第8話 よお、そこの可愛い姉ちゃん俺とデートしない
無事に自転車を盗むことに成功した私たちは、暗闇の中一列で自転車を漕いでいます。木陰君の要望で海岸線の綺麗な夜景が見たいということで、国道250号線を進んでいます。
この国道250号線は自転車にとって非常に厄介なことに道路のアップダウンが激しく、さらに蛇のようにグネグネをした曲がり道が続きます。
そして国道250号線はバイクのツーリングに人気のあるスポットなのか、夜の帳の中、私たちの横を何台かバイクが通り過ぎて行きます。
私は軽快に横を通り過ぎて行くバイクを羨ましげに見つめながら、ぜえぜえと息を切らしながら、必死にペダルを漕ぎます。
そして現在私たちの右手には一面の海景色、左手には鬱蒼とした山が広がっています。
午後の大雨の影響で空は暗く、海は海面が上昇し、ごおおと音を立てながら激しく荒れています。海の向こう側が暗くて全く見通せないのが私の恐怖心を煽ります。そして波が上がるたびに昏く青光りする様はまるで、私たちがここを通るのを拒んでいるような気がします。
「綺麗な海景色じゃなくて残念でしたね。」
「いーや。そうでもないさ。なかなか見ごたえのある様だよ。これからの僕たちの旅路を手荒に祝ってくれているのさ。」
「そうだといいですね。私は何か嫌なことが起こる前触れにしか感じませんよ。」
「ははっ、そういうのをフラグっていうんじゃないのかい。」
その時でした、私たちの横を取り過ぎていった5台ほどのバイク集団が、ギギイとタイヤを擦りやらすような嫌な音を鳴らしながら、私たちの行く手を遮るように止まりました。
「ほら、いきなり頭の悪そうな連中に目をつけられた。いいか、お前は男だぞ、忘れるなよ。男ならば、暴力は振るわれるかもしれないが、体を要求してきたりはしない・・・はずだ。」
木陰君が少し厳しい表情で私に言いました。
ガラの悪そうな金髪のお兄さんたちがぞろぞろと私たちのもとに向かって歩いてきます。こういう頭の悪そうな奴らはなんで群れるのが好きなのでしょうか。集団心理のおかげで強気になっているのでしょうね。
「そこのお兄さんとかわいいお姉さん。こんな夜中に人気のない道路を2人で自転車なんか漕いでたら、襲われちゃうよ〜。こんな風にね。」
そういって、下劣な笑みを浮かべながら、私たちの目の前に立ちはだかりました。私は取り敢えず、兄の設定なので自転車から降りて木陰君を背にかばい、奴らを睨めつけます。
「おおっ、強気な目だねえ。そそるねえ。後ろにいるそこの彼女さんを無理やり手篭めにしたらどういった表情を晒すんだろうねえ。さぞかし見ものだね。」
今の私は兄です。男らしく、なんとか言い返してやりましょう。
「かかかっ彼女ではありません、妹です。お前ら、いいいっ妹に手を出してみろ、ただじゃおかねえからな。」
そういって私は奴らを鋭く睨みつけました。
はい、虚勢です。私の声は異様なくらい上ずっています。さらに私の膝は情けなくガクガク震えています。今の心情を例えると、狼の群れに取り囲まれた子羊ちゃんの気分です。
そしてそれは奴らもお見通しのようです。
「ははっ、男のくせして情けなく震えてやがるぜこいつ。そんなに俺たちが怖いかい。安心してくれ、お前の持っている有り金全部とそこの妹ちゃんを差し出してくれるんなら、俺たちゃ君に何もしないからさあ。」
やばいです。木陰家を出発してわずか一時間足らずで逃走終了の危機です。
必死に頭を回転させて何か考えてはいるんですが、残念なことに何も良い案が浮かびません。
私の心臓はばくばくと激しいビートを刻み続けています。それに対して私の唇はおそらく真っ青になっているでしょう。
木陰君はそんな私の状態を知ってかしらでか、自転車を降り、私の横を通り過ぎ、奴らの前に立ちはだかりました。ただ私の横を通り過ぎる時に一瞬目配せをしました。何かする気でしょうか。
「私の大切な兄には手を出さないでください。なんでもいうことを聞きますので。」
木陰君がしおらしい表情で言いました。
大変っ!それは女の子が一番いっちゃいけないようなセリフです。奴らの嗜虐心を揺さぶるようなセリフはダメです!
