第39話「明日のためのエピローグ」

 戦いは終わり、期間限定レイドイベントも終わり、レッドとエリンは人がまばらとなったブランデン島の王国を歩いていた。


「まさか城そのものがストレンジオブジェクトとは思いませんでした! あれだけのオートマンを動かせたのは山ほどの原材料があったからなんですね」


「城の兵士も、あの黒い騎士のクリケットまでオートマンとはな。あの名前のないオートマンの言っていたことは全て本当だったのか」


「名前のないオートマンじゃありません。ナナシです。彼女はイベントゴールの聖杯解体のためにその身を捧げた英雄です。名前はちゃんと覚えてください!」


「はいはい」


 空にはブランデン島からいつもの都、パラドンへ戻る飛行船が次々と飛んでいる。イベントが終わって目ぼしいクリーチャーやアイテムがないと判断した大勢のプレイヤーが、帰還しているのだ。


「クリケットとの最後の戦いは熱かったですよ! 未完成の聖杯を使って、王座の前に集まったプレイヤーと同じ数だけ分裂しての乱戦。ケリーさんとの戦いがなければクリケットの本体を見つけるのは至難の技でしたよ」


「ケリーのスキルと一緒で本体さえ見極められれば後は簡単だったんだろ?」


「私もそう思いました。でもそれは第1段階でした。第2段階になって未完成の聖杯を鎧のように纏い、暴走した時はどうなることかと思いましたよ」


「それでそこに登場したのはオートマンのナナシ。彼女の献身のおかげで倒せたんだろ」


「そうなんです! あれは涙なしに見れませんでしたよ。ナナシの王への気持ち、実の娘に似せたその訳。できるならマリーザの友達として一緒に帰りたかったです」


「でもそのおかげでクリケットを倒せたんだ。そして――」


 レッドが王国の空に浮かぶランキングを見る。そこにはイベントの各部門のランキングが掲示(けいじ)されていた。


 ほとんどのランキングの1位をかっさらったのはケリーと、同じ冒険者ギルド『暁のドラゴン亭』出身のプレイヤーばかりだ。


 その中にレッドやエリンの名前もあった。しかしほとんどはケリーの次、ランキング1位ではなかった。


 そう、ただ1つを除いて。


「まさか本当にランキング1位になれるとはな」


 イベントゴールランキング1位、エリン。その名前が頂点に刻まれていた。


「ランキング1位。イベント用とはいえ、有言実行です。ですがこれが私のゴールではありませんよ」


 エリンはなけなしの胸を張って、自分の功績を自慢していた。


「ただイベントゴール1位の報酬、ストレンジオブジェクトの城丸々1つを。管理できないからってケリーに謝礼と交換を含めて所有権を移譲しちまったのはもったいなかったな」


「いいじゃないですか! あんなに大きなもの、私たちには無用の長物です。ここは使い勝手のいいアイテムとコネを獲得するのが1番です。レッドさんだって納得したじゃないですか」


「まあ、そうだがな」


 レッドはそう言いつつ、思い出したかのように自分のメールフォルダを確認した。


 ガラハッド、ユニオ・ベルベット用の受信メールにはただ1通『間に合った』という題名のメールだけで他には何もない。事実なのはユニオもあの戦いを見ていたということだけ。本人は姿を見せなかった。


「もっとピンチだったら、来てくれたのかもな」


 レッドが残念そうな顔をするのを、エリンは目ざとく見つけた。


「ユニオさん、でしたっけ? 昔の友人さんとは会えなかったのですか」


「ああ、だがこのゲームを忘れたわけじゃない。それだけ分かればいいよ」


「そうですね。このゲームを見ているなら。私たちが盛り上げればきっと帰ってきますよ!」


 エリンは元気よく、確信を持って宣言した。


「今度は私たちで必ず、ランキング1位になります。そうすればレッドさんの友達もきっと帰ってきます。一石二鳥です!」


 レッドは、くせ毛も言葉も元気のいいエリンを見て、苦笑した。


 蒸気と魔導が織りなす、VRMMORPG『オーダーニューロマンス』。ここにはきっとまた新しい出会いがあるはずだ。


 レッドにとってエリンがそうであるように、ゲームの明日はまだまだ続いていく。


 そう信じている。

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MOD仕掛けのニューロマンス~追放された弟子を強くするそうです!~ 砂鳥 二彦 @futadori

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