第4話 最近の転生は凄いんです。

「なんかこう…… 今までのラノベにないキャラクターになりたい」


「な、なるほど。これまたよくある相談ですね」


 掛けた眼鏡のズレを戻しながら、寝癖の酷い男性が、スーツを身に纏い、膝に少女を乗せている女性に話しかけた。


「それで、具体的にどのようなものになりたいとかあるんですか?」


「そうだな、蜘蛛とかスライムとか、メジャーなやつじゃなくて、もっとこう…… 他のやつ?」


「オリジナル性のある転生ですか」


 女性は、膝に乗せた少女に資料を取るよう合図し男性の話を聞く。


「高校生だった頃に、どんなモンスターがいちばん強いんだろって思って考えてたんだけど、結局出たのがスライムなんだよね。でもそれだとオリジナルじゃないじゃん? で、ゴブリンとかどうだろうなぁって思ったんだけどさ、ゴブリンはゴブリンで肌の色が緑じゃん? 俺褐色肌とか苦手なんだよねぇ」


「つまり、かっこよくて強い、しかも誰も考えつかなかった独創的なキャラがいいのね! 分かるわ、私もよくそういうのに憧れるもの!」


「おお! お嬢さん以外と分かる人だね! そうそう、出来れば人型のイケメンか美少女になれるようなやつがいいんだよね!」


 資料を女性に渡しながら、少女が男性の言葉に目を光らせて答えると、男性もテンションを上げ、2人で転生の話で盛り上がり始めた。


「話してもいいでしょうか」


 静かに感じる怒りの籠った声が、盛り上がっていた男性と少女の耳に入る。チラリとそちらを見ると、頬をピクつかせながら、女性が2人を見ていた。


「「す、すみません」」


 ビクッと肩を揺らし、こちらの方へ顔を向ける男性を無視しながら、女性は話を続ける。


「いえ、問題ないです。それでは、お客様のご希望のキャラクターを考えるところから始めましょう。さっき聞いたお客様の意見は、人型になれる、強い、独創的の3つです。最初の2つは問題ないのですが、最後の独創的というのが、難しいですね」


「やっぱり、出され尽くしちゃってる感じ? 確かに今じゃ無機物に転生し始めてるもんね〜」


 ぐだっと机に腕を伸ばし、完全に諦めている男性。その様子を見た女性は、男性の背中を軽く叩くと、姿勢を直すように合図する。


「なにも、案がないとは限りません。1つ、微妙ではありますが、ありますよ独創的なキャラ」


「えぇ!? マジか!」


「はい、マジです。それでその案というのが『人形に転生』です」


「なんか微妙ー」


「そこのお嬢さんと同意見です」


 男性にバレないように、「黙ってろ」という意思を込めて少女を睨むと、女性はパンっと手を叩き。


「まあ微妙なのは分かりますけど、このままじゃ時間が経つばかりです。なので、これを仮決定として、いい案が出たらそれにするというのでどうでしょう」


「まあそれなら…… 」


「では、転生方法について話しますね」


 埒が明かないと思ったのか、女性は先に、転生方法について話始めた


「まず、この手の転生では大体社会人が基本です。そして見た目はまさにモブ。これが理想なんですが、お客様は…… びっくりするぐらい当てはまりますね。というかその影どうなってるんですか?」


