口さけ女VSおばあちゃん
「どうぞ、生ビールです」
「ありがとうございます」
店主の人面犬から大きなジョッキを受け取るなり、メリーさんは満面の笑みを浮かべた。口さけ女、花子さんが飲みきらないうちに2杯目。
メリーさんはこののどごしの良い、苦みを伴った飲み物が好きで堪らない。
一方、口さけ女と花子さんは枝豆をむさぼり食っていた。花子さんは好物だからだろうか、笑顔である。だが、口さけ女は口をへの字に曲げていた。その様子はさながらヤケ食い。
それに気づいた花子さんは眉をつり上げる。
「何か不満なことでもあるの?」
「言ったじゃない、こんなご時世だから存在意義を奪われるって」
それを見たメリーさんは、いつ喧嘩が始まっても良いようにジョッキを口から離して待機。苦労の多い幼女妖怪。
「前なんかね、おばあさん脅かそうとしたのよ。
そしたら、そしたらよっ!?」
ヒートアップした口さけ女はテーブルを叩きながら声を荒げていく。
「マスクはずそうとした途端、あなた何考えてるの!こんな状況なのに人前でマスク取るだなんて!って説教くらったわよ」
さて、目の前には目に涙を溜めてくだらないことに対して怒っている酔っ払いがいる。そして、その人は付き合いの長い友人だ。これで笑わずにいられるだろうか。いや、無理だ。
メリーさんは笑いを誤魔化したような妙な咳をし、花子さんは隠さずに爆笑。そしてそれに対してまたまた怒る口さけ女。
「何よ、2人してバカにして!
2人はこんな目に遭ったことががないから笑っていられるのよ」
そう言い放った瞬間、空気が変わった。
メリーさんが咳をするのをやめ、残ったビールを飲み干した。多量のビールを、一気に。無表情で。そしてそのままハイボールを頼む。そしてしばらくしてから届いたハイボールを笑うこともなく受け取った。
そう、口さけ女はメリーさんの地雷を踏んだのだ。
花子さんは押し黙り、口さけ女は苦笑いをして枝豆を口に放り込んだ。
喋りやすくするためか、メリーさんはハイボールを少し飲んで、舌なめずりをした。
そして叫んだ、いや、咆えた。
「じゃあ、私はなんなの!?」
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