第22話 さあ、幕引きとしようか

時間は午後8時ごろ、太陽はすっかり暮れてしまったが、街は喧騒に包まれている。ここは三ノ宮、兵庫県有数の大都市の1つだ。

辺りは、居酒屋に入っていく中年のサラリーマン集団、客引きをしている妖艶なお姉さん、メンチを切っているガラの悪い男など夜の街を象徴する雰囲気に包まれている。

そして僕こと木陰悠介は三ノ宮の飲屋街にある公衆電話のそばにいる。

日向ちゃんにはカラオケ店の前で待ってもらっている。


ゴホッゴホッ

両手で口を押さえて咳をする。口の中に鉄の苦い味が広がる。

思わず顔を歪めて、手のひらを見ると、赤い血が付着している。

さらにジャージの裾をめくると青色の痣のようなものが点々としている。

これはラジオで聞いた新型のウイルス感染症の症状と一致している。

確かこの症状が出たら数ヶ月で命を落としてしまうんじゃなかったかな。

ハハッ、どうやら僕に残された時間はあとわずかのようだ。



だから、今日の人命救助を通じて日向ちゃんが将来の目標を見つけてくれて本当に良かった。

これで僕に心残りはない。

日向ちゃんの僕に対する好感度が高すぎるのが心配だけどね。



それにしても彼女との逃避行は本当に楽しかった。

できるならばもっと続けたかったな。



さあ、楽しい時間は終わりだ。

幕引きとしよう。



僕は公衆電話に手を伸ばした。

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