読めよジュニア。ほんまにしょうがない奴や。


 しゃあないし今夜も俺が食うといたろ。


 イッヒッヒ!


 帰ろ帰ろ! 早う帰って二人っきりで、あーんなことやこーんなことしよ!


 楽しみやなあ。


 ほな皆さん、今日のところは、このへんで……。


 あなたの水地亨でした。



――完なの?――

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