第11話 竜喰い(笑)

「落ち着いた?」

 俺に預けていた頭を戻したレイにそう言う。

「……うん。ごめんね」

「大丈夫だって」

 優しく言う。

「……」

 レイは少し俯いている。


「……ねぇ、いつまでそこでイチャついてるの?」

 誰かに声をかけられた。


 え、誰?


 見たらそこには、翠髪翠眼で丸眼鏡の白衣を着た女性が立っていた。


 え、誰?


「誰? って顔してるわね。私はこの学園の保健専門職員のセラピアよ」


 保健専門職員?

 あ、保健室の先生みたいな感じか。


 まぁ、そりゃ学校だからそういう人は1人はいるよな。


 ……え。

 ってことは、さっきまでの全部見られてた?

 ……え。


「大丈夫、もうあんなことにはならないから。

 ……ほんと?

 うん」

 無駄に上手い演技で真似てくる。


「「……っ」」

 似てるところが余計にムカつくな……。

 それと見られてたのがめちゃくちゃ恥ずい!


「ていうか、イチャつくのに夢中で本気で私に気付かなかったの?」


「「イチャついてない!」」

 俺とレイの声がハモった。


「ま、とりあえず元気になったみたいだし、一安心ね」

 そういえば、起きた時にあったダルさも、今はもう何もないな。


「これからどうする? 帰る? それともまたここでイチャつき始める?」


「「帰る!」」

 またまた俺とレイの声がハモった。


「じゃあもういいわよ。気を付けて帰ってね」


 俺たちは保健室から出て、そのまま帰路に付いた。


 あの人、すごいいじってきたけどちゃんと心配してくれたし悪い人ではないんだろう。


 すごいいじってきたけど。


 ―――――――――


 俺たちは帰り道王都の商店街らしき場所を観光しながら帰ることにした。


 お金は王から褒美としてもらったもののごく1部を持ってきているので困ることは無いだろう。


 今の所持金は金貨5枚と大銀貨8枚だ。

 つまり580万円。


 地球にいた時はこんな大金持って出歩くなんて考えられなかったな。


 ……真姫、ホントに大丈夫かな。

 一応あっちで何とかしてくれているとは聞いている。が、やっぱり自分の目で見ないと心配だ。


「シン! あれすごい美味しそうだよ!」

 レイの声によって俺の意識は戻される。

 まぁ、ここでそんなこと考えても今は何も出来ないし、しょうがないか。


 今は目の前のことを考えよう。


 そう思った直後、俺の鼻にものすごくいい匂いが漂ってきた。


 その匂いは1つの店から来ている。

 その店に行くと俺は店主らしき人に話しかける。

「おっちゃん、これ何?」

「ん? あぁ、これはな、ワイバーンとドラゴンの肉で作られたサイコロステーキだ」


 ワイバーンとドラゴン!

 凄そうだ。

 あれ、でもあんなチートがいっぱいいるんだからドラゴンは普通なのか?


「ワイバーンやドラゴンが店に出るのはすごくレアだから高いがな。だがその分めちゃくちゃ美味だ」


 あ、レアケースなのか。


 めちゃくちゃ美味……。

 食べたい……。


「ねぇ、シン……」

「なんだ……」

「私、耐えられない」

「奇遇だな、俺もだ」

「「ドラゴンのサイコロステーキちょうだい!!」」

 ハモる。


 なんか最近レイとよくハモってる気がする……。

 気のせいかな。うん、きっと気のせいだ。


「いいけど、1つの大銀貨2枚だぞ? 大丈夫か?」

 ってことは1つ20万か。

 サイコロなのに高すぎない?


 まぁ、でも今の俺達には関係ない。

「じゃあ10個ちょうだい!」

 そう言いながら俺は金貨を2枚出した。


「うぉっ!」

 17歳のやつがこんな大金をこんな簡単に出したのに驚いたのだろうか。目が丸になってる。


「は、はいよ……」

 戸惑いながらも10個くれる。


「ありがと!」

 礼を言って近くにあったベンチに座る。


 俺はレイに5個渡す。

「ほい」

「ありがと」


 1口サイズのミニステーキを1口で頬張る。


 ……

 食べた時、俺たちの思考は活動停止した。


 数秒後、意識が戻る。


 ……なんかもう、反応出来ない。

 美味すぎて美味いって叫ぶことも出来ない。


 こっちに来てから、王城でいつも三ツ星級のものを食べてきた。

 正直三ツ星級がどんくらいか知らないけど。

 だがこのミニステーキはそれらを簡単に凌駕すると簡単に断言出来る程美味い。


 俺とレイは見つめ合う。

 その次に、無言でハイタッチをした。


「……これはセレス達にも買って行かなきゃね」

「だな」

 またお土産用に計10個買って帰路につく。


 店主の人が更に驚いてたな。


「あの店のドラゴンのサイコロステーキ、全部俺たちで買い占めちゃったけど大丈夫だったか?」

「あー確かに」

「まぁ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。こういう時こそ楽観視で行こうよ」

「正にその通りだ」


 楽観視という結論で終わり、そのまま王城に戻る。


 城で王とセレス、第2王女のフィリアさん、宰相のクルシュさん、大臣のラクラさんに、それぞれ2個ずつあげた。


 ドラゴンの肉は王族でも珍しいようで、みんなすごい喜んでくれた。


 ―――――――――


 試験が終わって次の日には通知が来た。


 俺たちは2人とも合格出来た。


 学園は一学年ごとにS、A、B、C、Dの5クラスに成績順に分かれていて、俺たちはSクラス入り出来たそう。


 追加の情報で言うと、

 Sクラス=10人

 Aクラス=25人

 Bクラス=35人

 Cクラス=40人

 Dクラス=40人

 だと。


 俺達がSクラスに入るから、この学年だけは特別に12人になるらしい。


 正式に入学して授業参加などするのは一週間後らしい。

 入学式などはないみたいだから気が楽だ。


 さて、時間余るな。

 一週間後にちょうど学園行くから少なくとも5日は自由だ。


 何しようかなぁ〜……。


 ここはレイと相談してみるか。


 俺はレイの部屋の前に行って2回ノックする。


「はーい?」

「俺、シン」

「シン? どーしたの?」

「とりあえず入っていいかー?」

「いいよー」

 許可が降りたので部屋に入る。


「どしたの?」

 不思議そうにレイが聞いてくる。


「いや、これから暇な時間続くじゃん?」

「あ、だからその空いた時間どうしようっていう相談?」

 ……相変わらず変に察しがいいな。

「そうだけど」


「んー」

 少し目線を上にして悩む素振りを見せるレイ。


「あ、じゃあさ」

「ん?」


「王都観光しようよ。ほら、前少し見たけどそんなにしっかり見れなかったじゃん?だから見たいなって思って」

「あーいいなそれ。賛成」

「ね」


「じゃあ明日早速行くか?」

「行こ行こ」


「でも明日以外はどーする?」

「王都結構大きいから少なくとも3日くらいは潰せるんじゃない?」

「それもそっか」


「あとはー……んー。何かやりたいことある?」

「んー。あ、戦ってみたい」

「……戦闘狂?」

 引く素振りを見せながらレイが言ってきた。


「違う!」

 レイの頭をコツンと押す。

「誰が戦闘狂か」


「ギルドとか行ったりして依頼受けたりしてみたいってこと」

「だよね」

 レイがケラケラ笑ってる。


「まぁ、それで時間は潰せるでしょ」

「だな」


「じゃあ明日10時に行こ」

「おけ」


「じゃあ、おやすみ」

「ん、おやすみ」

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