第3話 舐田太郎
「そう言えば、私たちまだ自己紹介していないですね。初めまして、私の名前は日向沙耶華、17歳です。ちなみに●●高校に通ってました。」
私が自己紹介すると彼がじとっとした目を向けてきた。
「初めまして、日向さん。僕の名前は木陰悠介、17歳だ。君と同じく●●高校に通っている。そして君と同じ2年3組に所属していた。」
あら?彼はどうやら私と同じ学校に通い、私と同じクラスに所属していたようだ。驚いて彼を見つめると、同じ高校の制服を着ていることに気づく。
「君はクラスメートの顔と名前を把握していなかったんだね。人から信頼されない典型的なタイプな人間だな。それと君、さては友達少ないだろ。
・・・ああ、思い出した。そう言えばいつも1人で読書に勤しんでいたねえ。」
なかなか辛辣なコメントだ。でも私に友達がいないのは厳然たる事実。
でもこれには訳がある。いろいろあって私は人が怖いのだ。
だから無意識のうちに周りと壁を作っている。
「まあ、君がどんな人間であろうと僕にとっては足の親指に詰まっている垢と同じくらいどうでもいいよ。ああ、そんなことよりもいいこと思いついたぞ。」
私の存在価値とは一体・・・。
心の中で手を合わせた。
私の未来に幸あれ。
「日向さん、スマホ持ってるでしょ。出して。」
彼は私の方に右の手のひらを差し出してきた。
なぜ私のスマホが必要なのだろう。自慢じゃないが、私のスマホには本当に大した情報は入っていない。友達がいないので、ラインもクラスラインにかろうじて入れてもらっているだけですし、メール帳も母親のメールアドレスが載っているだけだ。自分で言っていてなんだが、相当悲しい。
「一体何に使うんですか。大した情報は入っていませんよ。」
「ははっ、友達の少ない君のスマホに大した情報なんて期待していないよ。何に使うかは今はまだ秘密さ。」
彼は差し出した私のスマホを無理やりひったくった。
「あと、今からちょっと向かうところがあるから。ついてきて。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は彼に連れられて表札に舐田と書かれた家の前にいた。時間は午後8時を過ぎ、あたりは真っ暗である。
「あの、一体誰の家ですか。これ以上関係者は増やさないほうがいいと思うんですけど。」
私は恐る恐る尋ねた。
「まったく君は本当にどうしようもないほど人の名前を覚えていないんだね。ここは同じクラスの舐田太郎だよ。彼は僕たちの逃走において重要な役割を担うことになる。いわゆる協力者だね。」
彼は無造作にインターホンを鳴らした。
「ああ、言い忘れてた。君はちょっと邪魔だから、その辺に隠れておいて。」
私は舐田君に見えないように、塀の横に身をかがめた。
しばらくして、インターホンから返答があった。
「はぁ、はぁ、はぁ。今いいところだったのに。ったく、こんな時間に尋ねてきたバカはどちら様ですかー。」
失礼な物言いだ。どんな状況だったのか少し気になる。
「おお、ぺろぺろ君。俺だよ、俺。木陰だよ。悪いがちょっと込み入った用があってな、少し出てきてくれないか。」
ぺろぺろ君・・・。なんだかすごく不気味なニックネームだ。
背筋をぞわぞわっとした寒気が走る。
「はぁ、はぁ、はあ。なんだ。木陰かよ。どうせ、いつものくだらないことだろ。帰ってくれ。俺は今本当にいいところなんだ。これ以上邪魔するようなら本気でキレる。」
「お前、そんなこと言っていていいのか。今日はお前の大好きなアレを持ってきてやったぞ。」
アレとは一体なんのことだろうか。嫌な予感が指数関数的に増加する。
「はぁ、はぁ、はぁ。誠でござるか!?!??ちょっと待っておれ、今すぐ行くから。」
それから数秒後、ドタドタと大きな足音を響かせて、ぺろぺろ君こと舐田太郎君が玄関のドアを開け、出てきました。
私は塀に身を潜ませながら、顔を少し覗かせ、彼を観察した。
彼を一言で表すとすれば気持ち悪いだ。
髪の毛は長く、何やらテカテカしている。顔はニキビだらけでブツブツである。メガネをかけていて、目元はよく見えないが、メガネの向こう側に爛々とした不気味な光が漏れている。そして特筆すべきはその体格。力士かと見紛うほどに大きい。だが、鍛えられているかというと、そうではない。お腹はだらしなく前方に突き出ている。
「おお、小暮殿。久しいな。よくきたでござるな。・・・例のものとはどれでござろうか。」
「ははは。焦るな、焦るな。アレは逃げたりしないよ。ほらこれだよ。」
そう言って木陰君が取り出したのは、やはりと言おうか先ほど私から取り上げたスマホ。何もいうまい。
「これは!!!ちょっと貸すでござる。」
舐田君は小暮君の手から私のスマホを奪い取り、匂いをかぎまわり始めました。
