第1話 始まりからピンチなんだが・・・

何を言っているんだ、コイツは。

歌を作りましょう、だと?そう簡単に作れたら、苦労しねえよ。

取り敢えず、機嫌を損ねないように気になったことを質問するか。

「何で歌を作ろうと?」

「歌手になりたいからです!」

凄いシンプルな答えだった。想像の100倍くらい。

シンプルis the bestだな。

「じゃあなぜ俺に頼む?」

「私知ってますよ、お姉ちゃんのアイドル声優としての、初めての曲。あれ、先輩が作ったんですよね。事務所の人が作詞作曲したことになってますけど」

さも当たり前のように言い放った言葉に、正直俺は鳥肌が立った。世間にも公表してないことを、この小娘が知っているなんて完全に予想外。

コイツはどこまで知っているんだ?

そんな俺の疑問など知らず、コイツは座っている椅子をくるくる回していた。

「何故そう思った?」

「簡単ですよう。お姉ちゃんに、あの歌良かったねって褒めたら、なんか恥ずかしそうでしたもん。羞恥心というか恋心というか。それで閃いちゃいました。これがjkの勘ってやつですね」

すげえな、女子高生の勘、舐めてたわ。普通それだけで分かるか?

「まあ、その後に、お姉ちゃんが歩いてるの見かけてついていったら、先輩とイチャイチャしてたんでーす。その時音楽の話もしてましたからね。それで、話が繋がりました。しかも、この写真をゲットできちゃったんですけど」

ヒラヒラと顔の前で、俺と元カノがキスしている写真を見せつけてくる。

そう、コイツに俺が逆らえない理由は、俺と元カノがキスしている写真を持っているから。

別の何かならまだしも、キスでここまでくっきり写っていたら誤魔化せないだろう。

というか、姉をストーカーするな。犯罪行為だぞ。

「というわけで、先輩が歌を作ってください。私が歌いますから」

正直断りたい。だが断ったら、あの写真はばら撒かれる。

やるしかないのか・・・

「そもそも、お前歌上手いのか?」

「当たり前ですよ。そもそも私、声綺麗ですよね?」

まあ、それは認めざるを得ない。姉が大人気声優だけあって、本当に透き通っている。

「分かった、だがその前に自己紹介まだしてねえから、お前の名前知らねえよ」

「あ、そういえばそうでした」

かく言う俺たち。実は、今日が初対面。

今日の放課後に突然家に呼ばれたから、恐る恐る来ただけで。

というか、廊下で声掛けてきて、写真見せて家に来いと脅されて、今に至る。

強引すぎだろ。

クラスの男子に睨まれていたのは、気のせいであってほしい。

普通、初対面でこんな頼み事しねえけどな。

「私の名前は、蒼雲 冬香でっす。私のチャームポイントは、この銀髪ショートカットと透き通るような肌ですよ、胸は普通です」

「俺の名前は、風早 雷。チャームポイントを自分で言うような女子が苦手だ。いくら美少女でも。よろしくな」

世界一変な自己紹介だった。

・・・・ん?

蒼雲?もしや・・・

「いや、お前アイツの妹かよ!」

「え、知らなかったんですか?」

・・・元カノの妹に脅されているのかよ

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