相棒フェアリアルと僕の電子戦記

@Irezain

第1話 僕たちは今日も”狩り”を始める

 ガジェット——、空間展開、掌握型の拡張現実が行えるデバイス。一見して銀色の卵——と形容できるその物体を、宙に放り投げる。

 

「空間固定——固着完了フィックス

 

 カキンという可聴範囲ギリギリの音が波のように広がり、その成功を告げていた。

 対象領域——ここから半径百メートルには邪魔は入らなくなった。いつものように仕事を始めていく。


「クロスデバイス《シェル》への接続確認——。ネットワーク接続を三十ギガヘルツ帯高速共有ネットワークでシステムアップ、アックを確認、バーチャルプライベートネットワークでの通信を確立」

 

 手のひらをくるくると指揮を取るように回す。タイミングよくネットワークがレイヤードに重なりあっていく。

 

ガテマラの深煎り中挽きステルス通信セットを準備——確認。温度と秒数を確認、蒸らし時間了解。擬似乱数のシードを算出、ハンドドリップ開始」

 

 ついと注がれる情報の羅列。密度の濃い情報帯域が、圧縮されて脳に流し込まれる。

 

電子妖精フェアリアル起動。ツーマンスルで相互監視、最深層ネットワークアプリオリ接続ダイブ

 

 少女のかたちを成したフェアリアルが、寄り添うように、あるいは僕自身であるかのように、自身の実態に重なる。

 

「……まだねてたんだけどなあ」

 

 彼女は悪態をつく。

 

「これでも気を遣ったつもりだけれど? さそもそも物理身体がある僕はともかく、フェアリアルである君には疲れという概念は無縁では?」

 

 はいはい、と言うように彼女は手をひらひらとさせた。

 

「きぶんのもんだい」

 

 気分の問題か。

 

「まだこなれてないんだよ。でふらぐがおいついてなかったり……ちょいまち」

 

 ふわりと彼女のシェルが曖昧になったかと思うと、パキンと明瞭な輪郭を帯びた。

 

同期シンク完了っと。あー、で、今日は何の日なの?」

 

児童処分区画アーケードから二人、男女が抜け出してる。七五三の日」

 

 彼女は苦虫を噛み潰したような顔をした。その綺麗な顔を躊躇いなく歪ませるのは、彼女らしいと言ったところ。

 

「……また、擬似餌チャフ撒くの?」

 

 くるくると変わる表情は見てて飽きない。期待がないまぜになった表情。

 

「チャフも何度も使うと有効性が薄れていくから、今日は素直に狩りかな」

 

「やったっ! まどろっこしいのは、私の性に合わないんだよね」

 

「……そうやってまた逃げられるなよ。後で困るのは僕らなんだから」

 

「分かってるよー。下手なコーラー召喚者が命をかけて呼んでくれたんだから、それぐらいの頑張りは見せてあげるよー」

 

 ちっちっちっと彼女は指を揺らした。

 

「——じゃあ」

 

 あくまでも僕は冷静に。

 

「いっきましょうか!」

 

 彼女は冷徹に。

 

 今日も狩りが始まった。

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