結局キサラギが折れることになった。

 結局キサラギが折れることになった。

 けど納得はしてないのでそのうち緩和させる。

 ホントずるい男、あんな顔されたらこっちが完全に悪役じゃん。

 何があったかっていうと、多分深夜3時頃くらいだったと思うんだけど、目が覚めてトイレに行ったんだよね。

 寝つきは良くも悪くもなかった、夢も特に見ていなかった。

 だからただふっと目が覚めただけだったし、なんとなくトイレに行っただけ。

 で、戻ってきたら同居人が部屋のドアの前に突っ立ってたの。

 ひっどい顔色だった、真っ白だった。

 キサラギのバラバラ死体でも発見してしまったような顔だった。

 どうしたって聞こうと思ったら体当たりするような勢いで抱きしめられた。

 何度も名前を呼ばれた、あとそれ以外にもなんか色々ごちゃごちゃ言っていた。

 いきてる、しんでない、つめたくない、ちもでてない。

 あと痛くないかって何度も聞かれたので大丈夫だって返しておいた。

 きつく抱きしめられてたからそれが少し痛かったけど、そのくらいなら問題はなかった。

 しばらくして意識がはっきりしてきたのか身体を放された、見上げるとすごいバツの悪そうな顔で「悪い」って言われた。

 別にいいけどどうしたって聞いたら夢見が悪かったらしい、キサラギがぐちゃぐちゃに他殺された夢を見たんだってさ。

 それで目が覚めたらキサラギがいなくなってたから軽くパニックになって、どこかに出かけたんじゃないかって探し行こうとしたところでキサラギが戻ってきたっぽい。

 どこ行ってたって聞かれたからトイレだよって答えたら安堵したような顔になったけど、また抱きしめられた。

 よかったって言ってた、大袈裟だなって思った。

 キサラギも病気だけど、こいつも軽い病気なんだと思う。

 そうなったのはキサラギのせいだった、基本的にキサラギが全面的に悪い。

 だから、今回に関してはキサラギが折れることにした。

 今回にっていうか今回も、だけど。

 またこのパターンだよ、稀によくあるパターン。

 いつも大体向こうにゴリ押されて渋々折れるか、今回と似たようなパターンだよ。

 でもまあ仕方ないか、あんな顔で縋り付かれればさすがにキサラギも冷静になるし客観的にもなる。

 死に場所探してあちこち旅して回って、ちょっとしたきっかけですぐ発狂してたような女を、そう簡単に自由にはさせられないか。

 むしろよく思い出してみるとここに来た頃よりはだいぶ緩和してるんだった、これでも。

 けど本音を言うともうちょい信用してほしい、最近はだいぶ良くなってきたんだ。

 あれだけ死のう死のうと思っていたのに今はもうそんなに死のうとは思わない。

 悪夢を見て飛び起きる回数もずいぶん減った、昔のことを思い出してその幻覚にのたうちまわることもだいぶ少なくなった。

 ……本当に良くなったなあキサラギ、ほとんど全部同居人のおかげだけど。

 だけどまだ足りないと言うのなら、もう少し良くなろう。

 ちゃんと信用してもらえるようになろうと思う、人並みの我儘はその後まで取っておいた方がいいのかもしれない。

 結局二人とも目が冴えてしまったので二度寝はしないことにした。

 その時に同居人が思い出したようにいくつか霊石を渡してきた。

 前から頼んでた奴と、他にもいくつか。

 しかもずいぶんと質のいいやつばかり。

 どこで手の入れたのか聞いたら、例の企業を襲撃した際に大家さんの許可のもといくつかちょろまかしたらしい。

 盗品じゃんって言ったら正当な報酬だって心外っぽい顔された。

 大丈夫かなこれ、使った後で訴えられたりしない?

 でもまあ大家さんがいいって言ったならいいか、質はいいけどものすごく貴重、ってわけではないし。

 というわけでありがたく使わせてもらうことで。

 必要なものが揃ったので、仕事用の作業も行いつつ今日から茨姫の二号機の作成に取り掛かることにした。

 上手くできてかつ茨姫みたいに変なのに憑かれなければオークションにでも出してみようと思う。

 設計はできてたのでぱっぱと進めたけどさすがに時間がかかりそう、3分の1くらいしか終わらなかった。

 夕方になって同居人が帰ってくる前に夕食その他を済ませた、今日は野菜スープとスパゲッティ(バジル)だった、野菜スープは中途半端に余ったので同居人に押し付けた。

 同居人は鳥の香草焼きを作ってた、何故か一口くれた、美味しかった。

 そのあとはぐだぐだして日記を書いて、今から寝る。

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