第4話 入隊

「痛い!痛い!痛い!」


 耳たぶの痛みで、俺は目を覚ました。


 動こうとするが体の自由が効かない。


 というのも簡素なパイプ椅子に鎖のようなもので体を固定されぐるぐる巻きにされている。


 「これは一体、どういう状況だ…」


 思わず頭の中の言葉がするりと口に出た。


 「やっと起きたのね、粗同君。どうも何も、今からあなたの運命を決めるのよ。目が覚めたのなら大人しくといて」


 その声の主は紛れもない院瀬見だった。耳と尻尾の銀色の毛並みはとても綺麗ではあるが、とても人間のものとは思えないそれに口調があまりにも粗雑になっていることに気づく。それにさっき耳たぶを引っ張ったのも多分、院瀬見だろう。


 それにこの場所はどうやら地下のようだ。コンクリートのようなもので四方が覆われている仕組みだ。


 彼女は胸ポケットからタバコを叩き出すと、壁に背中を預け煙をふかす。


 「ここはどこなんだ?お前は何者なんだ?」


 「黙れ」

タバコの灰を床に落としそう一喝した。


 少しの沈黙が流れたがその沈黙を破るかのようにして古びた木の扉がギギギと音をたてて、開かれていく。

 

 「その子が?例の子だね。京」


 そう言葉を発しながら入ってきたのは、長身の白髪美人だっった。髪の長さはベリーショート。


 服装はジーパンにTーシャツとラフな格好だが、それでも目立つ日本人離れしたスタイルの良さとすべてを射抜くような青い瞳からは何やら妖艶なオーラを感じる。


 「君が粗動結(そどうゆい)君だね」


 「そうですが…」


 「まあまあ、そう日和らなくてもいい。京から話を聞いている。君は見てしまった。決して踏む入れてはいけない現場をね。そこでだ結君。少し大人の話をしよう。なーに、簡単なことさそう身構えないでリラックスして聞いてくれ」


 そういうと彼女は古びた椅子に腰掛けると腕を組み品定めするようにして俺を見つめてきた。


 腕で持ち上がった大きな双丘に少し目がいったがそれは許してほしい。


 「率直に言おう。君はここにいちゃいけない人間だ。いやこの世界にと言ったほうが良いのかもしれないが。君はホントは部外者のはずが京の現場を見たことで関係者になってしまった。それは変えられない事実だ。ホントなら君は今頃、動かないミンチにになっているところなんだけど、条件次第ではその拘束具を解いてあげなくもない。私も優しいお姉さんだからね。そこで君に選んでほしい。

 生か死か君はどちらを選ぶ。朝霧」


 そう俺に問いかけてくる女の相貌はとても淡白なもので何もかもを掌握したようなその瞳に俺は怯え、恐怖した。

 

 俺は瞬時に答えを出した。


 生きたいと。


 生きたい。

 

 生きたいに決まっている。


 本能がそう告げていた。


 それは俺の一つの答えだった。


 「生きたいです」


 震えながらそう言葉を震わせた。


 「よくできた答えだ」

そういうと彼女は先の程相貌とは裏腹ににこやかな笑みを俺に向けてきた。


 「申し遅れたね。私の名前はパフェ・リザルト。覚えておくようにさて粗動結、いや長ったらしいから結でいいか。さて結。君は生きる選択をしたからにはこの場所がどこなのか君に話さないといけない義務が発生したね」


 そういい彼女は古びた椅子から腰を上げるとおもむろに後ろポケットを弄り、ポケットから銃を出してきた。モデルガンと錯覚してしまいそうになるが銃口から香る鉄臭さからそれが使い込まれてる本物であることは嫌でも分かった。


 「いきなりで悪いけど結。お前はこれをどう見る?」 


一瞬、声がつっかえるがなんとか声を張り上げる。


 「銃だと思います。人を殺めるための道具だと」


 彼女はハンドガンをたしなめるように動かしながら、小さくうなずく。


 「そうだ。これは銃だ。これは人を殺める事に特化した道具だ。これさえあれば大抵の人間は息絶える。だが、その見方はこの獲物の一側面でしかない。これは人を殺すこともできれば人を救うことだって出来る。私はこいつに救われたことが数え切れない。要は見る側の問題というわけさ」


 そう言い儚げな表情を見せる白髪の美女は、なんだが少し寂しそうだった。


 「さて、ここからが今回の話の肝なんだが私達はバランサー。現世と異世界の均衡を守るものだ」


 「バランサー?」


 「そうだ。いきなり君にとっては突拍子もない話になるとは思うのだが、この異世界には魔法がある。君には実感が無いだろうが今、この場所は異世界と現代の中間に位置している。魔法は異界の大地より授かりしもので基本、人なら誰だって使える。もちろん己が持つ性質やマナの保有量、種族特有の肉体強化も含めてそれぞれ個体差はあるけどねただ魔術を扱うだけという点に関しては誰だって使える代物…だから危ないんだけどね」


そういい彼女はおもむろに銃に弾を込め始めた。バレル(銃身)の軋む音が部屋の中で反響する。


 カチリと弾を装填し終わると、銃の半身が淡く青い小さな光を発し、そしてその光に気を取られた刹那、弾は俺の数ミリ横を行きそして着弾した。


木製の壁は大きくひび割れとても普通の弾には見えなかった。


あんなもの人間が当たれば一溜まりもないことをすぐに察した。


 えっ、何ゲーム?!俺は夢でも見てるのだろうか?


驚きすぎて目はがん開きである。


「そう、しかも魔力は見ることによって初めて物や肉体に力を発現させることが出来る。キーになるのは目ということさ」


「目を媒介にして物や人に干渉するものは魔眼と呼ばれるものなんだが今はやめておこう。まあ、遠回りしちゃったけどようはこの力を外に漏らさないこと、異界のものとこっちの世界のものの関わりを絶ち、一切を闇に葬る。それが我等の使命。すべての世界の平和のため、均衡を保つためのね。それは我等が隊ダストが誇る最大の誉れってな」

 

 そう言い彼女は凛とした表情で、説明を終え疲れたーと言い椅子にダイブする。


「それで、君にはこの組織に入隊してもらうから」


 そう言い残した彼女と院瀬見のあんぐりした表情を俺は忘れることはないだろう。


 




 







 

 




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