メリーさんの宿命
「じゃあ、私はなんなの!?」
大きな碧い瞳に見つめられ、口さけ女は硬直した。そして彼女の向かいの花子さんは、気まずそうに低い音を立ててビールを飲んでいる。
今度はメリーさんの泣き言タイムの始まりだ。
「私はネット界隈ではもうネタキャラなんだよっ!?
どうせ今のご時世、私が電話したらそれは不要不急の外出なのか聞かれて、後ろに立ったらソーシャルディスタンスを叫ばれるもん」
彼女も中々の重症である。ネタキャラ認定されて何年だろうか。都市伝説たるもの、やはりそれには怒りを隠せないのだろう。
メリーさんの異常なテンションの高さはアルコールのせいではない。彼女は決して下戸ではない。酒豪だ。この程度では酔わない。このテンションは単に怒りのためだ。笑いのためという名目の元、存在を歪まされたことへの怨み。執念深さはここに出る。
「それに、家電持ってない人もいるし、出先の人の携帯に電話したときは地獄。
なんで家の近く?自分は違う場所にいるけど、的な?あれ、本当にムカつく。
こうして都市伝説たちは現代技術の波に飲まれ、形を変えてゆく……」
そしてハイボールを勢いよく飲む。
ピンクのドレスには似合わぬ言動。普段はこうはならないが、地雷はいわば怒りスイッチ。今更嘆いてももう遅い。
そんなメリーさんの横では口さけ女と花子さんが無言の会話をしていた。決してテレパシーを使えるわけではない。さすがは長年の付き合い。目は口ほどにものを言う、だ。
(ねぇ、どうしよう?)
(知りませんよ。
っていうか、どうしてあんなこと言った)
(まあ、イライラしてたし?)
花子さんはメリーさんに悟られないよう、こっそりため息をつく。
(アンタ馬鹿ですか?
以前にも地雷踏み抜いたことあったクセに)
(えー、そのことは言わないでよぉ。
耳が痛いー)
──ダメだ。こいつ。
イラつきを隠そうともせず、花子さんはビールを口に運び、ジョッキを机に叩きつける。
花子さんのジョッキはだいぶ軽くなっていたが、メリーさんはそれ以上であった。2杯目のジョッキはほぼ空。そして今はメニューを開いて次の酒を探している。怒っていた先ほどまでとは違いとても静か。
私もおつまみを他に頼もうか。メリーさんはお酒に夢中だし、勝手に頼んでも構わないだろう。……口さけ女の意思?アイツは無視でよし。
そのとき、
「あっ、メリーさん!」
幼い声が店に響いた。
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