第13話 わからない

つじつまが合わなることに気づいたので前話のキャスターのセリフ中の、学生と思われる焼死体を、焼死体と思われる死体に変更。

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解せない。先ほどニュースキャスターは焼死体といった。だが私は彼の遺体を燃やしてなどいない。どうなっている?

ニュースは流れ続ける。


「焼死体と思われる死体は今日の午前8時頃、部活のために登校した生徒によって発見されました。学生の服、所持品は完全に燃やされており、機動捜査隊による初動調査が行われましたが、未だに遺体は身元不明のままです。遺体の身元調査については引き続き、警察による詳しい調査が進められるようです。警察は現場近くの住民に情報提供を呼びかけています。次のニュースに参ります。先日ロシアで確認された未知のウイルス感染症が日本国内で–––––––––––。」



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私は太田夫婦に与えられた寝室で木陰君に、ストーカーに襲われたこと、階段に突き落としたこと、その後蹴り殺したこと、そして決して遺体を燃やしていないことを伝えた。


木陰君は腕を組んで少し考えるそぶりをして、次のように言った。


「ふうん。君もストーカーに襲われて大変だったんだね。ええと、それで君は遺体を燃やしていない?・・・考えられる可能性はそうだな、4つあるのかな。

1つ目は誰かが遺体を燃やした可能性。

2つ目は本当は君が遺体を燃やした可能性。

3つ目は君が殺したと思った奴が実は生きていて自分で自分の体を燃やした可能性。

そして4つ目は人体自然発火の可能性かな。」


「ちょっと待ってください。私嘘なんてついていませんよ。」


「ああ。僕は君が嘘をついたとは思っていない。僕がここ何日か君といて感じたことだけど、君は嘘が苦手なタイプの人間だと思う。表情を見れば考えていることが大体わかる。だからこういうのはどうだろう。実は君には2つ目の人格があって、君が知らない間に誰かを蹴り殺して、その遺体を燃やしたのかもしれないよ。ははっ。」


「そんな怖いこと言わないでください。でも、確かに彼を蹴り殺した時の私はいつもの私じゃなかった気がします。例えるなら、何かに取り憑かれたような。でも私はその時ちゃんと意識があり、自分で殺したことを克明に覚えています。そして私は遺体を絶対に燃やしてなんていないです。なぜなら火種になるようなものを持ち歩いていないからです。」


「自分の行いをはっきり認識しているから二重人格ではないのかな。でもそれだと今の日向ちゃんの性格と事件発生当時の日向ちゃんの性格の乖離が大き過ぎると思うけどな。わからないや。ほんと人間の精神というのは不思議なものだな。

そして3つ目だけれども、これもおかしいんじゃないかな。自分で自分を燃やしたなら、死体の近くに火をつけることができるライターのようなものが落ちていたんじゃないかな。だけど先ほどの報道では凶器と思われるライターが見つかりましたとは言ってなかっただろう。」


「じゃあ第3者がそのライターを回収したと考えることはできないんですか。」


「うーん。その第3者にはメリットはないんじゃないかなあ。放っておいたら自殺と判定されるかもしれないものを、何でわざわざ自分が疑われるようなことをするのかなあ。ああ、そのライターが犯人を特定するものだったら回収するかもしれないね。でもそれだったらそのライターを回収するのは君だ。だからその説は難しいんじゃないかな。というかそもそも今にも死にそうな奴がわざわざ自分を燃やしてさらに自分を苦しめるようなことしないでしょ普通。

そして4つ目の人体自然発火も考えにくいかな。照明が熱源となって自然発火した可能性もあるけど。」


私は眼球を右上に向けて、事件発生当時の様相を思い浮かべる。

「木陰君、確かその時学校は停電していました。照明が熱源になる可能性はないと思います。」


「じゃあ、違うね。そしてこれで2、3、4の可能性が棄却されたから残るのは1の可能性だけだね。やっぱり誰かが燃やしたんだね。君は誰かに心当たりある?」


私は顎に手を置き、死体を燃やしそうな人間について思いを巡らせる。

だめだ、他人とのコミュニケーションを積極的に避け、人付き合いが皆無の私には全く思い当たる節がない。

「いえ、全く心当たりがありません。あの時間、学校にはほとんど人がいなかったはずですし。それに遺体を燃やす意味がわかりません。一体何のために・・・。」


「まあ、君の心当たりには殆ど期待していないよ。そして死体を燃やした理由は燃やした人に聞かないとわからないから、色々考えても無駄だと思うよ。それよりも、行方をくらましている僕らが疑われるのは時間の問題だから、遺体を燃やしてくれた人に感謝して、僕らは逃げることだけを考えよう。」


そう言って、木陰君はこの話題はもうやめやめと首を横に振りました。

そして唐突に話題を転換する。


「そんなことよりもさあ、日向ちゃん。日向ちゃんはまだ死にたいなんて思ってるの。」


私は急な話題の転換に、目をパチクリさせながら答える。

「いえ、今はそんなことは考えていません。何というか、この逃避行が少し楽しく思えてきてしまって。これは木陰君のおかげです。ありがとうございます。」

これは間違いなく私の本音だ。

以前の私は人、世の中に全く希望を見出せず、ずっと暗鬱とした気分で日常を消化していた。しかし今は、人の優しさの一端に触れ、心の中に巣食う黒い靄が少しずつ浄化されているのを感じる。


木陰君は頬を少し赤く染めながら、「これは僕が退屈な日常から抜け出したいがためにやったことだ。だから君のためじゃない、僕のためだ」と言った。

少し強がる様子は、見ていてとても微笑ましい。




その夜、私は隣の布団でスースーとかわいい寝息を立てている木陰君のことを考える。

私は木陰君の考えていることがわからない。

彼は退屈な日常から抜け出したいがために私と逃避行をしていると言う。

だが私はそれは違う気がする。

チンピラの集団に襲われた時、彼は女の私には戦わせようとはせずに、進んで私の前に立ちチンピラの親玉という巨悪に立ち向かっていった。そんな彼はとても正義感の強い性格をしていると思う。

果たしてそんな彼が裁かれるべき罪を犯した私と一緒に行動しようと思うだろうか。そんなはずはないだろう。

でも、私と一緒に逃走している彼の瞳はまっすぐで何か強い意志を感じさせる。そしてその眼差しは私を惹きつけてやまない。いつのまに私は彼にこんなに興味を抱くようになったのだろうか。

だが、私はその強い眼差しに言い知れぬ不安を感じる時があるのだ。










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日向ちゃんが生きる意欲を見せてきたところで前半戦終了

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