第2話
「それから? それから?」
クラスメイトの
「『このグズ! 靴を舐めなさいホラ早く!』みたいな感じだったわけね?」
「いや、そこまでは……。グズとは言われたけど」
「初対面の相手にいきなりグズなんて普通の神経じゃ言えないよね。ムカついたでしょ。イラッときたんじゃない? どうよ」
「うん、まぁ……。でも本当、あっという間の出来事で、
ひとまずそう
彼女が熱心に書き込んでいるメモを恐る恐る覗いてみると、『
「ねえ鳥越さん、そのメモって」
「洋子でいいってば。メモ? これ?」
遠慮なく、私は彼女を洋子と呼ぶことにする。あんまり不安なもので、ついつい背中は丸く、声は小さくなった。
「洋子、いろいろ書いてるけど、それ、そのまま記事にしたりしないよね? 困るよ私。この学校来たばかりなのに、そんな、上の人から睨まれるような書き方されたら」
「上の人っていうか、生徒会長は私たちと同じ二年生だけどね」
「え、そうなの?」
洋子はころころと笑って私の肩を叩いた。
「平気平気。由美の名前はちゃんと伏せておくから」
「けどぜんぜん無いよね匿名性」
「大丈夫。由美よりずっとひどいこと言われた生徒がたくさんいるんだよ、この学園には。そのたびに、私たち新聞部は、あの女の
ほんと
あの女というのはもちろん、私が心の中で『縦ロール会長』とあだ名した大安堂玲華生徒会長のことだ。
工業用センサーの製造販売からスタートして、通信や創薬、アパレル産業、外食産業と多くの分野に事業を展開、今や政財界に多大すぎるほど多大な影響力を持ち、この三ノ森学園の創始と運営にも深い関わりを持つという『大安堂グループ』。そのトップである
「
「嘘」
それはないでしょう、なんて笑って流すことはできなかった。何しろあの迫力と威圧感だ。遅まきながら、私は不安になってきた。
これからの学園生活、私はちゃんとやっていけるのだろうか。製薬会社の営業マンであるパパの思いがけない
何気なく、クラスを見渡してみた。休み時間の教室は賑やかで、誰もが思い思いに、集まったり散らばったりしながら自分たちの時間を過ごしている。転入してきたばかりの私が質問攻めにあったのは、ホームルームの後だけだった。あとは洋子をはじめとする席の近い女の子たちが、何かと話しかけて、私の緊張を少しずつほぐしてくれた。二年B組は、とても居心地の良い、雰囲気の明るいクラスだ。
「けど本当、転校初日から、学園一の美男美女とそんな形で関わり合うなんて、由美ってラッキーなんだかそうじゃないんだか」
洋子がメモ帳を仕舞いながら
瞬間、朝日を背にした彼の微笑みがフラッシュバックして、私の頬は一気に熱くなった。
「やっぱり、あの
「そう。海藤幸也。二年D組の超人。勉強だって楽器だってスポーツだって、何だってこなせる万能の美青年。ただ、やっぱり生徒会長ほど目立つ存在じゃないかな。あれに比べれば、海藤くんはまだしも普通の人。ちなみに双子なの」
「双子!」
「そう。隣のC組に……」
と、言いかけた洋子のスマホが短く振動した。メールが届いたようで、画面を覗き込んだ彼女は大きな目をさらに大きくした。
「本当に来た! お手柄だわアイツ、あとでナデナデしてあげなくちゃ」
椅子に座ったまま体を弾ませて、洋子はとても嬉しそうだ。キョトンとしてしまった私に、これ見て、と画面を向けてきた。
それはカードらしきものの画像だった。周りに
「場所は文化部棟にある美術部の部室。今、私たち新聞部が総力を上げて追っている事件の最新情報だよ、この画像」
「事件?」
「そう。部の後輩にね、休み時間ごとに美術部の部室をチェックするようにって指示しといたの。良かったあ。成果が上がった」
洋子はホクホク顔でスマホの
「事件って、この学園の中で? どんな事件?」
「盗難事件。生徒の作品の」
「え」
思わず眉をひそめた私にずずいと顔を寄せて、洋子は声のトーンを落とした。
「犯人の名前はね、『サヤマミユキ』っていうの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます