第11話 少し調子に乗り過ぎました
私たちは小口さんの案内で日の出とともに大きな街に到着した。
私たちは小口さんにお礼を言い、そこで別れた。
私たちの事情を何も知らない小口さんは別れ際、「頑張れよ、お前ら。」と目元を優しげに緩めて激励してくださった。
騙すようなことをして、本当にごめんなさい。
そして今私たちは国道250号線から離れて、兵庫県を東西に走る国道2号線を走り続けていた。
このまま進めばやがて兵庫県有数の大都市の1つである姫路市に入ることだろう。
昨日のゲリラ豪雨が嘘のように、今日の天気は晴れ。見事なまでの夏空。
ギラギラと輝く太陽が容赦なく私たちを照りつける。
太陽光によって熱せられたアスファルトからは熱気がモワモワと立ち込め、視界が歪んでいる。蜃気楼が見えてきそうだ。
さらに瀬戸内海から蒸発した水分がふんだんに含まれているであろう湿潤な空気が肌にまとわりつく。
息を吸い込むたびに肺は苦しいし、ジャージの下は汗でびしょびしょだ。
ここまで不眠不休で逃げているだけあって、私の体力の下落が止まらない。秒刻みで最安値を更新し続けている。そろそろ倒産がするかもしれない。
「木陰君、休憩しましょう。死にます。」
もう何度目になるかわからない休憩のお願いを木陰君に請求する。
「もう何度目ですか・・・。1時間あたりに取る休憩の回数が、指数関数的に増加していますよ。5分前に休憩を取ったばかりじゃないですか。」
「そんなこと言わないでください。それに大丈夫です。細胞培養時の増殖曲線は、増殖期こそ、指数関数的に増加しますが、増殖期を過ぎれば細胞密度が増え過ぎてpHが急激に低下するので、細胞数は減少します。」
「・・・ごめん。日向ちゃんが何をいっているのかよくわからない。」
「再生能力の強いプラナタリアもそうですよね。ストレスを与えたプラナタリアをシャーレに入れていても、最初は指数関数的に増加しますけど、ある一定の数以上には増加しませんよね。」
「・・・ごめん。君が精神的にそんなに追い込まれているとは思わなかった。丁度自販機もあるし休憩しようか。」
ふふっ、完全勝利です。休憩の権利を勝ち取りました。
木陰君が少し可哀想な子を見る目をしているのが気にくわないですが。
木陰君はげんなりとした表情で、自販機の前に自転車を止めて、封筒からお金を取り出した。
「日向ちゃん。何飲む?」
「もちろんアクエリアス一択ですよ。1本じゃなくて、2本お願いします。」
さあ、ここからもうひと頑張り行きましょう!
元気を取り戻した私は、平坦で面白みのない道を快調に跳ばした。
さて、ここで今日の目標地点について説明しよう。
現在私たちは、姫路駅を目指している。
なぜ姫路駅を目指しているかというと、姫路駅前にあるカラオケ店で寝泊まりするためだ。
私たちは学んだ。野宿は危なすぎる。変な輩に目をつけられることもあれば、警察官に身分を尋ねられる恐れがある。
カラオケ店じゃなく、駅前のホテルに泊まればいいんじゃなかって?
ホテルは事前に予約をしていないダメじゃないですか。私たちは今、携帯などの電子機器を一切持っていないんですよ。それに値段が高い。
その点、カラオケ店は良い。予約なんてしていなくても多分部屋は取れるし、料金も安い。それに身分証など提示しなくとも、カラオケ店員に差し出された利用カードに生年月日と名前さえ書いておけば利用できる。絶対に偽名を使っていることなんて絶対にバレない。22時以降になれば、年齢確認のために身分証明書の提示を求められることがあるらしいが、そんなの稀だろう。いちいちそんなことを気にしている真面目なカラオケ店員なんて私は見たことがない。
まあ、今までくどくど書いてきたけど結局歌いたいだけなんだけどね。
よし!元気出てきた!
私は、オーバーペース!という木陰君の忠告を秘技馬耳東風で華麗に聞き流し、カラオケが私を待っている!と叫んで元気よく自転車を漕ぎだしました。
・・・そして10分後、私は無残にも路傍に倒れ臥しました。
アスファルトが私の白い肌を焼肉のようにじゅうじゅうと焼く中、私の意識は遠い世界に旅立って行きました。
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今回はちょっとふざけ過ぎたかな
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