「生まれつきです」


「前世でどんなことしたらそうなるんですか……」


 女性は男性の、顔から上半分を見て唖然とする。男性の顔は上半分が、眼鏡を掛けていなかったら目の位置が分からないほど濃い影で隠されていた。


「これ坊主にしても治らないんですよ」


「もはや呪いなのでは?」


 男性の言葉に困惑する女性だったが、話が逸れる前に話を元に戻した。


「まあ見た目は完璧なので、あとは行動ですね。とは言っても、その辺の横断歩道渡ってトラックにゴツンか、通り魔に刺されたりするだけですが」


「痛そうなのしかないですね……」


「私達の知る限りではこんな感じの転生方法しかありません。もしかしたら新しく痛くない転生方法が出てくるかもしれませんが」


「それを願うしかないのか……」


 苦笑いする男性を見ると、女性は少女の膝をつんつんとつつくと耳打ちをした。


「なんか可哀想だからお前の知識で励ましてやれよ」


「そ、そんな事言われても、痛いのは事実なんだし……」


「いいから行ってこい」


 女性は少女を膝から下ろすと、男性の方へ背中を押した。

 押された少女はオドオドとしながらも、男性に話しかける。


「ほ、ほら! 刺されたり轢かれたりする転生主人公って、大体が『冷たい…… まるで底のない海に沈んで行くような感覚だ』とか言って自分の状態を説明出来るくらいなんだから案外痛くないのかもよ」


「確かに! 意外と痛くないのか……!?」


 男性が元気を取り戻したのを確認すると、少女は女性の膝の上に戻った。

 女性は膝に乗った少女を見下ろすと。


「ナイスフォロー。相手が馬鹿で助かったな」


「なんか余計可哀想に思えてきたわ」


 少女が哀れみの視線を男性に送る中、女性は元気になった男性を見て話を続けた。


「転生方法に関しては以上です。それでは転生後の話を始めますね。まず、転生してすぐにモンスターと戦ってゲームオーバーなんて最悪な展開にならない為にも、なるべくモンスターは避けてください。避け続けているうちに、自分の能力を理解し、そこで初めてモンスターと戦う。そういった展開が望ましいです」


「確かに今俺がしようとしているのは人形に転生だからな……」


「はい。人形に転生なんて全く事例のないことなので、危険は避けていただきたいですね」


 女性は字でびっしり埋まったメモを剥ぎ取ると、少女に渡し、再び新しくメモを取り始めた。


「それで、その後の話ですが、恐らくお客様の能力に驚いたモンスター達が従者にしてくれと懇願してくるはずです。全てYESで答えてください」


「まあNOって言った主人公なんて居なかったからな」


「こういう時は大体が擬人化できる、それもすごい可愛いモンスターなのよね!」


「うおお……! なんかやる気が漲ってきた!!!」


「そうですか。それは良かったです」


 女性はテンションの上がっている男性に呆れながら、メモを書いていた手を止めた。


「まあざっとこんな感じで説明は終わりです。あとこちらに今回の相談内容が書いてあります。良ければ読んで参考にしてください。あっ何か質問はありますか?」


「全くない!」


女性は男性の言葉を聞き、満足そうにすると。


「もし人形に転生以外になってしまった場合でも、私が言ったことを頭の隅に入れといて貰えると嬉しいです」


「わかった! メモ帳もあるし、多分大丈夫だよ。…… あっそうだ。お嬢さん、話してくれたお礼にこれをあげよう」


 男性は帰り際に少女の手の中に何かを入れると。


「じゃ! また来れたら来ますね!」


 そう言うと扉を開けて部屋から出て行った。

 女性は、男性が出て行くのを確認すると、少女の手の中をチラリと見て。


「何貰った? お菓子とかだったら半分くれよ」


「いや、なんかよく分かんないけど、ト〇ストーリーのウ〇ディのキーホルダー貰った」


「適当にポケットに入ってたもの渡したなあいつ。まあいいや、どうするそれ? 捨てる?」


「んー…… いや、貰っておくわ」


 少女は貰ったカーボーイの人形をポケットに入れると、女性に尋ねた。


「あなた、あの悪魔とどういう関係なの?」


「どういう関係と言われてもなぁ。仕事仲間としか」


「ふーん……」


 女性はジーッと自分を見ている少女の頭をポンっと叩くと。


「おし、帰るぞ」


「…… 本当にいいの?」


「一人暮らしは飽きたからな。部屋は賑やかな方がいいし」


 女性はそう言うと少女の腕を掴み、歩き始める。少女は女性の背中を見ながら、何も言わずに着いて行くのだった。




 ***




 こんにちは、私リカちゃん。元々はどこにでもいる普通のサラリーマン。だけど大変! トラックに跳ねられて転生しちゃった!


