第2話 アイツが入部してきたんだが・・・

翌日。昨日みたいな変わった出来事とは何も起きず、普通に高校生活を勤しんだ。教師の話を聞き、友人と話す。

俺は成績も友人もいたって普通の高校生なので、特筆すべきことは無い。

帰りのホームルームは睡眠に使い、放課後、俺はある旧校舎の教室へ。

うちの学校は比較的長い歴史を持ち、年季が入っている。

歩くたびに長い廊下がギシギシ鳴るのが結構怖くて、怪談話になったりもする。

まあ、その話はさておき俺が旧校舎に来たのは、特別な理由などではなく部活があるからだ。

俺が所属している部活は、ごく普通の軽音楽部だ。

俺が曲を作りボーカルに歌ってもらう。

自分の作った歌が、人に歌われるっていうのは嬉しいことだよな。

まあ、なんやかんやで楽しくやらせてもらっている。

ギシギシと音を立てながら、木造の扉を開けるといつも通りメンバーは4人居た。

イケメン一人と、フツメン二人と陰キャ一人。

そう、バランスもとれている完璧なグループだ。

だが、何か雰囲気が違う。いつもだったら、ワイワイ騒いでるのに、言葉では形容しづらい。

「おい、瀬川。何かあったのか?」

取り敢えず、イケメンボーカルで俺の親友に聞いてみる。

「やれやれ、何もねえよ」

・・・何だコイツ。普段は馬鹿みたいに下ネタ吐いてるくせに。

第一、やれやれってそうそう言わねえだろ。

まあ、いいや。これ以上言及する気は無い。時間無駄だし、とっととやろう。

「じゃ、メンバー揃ったし始めるか—」

突然、勢いよく扉が開いた。

「待って下さいよ、風早せーんぱい。」

・・・・ん?蒼雲とかいう一年生は居ない筈。

何だ幻聴か。俺も疲れてるんだな。

「よし、今日は—」

「待って下さいって」

幻聴だけじゃなく、肩も叩かれている気がする。いよいよ、重症だ。

「ロックっぽい曲を作ったから—」

「皆さん知ってます?この人って私のお姉ちゃんと—」

「あれ?君は一年生?どうしてここにいるのかな?」

危ねえ!この小娘が・・・ガチで卑怯だろ!

「何でって、軽音楽部に入ったからに決まってるじゃないですか」

・・・・・はい?

「いやいやいや、え?なぜ?」

驚き過ぎてうまく喋れない。

「だって先輩と本気で音楽やりたいですもん」

その何気ない一言で俺は少なからず反省の気持ちを覚えた。

俺はどこかで、蒼雲の決意を舐めていたのかもしれない。蒼雲は本気で歌手を目指そうとしている。

この入部を俺は拒みたかったが、この気持ちは馬鹿にすることができない。

「分かったよ、蒼雲、軽音楽部へようこそ」

「急に素直に!もちろん入らせていただきますけど!」

にっ、と蒼雲が笑顔に。

あまりの笑顔に少しばかり、魅力を感じてしまった。

「あ、あと後ろの人たちが先輩のこと睨んでますよ」

え?後ろを振り向くと、鬼の形相をした男子四人が居た。

「おい風早、何イチャイチャしてんだよ」

「風早ぁ、蒼雲ちゃんと知り合いだったのか?」

「このヤリチン野郎が」

俺はその時に今日コイツ等の雰囲気が違ったことに納得がいった。

あ、コイツ等、蒼雲のこと狙ってたのね・・・



部活後、家に帰るため俺たちは、河川敷を歩いていた。

今日は早めに解散したため、まだ夕方でカラスの鳴き声が響いている。

「取り敢えず、一日お疲れ様でーす」

その後の部活は特に何も無かった。強いて言えば、他の部員にボコボコにされたことぐらいだな。

大したことじゃない。日常茶飯事だ。

「悪いな、俺だけと帰る方向が一緒で」

「いやいや、良いんですよ。先輩、これ狙ってたでしょ」

「ほざいてろ」

「そういえば、何で先輩って私の事名前で呼んでくれないんですか?」

何故って・・・

「そこまでまだ仲良くないだろ」

「ふ~ん、なるほど。蒼雲って自分の元カノの名前を何度でも呼びたいと」

「おい、人の黒歴史を晒すな」

「じゃあ、下の名前で呼んでくださいよ」

「分かったよ、冬香」

知り合ったばかりだというのに女子の名前を呼ぶのは結構恥ずかしいんだが。

「せんぱーい、顔真っ赤ですよう」

「うるせえよ」

歩いていたらいつの間にか、分かれ道に。

「じゃ、俺はこっちだから」

「別々ですね!」

「じゃあな、蒼・・・冬香」

「さようなら!雷先輩」

初めて名前で呼ばれた。

アイツいっつも笑顔で楽しそうだな。笑顔が多い女子は嫌いじゃない。

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