第12話 優しい人たち

目が覚めるとそこには、見たことのない白い天井と・・・こちらを興味深そうに見つめる3つの幼い顔。


「たいようがおきたーーー!!!」

「おにいちゃんがめをさましたーーー!!!」

「アンパンマンだーーー!!!」


三者三様に私の目覚めを歓迎してくれます。

たいよう?ああ、私の偽名は確か小暮太陽でしたね。

最後のアンパンマンって一体・・・。

それよりも、ここはどこでしょうか。

確か私は、久しぶりにカラオケでハッスルできるとはしゃいで・・・・思い出しました。調子に乗ってスピードを上げて、倒れたんでしたね。


ドタドタどたと階段を駆け上がる音がして、バタンとドアが開かれた。

少し焦燥をにじませた顔の木陰君とふくよかな体つきの男女が2人、ドアを開けて部屋に入ってきました。


「っ心配させやがって。俺はオーバーペースだぞって忠告したんだぞ。」


私の元気そうな顔を見て、木陰君がほっとした表情でつぶやきました。

心配をかけてしまったようです。本当に申し訳ないです。


「良かった。目を覚ましたんだね。炎天下の中、アスファルトの上をうつ伏せで大の字に倒れていた君を見つけた時はどうなることかと思ったよ。」


ふくよかな男が優しげな表情で私に言いました。


「あの、この度は危ないところを助けていただきありがとうございます。えっと、その、あなたたちは一体?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



私を危ないところから救出してくれたのは太田一家でした。

私が道端に大の字になって倒れていたのを偶然外に出て遊んでいた長男の水樹君、次男の睡蓮君、長女の桜ちゃんが発見、急いで家にいる母親の牡丹さんと父親の椿さんに連絡。彼らの許可をもらい私をここまで運んできたそうだ。そして応急処置。私は奇跡的に助かった。

人が倒れていた場合、真っ先に救急車を呼びそうだが、それは木陰君が全力で拒否したそうだ。逃走中に病院に行って身バレしたとかシャレになりまんからね。

でも、一体どんな言い訳をしたんでしょうか。私はちょっと思いつきません。

というか、真夏に倒れるって私熱中症の疑いありでしたよね、一歩間違えていたら本当にお陀仏だったのでないでしょうか。この逃走中は病気にかからないように注意しないと。


そして現在の時刻は夕方の6時。

太田夫婦に私達が北海道に自転車で向かっていますと言う話をすると、牡丹さんが「凄いわねえ。そんなハードなチャレンジをするあなたたちを心の底から尊敬するわ。決めた!私達はあなたたちの力になりたいわ。今日はここに泊まって、明日出発しなさい。」と言ってくださった。今日はその言葉に甘え太田家に滞在することになった。

私は木陰君と太田夫妻から大事をとるよう言われ、ベッドで寝かせてもらっている。

明かりのついていない薄暗い部屋に、カーテンが揺れ、窓から茜色の夕日が差し込む。なんと言うか少し物寂しい。




「たいようくん。ご飯できたわよう。降りていらっしゃい。」


牡丹さんの和やかな声が聞こえてくる。

太田家の人たちは見ず知らずの私を助けてくださっただけでなく、応援してくれる・・・本当に良い人たちだ。

もし生まれ変わることができるのならば、こんな家庭に生まれたいと思った。

そして胸をよぎる罪悪感。私達はこの人たちを騙している。もしも私達が捕まって、真相が明らかになったら、この人たちはどんなことを思うのだろうか。

殺人犯を家にあげていたなんてとゾッとするのだろうか、騙していたなんて許せないと怒り狂うのだろうか、もう人間なんて信用できないと人間不信に陥るのだろうか。


また、1つ罪を重ねた気がした。

薄暗い部屋の中をあてもなく私の影がたゆたう。




1階にある居間に入ると私以外の6人はすでに席についていた。少し居心地の悪さを覚えながら、木陰君の隣の席に座る。

今夜の献立は、野菜炒め、唐揚げ、味噌汁と白ご飯だ。どれも溢れんばかりに器に盛り付けてある。特に私の目の前にある白ご飯の量がやばい、日本昔ばなしに出てくる山盛りご飯だ。決してか弱い女の子である私が食べきれるようではない。これは体づくりをする高校球児たちが食べる量だ。


気になって、周りを見渡してみる。やはり私の白ご飯だけ量が異常だ。


「あらー、やっぱりちょっと多かったかしら。でも太陽君は育ち盛りの男の子のはずなのに痩せすぎなのよ。あなたの腕、骨と皮だけの鶏足見たいよ。しっかり食べて体力つけないと。」



どうやら私の体を気遣ってのこの量らしい。自慢の細腕を鶏足と言われれたのは少し傷ついたが、私の体を気遣ってのことなら嬉しい。

・・・ふう、ひと勝負行きましょうか。

私はいただきますと同時に白ご飯を口に掻き込んだ。



そして数十分後、私はトイレの便器にうずくまり、木陰君に背中をさすってもらっていた。

日本昔ばなし風山盛りご飯は流石に無理・・・。



それから先は、鏡に映っていた私の両頬に、全身性エリテマトーレスの主症状である蝶形紅斑のような丸い火傷の跡がありアンパンマンと言われた理由に納得したり、入浴中に3人の子供たちが飛び込んできて私がお姉ちゃんだと言うことがバレたりと色々あったが特に何事もなく時間は流れた。

この旅史上最も和やかな時間であった。



事態が変わったのは何気なくNHKのテレビニュースを見ている時だった。


「次のニュースに参ります。今日の午前8時頃、兵庫県にある◯△高校で焼死体と思われる死体が発見されました。」


全身を寒気が走り抜け、体が硬直する。


遂に私が殺したストーカー野郎の遺体がついに見つかった。



木陰君がこちらを見て、お前がこれをやったのかと目で問いかけてくる。

私は小さく頷いた。

















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