「ほほう、お前の方が後ろで震えている兄よりもよっぽど肝っ玉が据わっているじゃないか。いいだろう。お前のその勇気に免じてお前の大切な兄には何もしない。その代わり、有り金全部持って俺達に付いて来い。」
木陰君はカバンの中から黙って封筒を取り出し、カバンを私に預けて、奴らの元にゆっくり歩いて近づいていきます。
「へへっ。そうだそうだ。よしっ、まずはその封筒の中身の確認だ。その封筒を渡せ。」
木陰君は封筒を奴らのリーダー格の男に渡そうとして–––––––––––––––––––––––
次の瞬間、ジャージのポケットから素早く何か袋のようなものを取り出して、目にも留まらぬ速さで袋の中身を奴らにぶちかましました。
「っっっ!?!?」
奴らは油断していたのか、木陰君の手から放たれる袋の中身をもろにくらっています。
その何かをくらった奴らは突然、目や鼻や口を押さえ、苦しそうにゲホゲホと咳込みだした。
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ、ゲホゲホゲホ。あああああっ〜〜〜〜!??!?目がっ〜〜〜〜〜!?!?目がっ〜〜〜〜〜!?!?」
何が起こったのかわからず、呆然としていた私に木陰君お鋭い声が突き刺さります。
「何をぼさっと足てやがる日向!!!早く逃げるぞ!!!自転車を漕げ!!!」
私はその声にハッと意識を取り戻し、慌てて自転車にまたがって、悶え苦しんでいる奴らの横を通り抜け、全速力で走り出しました。
「畜生!!!こっちがせっかく譲歩してやったって言うのに舐めやがって!!!もういい。てめえら、追いかけろ!!!やっちまえ!!!」
奴らのリーダー格の男が叫び声をあげ、取り巻きの奴らがバイクに乗って追いかけてこようとします。しかし、激しく咳き込んでいるためか、目を強くこすりすぎて前がよく見えてないのかフラフラしています。
そのおかげで、取り巻きの1人が乗ったバイクが他の男が乗ったバイクに衝突しました。衝突された男はバイクから勢いよく放り出されました。
「てめえ!どこ見て走ってやがる!!!ぶっ殺してやる!!!」
地面に倒れた男は猛然と立ち上がり、衝突した男に詰め寄り、殴りかかりました。呆れるくらい短気です。頭の中はエーテルでできているのでしょうか。とても沸点が低いです。
「悪かったって。とでも言うと思ったか、このクソ野郎!!!いつもいつもリーダーにヘラヘラ媚を売るお前には散々嫌気がさしていたんだぜ。いい機会だ、ぶっ殺してやる!!!」
バカな男2人による壮絶な殴り合いが始まりました。
そんな2人を他の2人が止めようと仲裁に入りますが–––––––––––––––––––––––
「おいおい、やめろって2人とも。今はそれどころじゃな『なんだと、てめえも殺してやる!!!』痛えっっっ!!!よくもやりやがったな!!!てめえら全員地獄に叩き込んでやる!!!」
バカ4人で仲良く喧嘩し始めました。これはもしかしたら逃げ切れるかもしれません。
それを尻目に、私と木陰君は全速力でアップダウンとまがりくねりが激しい国道250号線を全速力で駆け抜けていきます。今までに類を見ないぐらいに全身の筋肉が躍動しています。きっと、これが火事場の馬鹿力なのでしょう。私史上最高速が出ている気がします。
「てめえら、何してやがる。早くあいつらを追えっ・・・てんで聞きやしねえ。クソっどいつもこいつもバカばっかりだぜ。なんで俺がこんな奴らを率いてやらねばいかんのか・・・。もういい、奴ら2人には俺1人で十分だぜ。」
難しそうな顔でそう言って、目をこすりながら、咳き込みながらバイクにまたがり私たちを猛スピードで追ってきました。
さあ!もうひと勝負としましょうか!
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景色の描写が難しい。上手くいかない。
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