第9話 この世界のよく終る話。

「ほう?氷雪ステージか?」


 500層目にして今までなかったフィールドを確認した。


「リーシャ。このフィールドで24時間待機。待機中は何をしていてもかまわん。」


「え?エド様?この吹雪の中でですか?」


「うむ。耐久テストを少しな」


「24時間が少しですか……」


「うむ。地上に出たら星間外実働実験も予定しているからな。いわば予備テストみたいなものだ」


「は、はあ。そうですか」


「なに。茶でも飲んで好きにのんびりしろ。何なら暇潰しに我の論文でも読むか?この〔時限震時における空間の固定化と対消滅の原理〕など我の中でも一押しの題材であるぞ」


「いえ、結構です」


「ふむ。ならば……」


「え、エド様!一緒にお茶などは以下がですか?私、張り切って淹れますよ!」


「ふむ。茶の訓練か。そうだな。では頂こうか」


「は、はい!頑張ります!」


 そしてリーシャは装備一式をストレージに仕舞い我が出したティーセットで繰り返し、何十杯ものお茶をだし続けた。例え魔物が襲って来ようと自身が雪だるまになろうとも。


「ふむ。うまいな。ふふ。腕を上げたなリーシャよ」


「あ、ありがとうございます!エド様!」


「うむ。」


 ―ピーピーピーピー―


 頭の中でアラームがなる。


「む?もう時間か。どれ、分解・解析……」


 先程までの吹雪が嘘の様に何も無くなった空間。


「ふう。緊張しましたぁー」


「む?そうなのか?ふむ。データとして入れておこう」


「あ……と、え、エド様。あの……」


「ん?なんだ?」


「私!思ったんですけど!やっぱり、メ!メイド服が!」


「ん?メイド服?」


「あ、はい!やはり主人にお茶を淹れるのはメイドの仕事かと!なので私にメ、メイド服を下さい!」


「ふむ。……何故そこまで格好に拘るのかは解らんが、まあいいだろう。今回の実験の対価だ。好きにしろ」


「あ、ありがとうございます!エド様!」


「それで?デザインの希望はあるのか?」


「で、デザイン?ですか?メイド服はそんなにいっぱいあるのですか?」


「ふむ。そのようだな。ふむ。〔ライブラリー〕起動」


〈ライブラリー起動しました。サーチエンジン展開。メイド服セレクト。検索完了しました〉


「データの中から好きな物を選ぶがいい。時間は十分にあるからな」


「あ、はい!ありがとうございます!」


 リーシャの前にデータアイコンを表示させ操作の仕方も教える。


「へえ!こんなのあるんだ。……あ!こっちのも良いかも。……え!なにこれ!こ、こんな際どいのもあるの?うう、でもこんなの着たらエド様に痴女扱いされちゃうよ。でもでも!もしかしたらもしかしたらだし!でも嫌われちゃったら。うう、どーしよー」


 ◇


 リーシャが、百面相をしている間に我は今までのデータで考察してきたことを論文にまとめていった。


「え、エド様。これでお願いします」


「む?もういいのか?少し待て」


 リーシャセレクトのメイド服を構築し、防刃・防打・防衝撃・防寒・防火・防汚のエンチャントを付与していく。


 その後にリーシャのストレージを増設し装備項目にtypeA・typeBで切り換えられるようにした。


「ふむ。こんなものか」


「ありがとうございます!エド様!」


「ついでだ。〔ライブラリー〕から好きな私服を何着か選べ。今の内に作ってやる」


「いいのですか!」


「ああ、ついでだからな」


「ありがとうございます!わあー。何れにしよう」


「ふん。もう少し論文が書けるな」


 ◇


 そうして、その後の階層は滞りなく進み100層を越えたあたりからリーシャの顔色が悪くなった。


「う、何か人骨の量が凄い事に」


「ふむ。この辺りから丸ごと食す生物が居なくなったのかのう。さて、分解・解析……」


「はあ。エド様は通常通りなのですね」


「何がだ?」


「いえ、別に」


(我が非情だと認識して離れるのも時間の問題か)


 この頃になるとリーシャの装備も訓練が必要なくなったので、街中を歩くお嬢様なワンピースに鍔の広い帽子を被っている。


 もちろんエンチャント済みだ。


 だが、何もない空間なので若干違和感がある……がまあいい。


 因みに、階層を分解すると階層の壁面のみの状態になるので分解後は広い空間と壁にある階段だけになる。


(リーシャとも明日には別れかのう。……ふむ。我としたことが少しリーシャに情を持ちすぎたかもしれんな。猛省せねばな)



 ダンジョン脱出まであと5層階。









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