 トラックに跳ねられた時は本当に痛かったけど、今は王城の中で、フラディ王女の大切な人形として毎日王女と遊んでるわ。

 フラディ王女はとっても可愛いの! 金髪でロリで純情でもう最高! ハグされた時は鼻血が出るかと思ったわ!


 …… とまぁ茶番はさておき、俺は、人形に転生した。

 最初は戸惑ったんだ。だってまさか女の子が遊ぶような人形になるとは思ってなかったからさ。でも意外とこれはこれでいいと思ったんだ。だって、持ち主は金髪でロリ。

 これだけでも最高だって言うのに、身長差のおかげで上を見上げればその子のパンツも見れるんだ。こんな最高な人生を送れるようにして下さった神様には頭が上がらないよ。本当に。


「フラディ様。夕食の時間でございます」


「分かったわ! 今行く〜!!!」


 メイドの言葉にフラディ王女は笑顔で部屋を飛び出して行く。

 ……守りたい。この笑顔。


 俺は周りに誰も居ないことを確認すると。


「もういいぞ。出てこいお前ら」


「…… はいボス。今日も見事な人形っぶり、感動しました」


 俺の合図と共にゾロゾロとベッドの下から人形達が現れた。そう、お気づきだろうが、可愛いリカちゃん人形は別の顔。本当はこの、人形達で作られたマフィアのリーダーをしている。こいつらは俺の従者。フラディ王女を守るため日々、フラディ王女に迫り来る様々な危険を追い払っている。


「ボス、写真の現像できやしたぜぇ。見てください貴重なパンチラですよ。なかなか綺麗に撮れたんじゃないすかぁ?」


「よくやったテッド。これは俺が大事に管理する」


 テッドは偵察隊隊長。俺が作ったカメラを使い、敵の視察や、フラディ王女の貴重な写真などを撮っている。

 それにしてもよく撮れた写真だ。しかもこれ風で花が舞っているじゃないか。これは国宝にしてもいいんじゃないか?

 俺が写真を見てそんなことを考えていると、テッドを退け、割入ってくるもう1つの女の子用の人形が。


「ボス、そんなことより大変なことが起きてますよ!」


「どうしたパーピー、敵に動きがあったか」


 こいつは視察隊の情報をまとめる役をしているパーピー。俺と同じく女の子用の人形だ。


「前にフラディ王女を暗殺しようとしていた2人組を覚えてますか? アイツらが今度は仲間を集めてフラディ王女を襲いに来るそうです!」


「なんだと!? あのカーボーイとよく分からん緑のやつか! それで、何人に増えたんだ!?」


「12人ほどです。どいつも強敵揃い。これは犠牲が出るかもしれませんね……」


「クソっ! なんて卑怯な奴らだ! 城中の人形達をここに集めろ! 緊急会議を始める!」


「「「了解!ボス!」」」


 俺の指示で人形達が一斉に部屋を飛び出す。


「よし、俺も準備をするか」


 1人になった部屋の中で、俺はさっきテッドに貰ったフラディ王女のパンチラ写真を見ると。


「この命に変えても、必ず君を守ってみせる」


 写真を木箱に入れ、腕の中に隠した拳銃を取り出すと、俺はお茶会セットの椅子にずっしりと構えた。


 拝啓 相談人さんへ


 少し予想外なことが起きたけど、とても楽しく転生ライフを送ってるよ。今度会えたら、お嬢さんと一緒にアニメの話とかしたいな。

 それでは、相談人さん、そしてお嬢さんの人生が幸せになることを願っています。


 追伸 名前言うの忘れてた! 俺の名前は加百かも舞苅ぶかり。覚えといてくれよ!

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