第10話 シンVSエクセレトス

「では、構え!」

 さて、初実戦使用といこうか。


 先手を打ったのは俺だった。


 身体強化で100メートル走5秒程の速度で走る。


 対するエクセレトス先生は、未だ何も動きを見せていない。


 よゆーだなこのやろー。


 俺は試験用の剣で、エクセレトス先生の胴を後ろから、皮肉も込めて横薙ぎにしようとした。


 が、先生は前にゆっくりと一歩ずれるだけで避けた。


 簡単にやるなぁ……。

 そう思いつつも、剣を切り返して追撃をする。


 逆袈裟斬り、横薙ぎ、突き、唐竹、逆袈裟のフェイントから突き、とか色々やるがどれも上手く流される。


 結構な速度でやってるのに、純粋にすごいなこの人。


「剣を練習したのは分かるが、まだまだ付け焼き刃だな。無駄な動きが多すぎる」


 先生にそんな指摘をされたが、それは一応自分でも分かってんだけどな……。


 流石にこのままじゃ埒が明かないので、一旦距離を取る。


 だが俺の思惑通りには行かず、一瞬でその距離を詰めて俺を仕留めようとしてくる。


 俺の力を見るために手を抜いてるのは分かるけど、それでもキツイな……。


「本物の闘いじゃそんな簡単に自分の思い通りにいかないぞ?」


 どうにか攻撃を与えなきゃ……。

 このままじゃ本当にまずい。


 そう思って俺は、一矢報いるために影と同化した。


「お? それがお前の魔法か」

 少し笑いながらエクセレトス先生が言う。


 俺は影と同化したまままま動く。


 その瞬間、エクセレトスはシンを見失った。


「うん?」

 不思議そうにするエクセレトス先生。


 だが……。

「はははっ」

 まるでなんてなと煽るように、先生はは笑った。


「多分お前は、影と同化してるだろ? なら、こうなったらどうする?」


 エクセレトスは左手を天に掲げ、こう唱えた。


「オラ・フォス・テリオ」

 そう呟いた瞬間、辺り一帯に影が無くなった。

 全てが、先生によって生み出された光に照らされたのだ。


「影との同化なら、同化してる元の影がなくなったんなら強制的に解けるだろ? さぁ、どうする?」


 普通なら俺の姿を捉えられてしまうはずが、先生は俺の姿を捉えることが出来なかった。


「おぉ」

 楽しいというのがすぐに伝わってくるほど、楽しそうにしているエクセレトス。

 まるで、期待に応えてくれてありがとうと言っているようだ。


 その一瞬の隙を突き、俺は影との同化解除とある魔法を同時に行う。


 そのまま突きを繰り出す。が、避けられた。


「どうやった?」

 笑いながらエクセレトスが俺に問う。


「秘密ですよ。そう簡単に敵に情報を与えるものじゃないって、俺を訓練してくれた人に言われましたから」


「そうかそうか。それはいい事だ」


 つーかどーしよっかな……。

 今ので行けたらよかったんだけどなぁ……。


 練習では1回も成功しなかったけどアレ、やってみるか?


 いや、やめとこ。失敗したら即負けるし。

 今はそんな賭けるべき時じゃない。


「そうやって考えるのはいいけど、体が止まるのは良くないぜ?」

 などと言いながら突っ込んできた。


 試験なんだからもうちょい弱くしてくれてもいいんだけどなぁ……?


 先生に対して不満を抱きながらも、俺は左ステップで先生の突きを躱す。


 そのすれ違いざまに影を纏わせた上から下への掌底打ちを食らわせる。

 本気の身体強化も掛けながらだ。


 何故剣じゃなくて掌底打ちにしたのかというと、ある程度の重さのある剣での攻撃じゃ、多分避けられるから、速さ重視の掌底打ちにした。


 まぁこの時の俺はそんな詳しいこと考えていなかったんだが。

 これがやりやすかったからそうしただけだ。


 せっかくのチャンスを無駄にはしたくないしな。


 その時の俺の動きは、俺がやったとは思えないものだった。


 でもそのおかげで、やっと初めてまともに攻撃を食らわせられた。

 と、思ったが、剣を持っている腕と逆の腕で短剣の剣背で防がれた。


「でもそれだけじゃっ!」


 俺の掌底打ちはその短剣を壊してエクセレトス先生に向かう。


 ——もらった。


 先生はそれを見て……優しく微笑んだ。

 それと同時に、何かを呟く先生。


 その時の俺には、先生が何を言っていたのかは分からなかった。


 分かったのは、次の瞬間に、俺の手は先生に止められて、無力化されていたことだけ。


「……は?」

 予想外の出来事に、素っ頓狂な声がでる。


「試験はここまでだ!」

 エクセレトス先生はみんなに聞こえるように言った。


「いやーお前結構いい筋行ってたぜ? 今の短剣は少し特殊な術が施されてたから簡単には壊れないし、何より俺が大きく隙を見せた時も全く油断がなかった。っつーことで実戦試験の合格基準は全然上回ってる」


