第23話 警察の動向3

夜の闇を切り裂いてパトカーは走る。

パトカーはかなり急いでいるようで、信号の黄色の灯火が点滅して赤色の灯火に変わろうとしているが、そんなことは御構い無しとばかりに交差点に突っ込んでいく。

「急げ!ついに犯人の尻尾を捕まえたかもしれないんだ!」

パトカーの中には◯△高校における殺人事件を解決するための捜査チームが乗り込んでおり、三ノ宮にあるカラオケ店へと大急ぎで向かっていた。





事の始まりは、30分前に遡る。

捜査チームのメンバーは◯△高校殺人事件の分析に精を出していた。

「明石警部、おそらくこれが決定的な証拠なのではないでしょうか。」

丸眼鏡で真面目な雰囲気を醸し出している柿本陽介が報告書を読み上げる。

「日向沙耶華、木陰悠介の家から検出した彼らの指紋と、相模勇気の遺体があった踊り場の階段上のフロアーの側壁から検出された指紋の一致率を調べた結果が出ました。

遺体付近から検出された指紋は木陰悠介の指紋と完璧に一致しました。

もう1つ、昨日◯△高校付近の自販機のゴミ箱から発見された、犯行に使われたと思われるライターに付着した指紋を調べたところ、これも木陰悠介の指紋と一致しました。

さらに日向沙耶華のスマートフォンを所持していた舐田太郎がスマートフォンは木陰悠介から貰い受けたと証言しました。

・・・これはもうが犯人で確定なのではないでしょうか。」


その発言に明石正義が首をしかめながら答える。

「確かに証拠だけ見れば木陰悠介が限りなく怪しいように感じる。しかしどうにも解せない。木陰悠介が相模勇気を殺す動機が全くわからないのだよ。

それに死体を燃やしたのは、相模勇気が焼身自殺したと見せかけるためだろう。そんなことを考えた人間がわざわざ現場に指紋を残したり、現場付近のゴミ箱に死体を燃やしたであろうライターという決定的な証拠を残すだろうか。さらに俺を疑えとばかりに逃亡するなんておかしいじゃないか。」


その問いに対して柿本陽介は冷静に答える。

「確かに日常生活において木陰と相模の2人に接点は見つからなかったので、木陰が相模を殺害する理由は全くわかりません。しかしここに日向沙耶華を登場させて見ましょう。答えが見えてきます。ここからは私の憶測を述べますね。

死体が発見された前日、日向沙耶華はストーカーである相模勇気に詰め寄られていた。それを偶然目撃していた木陰悠介が颯爽と助けに入った。しかし相模勇気は邪魔をされたことに激情して、木陰悠介に掴みかかり、取っ組み合いの喧嘩となる。揉み合いの末、木陰悠介は誤って相模勇気を階段下に突き飛ばしてしまう。運の悪いことに相模勇気は首の骨を折って死亡し、焦った木陰勇気は所持していたライターで相模を焼身自殺に見せかけるために死体を燃やした。そして考えてください警部、初めて人殺しをした人間が冷静な判断を下せるわけがない。激しく動揺した木陰悠介は現場付近の指紋を消し忘れる、さらに指紋のついたライターを逸早く処分したいがために現場付近のゴミ箱に捨ててしまう。そしてバレるのが怖くなって逃げ出した。」


明石正義は柿本陽介の憶測を何度も頷きながら聞き、疑問点を1つ述べた。

「なるほど、その考察はなかなか正しいように感じる。だが、日向沙耶華が行方不明なのはどうしてだ。」


「おそらく、自責の念に駆られたからではないでしょうか。自分のせいで木陰悠介が殺人犯になってしまった、木陰悠介の人生を狂わせてしまった。せめて罪滅ぼしのために木陰悠介の逃亡に協力しよう。どうですかね。」


「なるほどな。それならば全てのつじつまが合うように感じる。

・・・しかしなぜだろう、どこかが間違っているような気がしてならない。」

そう言って、明石正義はうーんと首をひねりながら再び考え事に没頭する。


そんな少し行き詰まった状況で捜査チームの1人が「明石警部!これを見てください!」と言って、明石正義にスマートフォンの画面を見せる。

その画面にはtwitterのつぶやきが表示されている。そのつぶやきは奇跡の瞬間という題名で始まっており、1つの動画が添付されている。

捜査チームの隊員が動画の再生ボタンをタッチすると、仰向けで倒れた高齢の女性の周りに人だかりができており、茶髪の男の子がその女性に対して胸骨圧迫を行なっている動画が流れ始めた。そして茶髪の少年による胸骨圧迫によって、女性は息を吹き返し、周りが大歓声に包まれたところで動画は終了した。


動画を見た明石正義は感心したように呟いた。

「若いのに人命救助なんてすごいじゃないか。彼は英雄だな。それでこの動画がどうかしたのか?」


「明石警部、この少年の顔にどこか見覚えはありませんか?」

どれどれ?と言って明石正義はもう一度少年の顔を眺める。

「ひょろっとした茶髪の青年で、なかなか整った顔立ちをしている。

・・・待てよ。俺はこの顔にどこか見覚えがあるような気がする。・・・っ!?日向沙耶華の写真を持ってこい!」


隊員の1人が素早く日向沙耶華の写真を明石正義に手渡す。

それを受け取った明石正義は先ほどの動画の青年と日向沙耶華の写真を見比べる。


「髪の毛の長さ、色、目元の形が少し異なるが、それ以外のパーツは似ている・・・というかそっくりじゃないか。髪の毛はカツラをつけていると仮定すれば説明がつく。おいっ柿本!目元を動画の少年のようにメイクでつり目にすることは可能なのか。」


それを聞いた柿本陽介が慌ててパソコンを広げ、調べ始める。

「ちょっと待ってください。調べて見ますので・・・。

結論から言いますと可能ですね。男装メイクと入れて検索して見てください。つり目にする方法なんていくらでも出てきますよ。」


明石正義は柿本陽介の考察に対して満足気に頷き、これからの指針を述べる。

「この動画が投稿されたのは今日の午前11時ごろか。◯△高校からこのビーチまではおよそ80kmほど、日向沙耶華が自転車でゆっくりと移動していたと考えると、全然考えられる距離だな。明日現場に行き・・・」


プルルルルルルル


しかしそんな明石正義の発言を遮るように、警察署に一本の電話が鳴り響いた。

明石正義はこんな時になんだよと少し舌打ちをする。


その舌打ちを聞いた柿本陽介が明石警部僕が出ますよと言い電話を取り、受話器を耳に当てる。

「はいもしもし。こちら××警察署の柿本陽介です。用件はなんでしょうか。」


少し間が空いて、男性か女性か判別しにくい高めのトーンの声の持ち主が喋り始める。


「もしもし。僕の名前はサイレント。突然だけど君たちに朗報があるよ。僕はたった今、◯△高校における殺人事件の犯人が三ノ宮のカラオケ店にいるのを目撃したよ。早く迎えに行かないと逃げちゃうかもしれないよ。じゃあね。」


少し高めのトーンの声の持ち主は柿本陽介が何か言うのを待たずにすぐに電話を切った。

しばしの間呆然としていた柿本陽介はやがて正気を取り戻し、明石正義に電話の内容を伝える。

その内容を聞いた明石正義は顔色を変えて、即刻指示を下す。


「誰だか知らないが、初めて犯人の居場所に関する情報が手に入った。現場に向かうぞ。きっとそこに答えに繋がるヒントがあるはずだ。」


明石の指示を聞いた捜査チームのメンバーは慌てて椅子から立ち上がり、大急ぎでパトカーに向かった。

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