第33話「墓所にて」

 王族の地下墓所は石造りで造られた素朴な印象だった。


 とは言っても王族のものだ。中に入ると石を掘りぬいた様々な意匠(いしょう)がほどこされ、静かな荘厳(そうごん)さをたたえていた。


 レッドたち3人は少し遅れて到着したためか、他のプレイヤーが見当たらない。代わりにNPCである王国騎士達が待ち構えていた。


「ようこそ、旅人たちよ。協力感謝する。では反逆者たちの狩りを始めようではないか」


 王国騎士は黒いマントを翻(ひるがえ)し、レッドたちを地下墓所の内部に案内した。


 地下墓所の中は思ったよりも広い。どうやら洞窟を利用しているらしく、鍾乳石がむき出しになっている。


 レッドたちは鍾乳洞が形作る谷や山を見ながら、階段を下りていく。しばらくすると、鍾乳洞から人が掘った横穴に入った。


「結構入り組んでいるな。トラップに気を付けろよ。こういう墓所にはつきものだからな」


「ふふんっ。そのくらい大丈夫ですよ。私くらいになるトラップから逃げていくくらいですからね」


 エリンがそう言いながら歩いていると、不自然な丸石を踏んでしまう。


 次の瞬間、横の壁から1本の矢がエリンに向かって放たれた。


「ひえっ!」


 エリンは不意打ちに対して、持ち前の反射神経により何とか頭を逸らして回避する。


 その行動は間が抜けているような、しっかりしているような。ともかくエリンは自由に歩かせるべきではないと皆判断した。


 レッドたちはそのまま反逆者と遭遇する機会もなく、どんどん奥へと進む。もうだいぶ進むのに、反逆者どころかクリーチャーもいない。


「本当に反逆者がこんな場所を拠点にしているのか?」


 レッドが近くの王国騎士に問いかけるも、返事はない。先ほどから黙ってついて来るのは不気味すぎる。少しは愛嬌を見せてもらいたいところだ。


 そうして更に進んでいくと、一同は急に歩みを止めた。


 何故ならば進行方向が行きどまりとなっていたからだ。


「仕方ない。途中で他の道を探し――」


 レッドがそう言って振り向いた時だった。


「レッドさん!」


 エリンがレッドを引き倒す。その瞬間、レッドの目の前で銀色の斬撃が輝いた。


 斬撃は空振りして地面を打ち、レッドは辛(から)くも攻撃を受けずに済んだ。


「あー、そういうことかよ」


 レッドがステータスを開示すると、後ろの王国騎士全てが敵対状態となっている。どうやら、はめられたらしい。


「ンゴおおおおおおおお!!!! 急に何するんじゃあああああああ!!!!」


 アンジーが吠えるも、王国騎士たちは何も語らない。


「理由を訊くにも、今の状況をどうにかするしかないらしい。迎撃するぞ」


 レッドがエリンとアンジーを鼓舞し、いつもの装備を装着した。


 だが、現在の戦況は芳(かんば)しくない。


 レッドたちは袋小路に押し込められた状態で、自由に動くのも逃げるのもままならない。


 かと言って正面突破するには重武装の王国騎士を相手どらなければならず、難しい状態だ。


「エリンのスピードを活かすには狭すぎる。ここは……」


 レッドは頭の中で瞬時に戦略を組み立て、解答を出した。


「エリン! この間の必殺技を正面に撃て!」


「えっ! でもあれはすぐにガス欠するのですが……」


「構わん。撃て!」


 エリンはレッドに誘(いざな)われるまま、2丁の蒸気拳銃を構える。


 そして間髪入れずに、引き金を引いた。


「<ツインバーンバルカン>!」


 エリンの蒸気拳銃の銃口から、火山のマグマのごとき火の噴出が吐き出される。


 赤く煮えぎたったそれは、逃げ場のない王国騎士の隊列をすぐに飲み込んだ。


 スキルが終わってみれば、ほとんどの王国騎士は黒焦げとなり、残されたのは3人の騎士だけとなっていた。


「そいつの真骨頂は相手に逃げ場のないときに使うんだ。頭に刻んでおけ」


「な、なるほど」


 エリンが感心する間に、残りの王国騎士たちは怯むこともなく焼けただれた仲間の亡骸を踏み越えて、レッドたちとの距離を詰めてきた。


「隊列を変更する。俺が前衛だ。アンジー先生は俺に防御系バフを」


「分かったンゴ……!」


 アンジーが魔導を唱えると、レッドの防御ステータスが上昇した。


「いくぞっ!」


 レッドは王国騎士と肉薄する。通路が狭いため自然と1対1となり、タイマンでの勝負となった。


「ステータス通りなら」


 先に攻撃を仕掛けたのは王国騎士の方だ。重い剣の一撃がレッド目掛けて振り下ろされる。


「ぐっ。だが」


 しかし、レッドは回避しない。自ら攻撃をくらいに行き、代わりに左手の魔導腕を王国騎士の身体と密着させたのだ。


「<魔素解体>!」


 レッドが魔導腕をかき乱すと、王国騎士が割れた。


 それは比喩でも何でもなく、分解したのだ。王国騎士はまるで残骸のようになり、地面にばら撒かれたのだ。


「オ、オートマン?」


 王国騎士の正体は人のNPCではなく、オートマンだった。つまり人形。これまでの素っ気ない態度もそのせいだったのだ。


 レッドは<魔素解体>で破壊された王国騎士を弾き飛ばし、次に構えていた王国騎士にも同じように密着した。


 次もまた<魔素解体>で王国騎士をガラクタに変えてしまった。


「まだまだ!」


 3人目の王国騎士は事前に攻撃の体勢を整えている。突きの姿勢でレッドを待ち構え、貫(つらぬ)かんとしていた。


 けれどもレッドはひるむことなく王国騎士に突貫(とっかん)した。


「うおおおおおおっ!」


 レッドがためらいなく突入したため、僅かに切っ先が急所を避ける。それでもまともに攻撃を受ける形だ。防御系バフが掛かっているとはいえ、レッドの体力はかなり減らされた。


 代わりに、チェックメイトだ。


 レッドが魔導腕の指先で王国騎士に触れ、再度<魔素解体>を行う。すると王国騎士は操り糸が紐解(ひもと)かれたかのように力なく崩れ落ちた。


「レッドは無茶するンゴね……」


 戦闘が終わり、アンジーはレッドの特攻を戒(いまし)めながらも自身の魔導で体力バーを回復させた。


「ありがとうな。アンジー先生」


「どういたしましてンゴ……」


 さて状況を整理しよう。王国騎士が襲ってきた理由は定かではないけれども、ここに追い詰めたのは計画の内だったのだろう。


 ならばここに反逆者はいない。単に王国は王家の墓地をプレイヤーの墓地にしようとしていたのだ。


「問題はその理由だよな。どこかに命令書か日記でもあれば……」


 レッドたちは手分けをして無事な王国騎士の身体をまさぐる。


 王国騎士の持ち物はほぼ皆無だったが、重要そうな書類をレッドが発見した。


「こいつは……地図か」


 レッドが手にしたのは簡易な地図だ。全景を見るに、この地下墓所の一か所を示しているらしい。


「どうする? ここに行ってみるか」


 レッドはエリンとアンジーに同意を求めると、2人も頷(うなづ)いてみせた。


「さて鬼が出るか蛇(じゃ)が出るか、だな」


 レッドは地図を頼りに薄暗い地下墓所の探索を再開した。

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