5にゃす「おとどけもの依頼」

 帰宅すると、一番大きな付箋を引き出しから取り出して、二枚はがした。それを横並びに置いて、太いペンで出来るだけ大きく、集荷|希望と書いた。漢字が読めなかったらどうしようと思ってルビも振った。


 足取り軽く玄関に向かって、突っ掛けサンダルを履いてドアを押した。バタンと閉め、ドアを見つめる。目線的にはドアノブぐらいの高さがいいのだろうか。上すぎると他の人の目線もあるし、誰かに見られたら恥ずかしい、という気持ちもあった。


「にゃーが、しゅうかするにゃす」


 と、突然後ろから声が聞こえ、体が飛び上がり気持ちは天井にぶつかりそうなぐらい爆上がりだ。代償として右肩がつりそう。

 痛めた右肩を押さえながら振り向くと、この前の白いもふもふ、にゃすがお座りして待っていた。

 不思議だ、一回、しかも短時間しか会ってないのにこの前のふざけ顔にゃすに間違いないと思った。

 一体どこから、どうやって?気配がなかった、と思考してしまったが、にゃすがまた現実に引き戻してくれた。現実、に。


「たみこの、にゃす」

「たみこの娘のわこです」

「たみこのわこ!」

「この前はありがとう」

「どういたしましてにゃー」


 一人と一匹でぺこりとお辞儀しあった。

 顔をあげて、今度は私から話を切り出した。


「集荷希望なんだけど」

「おまかせにゃす、ちょっとまつにゃ」


 単語自体は短いが、ゆっくり長くと会話が続いた。


 後方に目をやると、二匹のにゃすが二足でトタトタと急足で向かってくる。

 一匹は小柄で全身はグレーと茶色混じり、黒い横線が無数に走っている。目はアーモンド型で、鼻もシュッとしている、あれ、あの白にゃすって鼻あったっけ?と思うほどだ。手足の先は白い手袋をつけているみたいに白い。可愛いのだが、どこかすっとぼけているような顔立ちではある。

 もう一匹は黒いが顔とお尻のあたりに白いブチがある。少し体が重そうだ。目は鋭く瞳は黒く、お尻は短く太い。左手で描いたような顔立ちをしている、という表現が適切かもしれない。


「にゃす、おまたせしたにゃ」

「にゃにゃ」

「にゃすにゃす」

「わこ、にゃす!」

「にゃーにゃー」


 どうやら仲間に紹介してくれているみたいだ。

 三匹でわちゃわちゃしていて、とてつもなく可愛い!胸が張り裂けそうという体験を今出来るなんてと身をよじると、右肩が本格的にった。


「あたたたー」


 注目を引くには成功したようで、同時に不安な顔でこちらを見上げた。


「わこ、だいじょうぶにゃす?」

「ふぅ。ごめん、大丈夫」

「にゃーがおはこび、こっちはおうちわかる、こっちはこのへんのボス」

「グレーのにゃすは住所が分かるの?」

「はなしきいたらわかるにゃ、ほかのにゃすにでんごんするにゃす」

「黒いにゃすはボス?」

「にゃーと、こうたいしてくれるにゃす、しょうかいしてくれるにゃ」

「ふんふん、つまりー」


 どうやら、情報を入手して住所を特定するのがグレーのにゃすの役目で、リレーの要員を仲介するのがボスにゃすの役目らしい。配送みたいに送り状を書く必要はなさそうだ。


「たみこ、どこいる?」

「〇〇市なんだけど」

「どっち?」

「あっちで、川をだぶん3つ渡るかな。大きいのと小さいの」


 実家の方向を指さして、大まかな地形や、近くにある目印になりそうな建物、実家の外観や近所の公園のことを話した。後は母の特徴、話し方や髪型など。


「この情報でお届け可能なのかな?」

「にゃす、まえに、たみこにあったにゃすがいるから、だいじょうぶ!」

「にゃにゃ」

「にゃすにゃす」


 三匹とも誇らしげな顔をしたので、まぁお願いしてみよう。



 三匹のにゃすに会えるなんて、最高に癒される日だわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る