 それは良かった。そう言おうとした時、俺の意識は途絶えた。


 ―――――――――

 シンが、エクセレトス先生と闘っている光景を見にしながら、私は思う。


 シン、すごい成長してるな……。

 普段はすごい気分屋で、いつも抜けてることが多いのに。


 そしてシンが先生の短剣を壊したところで、試験は終了した。


 目とか脳を身体強化の要領で活性化させてなんとか見えてたけど、それでも1部は見えなかった。


「私も余裕ばっかり持ってないで、ちゃんとしなきゃな……」


 軽い焦りを抱きながらも、気を取り直し、そんなことを誰にも聞かれないように呟いた時、突然シンが倒れた。


「シン!?」

 私は心配になり、急いで駆け寄った。


「心配すんな。倒れたのは魔力切れのせいだろ。あれだけの時間ずっと魔法を使って、更にいくつか同時に使うってのはこの歳じゃすごいほうだ。そんなことしたんだからそりゃ魔力切れにもなるわ。休ませれば回復するからとりあえず保健室かなんかで寝かしとけ」


「ありがとうございます」

 お礼を言ってシンを運ぶ。


 ……運ぼうとするが、出来なかった。


 ……シン、いつの間にこんな成長したの?

 持てない……。


「大丈夫か?」

 エクセレトス先生が、私がシンのことを担ぎ上げられない様子を見て、助けてくれる。


「つーか保健室の場所も知らねーだろ。どうする気だったんだ」


「……あ」

 どーしよ、すっかり忘れてた。


 シンが倒れるのを見たら、どうしてもあの時のことを思い出してしまう。

 そのせいでパニックになっちゃったんだ。


「はぁ……しっかりしなきゃな……」

 もう一度気を引き締め直して、シンを担いだエクセレトス先生について行く。


「とりあえずこいつ休ませておきます」


「あぁ、頼んだ」


 私たちをずっと案内してくれていた先生とそんな会話をしたエクセレトス先生。


 先生に敬語を使われて、あっちはタメ語って、あの先生ってそんな上の立場の人だったの?


 少し驚きながらも、先生の後を追いかけた。


「んじゃ、ここに寝かせとくな。起きたら誰か教職員に帰るって伝えたら自由に帰っていいぞ」


「ありがとうございました」


「んじゃもう行くな」


「はい」

 そう言ってエクセレトス先生は退出した。


 私はここでシンを待とう。


 ―――――――――


 ……目が覚めた。


 知らない天井だ……。


 ん? この台詞を言ったってことは、俺転生したのか?

 死んだのか? え、まじ?


 あ、なんだ。してないわ。

 ちゃんと自分の17歳の体だ。


 良かった、焦った。


 え、でもじゃあなんで俺は知らない天井を?


 んーっとたしかー……。


 エクセレトス先生と実戦試験で戦ったんだよな……。

 で、終わって……。


 あ、そうだなんか急に意識なくなったんだ。


「あ、シン起きた?」

 全ての経緯いきさつを思い出した時、レイの声が聞こえた。


「……おはよう?」


「おはよ、ちゃんと何があったのか覚えてる?」


「んとな、試験で戦って急に意識なくなったってのは覚えてる」


「よかった、全部覚えてるね」


「でさ、ここどこ?」

 見覚えのないその場所を、身体を起こし、辺りを見回しながら問いかける。


「ソルセルリー学園の保健室」

 保健室……。


「なんで俺は倒れた?」

「魔力切れって先生言ってたよ」

「あぁ、そういうこと」

 理解。

 ま、確かにあんだけ魔法使ったらなるのも分かるは分かる。


「シン、どこも……変なとこないよね?」

 レイがいつものほんわかしてるオーラを消して、本気で心配してる様子で聞いてくる。


「……あの時のことか?」

 その心配そうな表情を見て、原因に心当たりがあったので、そのことが原因かと言うと、その通りだと、肯定される。


「……うん」

 いつもと変わって弱々しい声で言う。いや、この場合は、囁くが適当かもしれない。


 俯き気味なレイを俺は優しく撫でる。


「大丈夫、もうあんなことにはならないから」

「……ほんと?」

「うん」

 を安心させるため、優しい声で語りかける。


 レイは安堵を望み、頭を俺の胸に預けてくる。

「少しだけ……こうさせて……」

 本当に小さな声だ。


 本当にあの時のことが心に刻まれてるんだな……。

 その証拠に少し震えている。


 大丈夫、もうあんなことにはならない。絶対に。


 俺は、レイの頭を優しく撫でながら、そう誓った。

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