第6話

 ホシウラは一心に考えました。

 アマビエは三本の尾を持つ、人魚たちの至宝です。そのアマビエが人と親しく言葉を交わしているなどと許せる事ではありません。

 だってアマビエの力は人魚のためにあるべきです。それが人のために弱まってしまったり、あまつさえ人のための願いを叶えるようなことになっては大変です。三本の尾の人魚など滅多に生まれはしないのです。

 ホシウラは人魚たちにアマビエに人の友がいるらしい事を話しましたので、アマビエは海面に出ることを禁じられることになりました。

 泳ぐ事が苦手なアマビエの動きを封じるのは、その気になれば造作も無いことです。

 アマビエは海の底に閉じ込められて日々を送りました。

 アマビエが陸に近づけない間に、遠くから流行り病がひたひたと、なぎ住む海辺に近づいていました。

 流行り病というものは人の流れに乗って広まるものです。ですから病はなぎよりも前に身ごもっているなみのところにたどりつきました。

 そして恐ろしい事に病はなみに取り付いて、海辺までやってきてしまったのです。赤ん坊を生むために流行り病の蔓延する町から実家へ戻ったなみは、念のためにと隔離された小屋で発病したのでした。

 なみの病は海辺の人々を震えあがらせました。

 なみだけでなく、なみの看病のために小屋にいるなみの母親も隔離され、なぎは姉と母のために毎日食事を小屋に運ぶようになりました。

 小屋に食事を運んでも、二人に会うことはできません。食事は小屋の戸の前に置いて、声だけをかけて帰ってくるのです。

 「おかあさん、お姉ちゃんは大丈夫?」

 問うと答えが返ります。

 「大丈夫。それほどひどくないよ。これなら赤ん坊も大丈夫だろう。」

 母の声は元気そうでしっかりしてはいましたけれど、やっぱりなぎは不安でした。

 だってまわりの人たちは恐る恐るなぎに接するのです。なぎをかわいそうがってお菓子をくれるようなひともいます。そんなふうに扱われると、姉も母も死んでしまうような気持ちになって、なぎは落ち着かないのです。

 やがて海辺では誰からともなくこんな噂囁かれるようになりました。

 ー 人魚の肉なら病を治せる。

 人魚の肉を食えば不老長寿になれるとは、有名な話です。そこからそんな事を言い出す者が現れたのでしょう。人魚だなんてたいていの者にとっては夢物語です。

 でも、なぎはアマビエを知っていました。

 なぎは小屋に通うたびに、アマビエの岩場を覗くようになりました。

 人魚の肉を食べるなんてできるはずがありません。アマビエは友達です。

 ではなぜ、なぎはアマビエを探してしまうのでしょう。

 わからないままなぎは岩場に通いましたが、アマビエが現れることはありませんでした。

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