「素晴らしい!素晴らしい!!素晴らしい!!!女の子の良き匂いがするでござる。これは上物でござる。はぁ!はぁ!!はぁ!!!」
すいません。ちょっと意味がわからないです。というか、見ていられないです。
「そうだろう、そうだろう。上物だろう。なんたって、とれたてほやほやだからな。しかもお前のお気に入りの日向さんのだ。」
「はぁ、はぁ、はぁ。やはり、日向様のスマホであったか。どうりで芳しき甘い良き匂いがすると思った。」
いや、スマホから芳しき甘い匂いなんてしないですよ。無味無臭でしょう。したとしてもスマホカバーのゴムの匂いくらいでしょう。彼の鼻は犬並みに良いのでしょうか。
「はぁ、はぁ、はぁ。これを・・・本当に貰い受けて良いのでござるか。」
「ああ。その代わりいくつか条件がある。」
「なんでござるか。我にできることなら、なんでもするでござるよ。」
「1つ目は、お前明日から、東京に旅行行くよな。それに日向のスマホを携えてくれ。」
私のスマホは明日、変態とともに東京に旅立つようです。
ナマンダブ、ナマンダブ。
「はぁ、はぁ、はぁ。言われないでもするでござるよ。」
「それと2つ目は、日向のスマホはいつものようにぺろぺろしてくれ。徹底的に。舐め残しがないようにしてくれ。」
「はぁ、はぁ、はぁ。言われないでもするでござるよ。」
もうダメです。彼らの言っていることがわからなくなってきました。舐め残しとはなんなんでしょうね。そんな不気味な単語初めて聞きました。というか、こいつら、1回死んでくれないかな。
「3つ目だ。電話がかかってきても絶対に出るな。何があっても出るな。まあ、日向さんは友達がほとんどいないから、電話がかかってくるなんてことはほとんどないと思うけどな。」
「はぁ、はぁ、はぁ。言われないでもするでござるよ。」
木陰君は私に対して何か恨みでもあるのでしょうか。言葉の刃が私の胸を深くえぐります。
「最後に4つ目だ。誰かから日向のスマホについて尋ねられたとしても、俺から提供されたものだとは絶対に伝えないでくれ。」
「???。わかったでござる。これは木陰殿から提供されたのではなく、学校の近くで拾ったことにするでござる。」
「よしよし、良い子だ。俺からは以上だ。頼んだぞ。」
「はぁ、はぁ、はぁ。それだけでござるか?いつものようにアダルトビデオ貸してとか、エロ本読ませてとかではないのでござるね。わかったでござる。」
木陰君・・・。いつもアダルトビデオとかエロ本ねだっていたんですね。彼も普通の高校生、そういうお年頃なんですね。
がたんとドアが閉まり、クソ野郎が家に戻って行きました。
私は身を潜めていた塀から出て、木陰君に近づき、無言でビンタしておきました。
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「あはははは。悪かったって。でも説明したら、君スマホ出さなかったでしょ。」
彼は頬にできた真っ赤な手跡をさすっています。
「そりゃそうです。乙女のスマホをあの変態陰キャクソメガネに渡すとか正気の沙汰には思えないんですが。一体何が目的ですか。」
「変態陰キャクソメガネか。いいねえ、ぴったりだ。
ええと、警察の目を撹乱するためかな。スマホにはGPS機能が内蔵されているだろう。奴らは僕らを、いや君を探し出す時に必ずスマホのGPS機能を利用すると思うんだよ。だから、それを利用しようと思ってね。これから彼は家族で北海道に移動する、君のスマホを携えてね。警察が君の位置情報を調べてみるとあら不思議。東京に反応がある。死体の死亡推定時刻からまだそこまで時間が経っていないのに、反応が東京にある。彼らはこぞって東京に君のスマホを探しに行くはずさ。ここ、兵庫県から東京まで新幹線ならば1日もあればいけるというのがミソだな。きっと警察は新幹線の監視カメラを目を皿にして君の姿を探すだろうさ。でも決して君の姿を見つけることはできない。」
「なるほどよくわかりました。木陰君のスマホはどうするんですか。」
「僕のスマホは家にでも置いておくことにするよ。僕と君が一緒に行動してると思わせたくないからね。あくまで君は1人で逃走していると思わせるんだ。」
「じゃあ。私のスマホを変態陰キャクソメガネにぺろぺろさせるのは。」
「あれは、僕の指紋を消させるためさ。言ったろ、僕と君が一緒に行動しているとは思わせたくないって。」
「わかりました。なんとか我慢します。なんかこうさっきからずっと背中の寒気が止まらないのですが。」
「ははっ、気のせいだよ。それに、君がぺろぺろさせるわけじゃないんだからいいじゃないか。考えすぎだよ。じゃあ、次は僕の家に行こうか。」
そう言って、笑いながら、彼は歩いて行きました。
後ろから刺しても良いでしょうか。
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