第22話「パーシヴァルは過去との対決をしたいようです」
『銀色の歯車騎士団』は仲間を募(つの)って、『第二次ニューロマンス大戦』を行うかもしれない。
それは復讐だ。今度は騎士団側からチートMODを使い、『オーダーニューロマンス最大の汚点』を繰り返そうと言うのだ。
「実際のところ、可能なんですか?」
「セキュリティは強化されたけど同じMOD機能を使っている以上、可能だンゴ……。ただ前回よりもチートMODの使用者の特定と現状の回復は早いはずだから、修正に1週間以上かかるなんてことはないはずだンゴ……」
アンジーの言う通り、チートMOD使用者が100人程度ならすぐに鎮火するだろう。けれども500人なら? それ以上の人数だったら? 答えはシュミレーションでも出されていない。何せ、オーダーニューロマンスは昔のような興味や求心力を失っているからだ。
「運営も我慢強いとは限らないね。次こそ、ゲームの稼働そのものを止めてしまうかもしれないよ」
ケリーの指摘は的外れではない。前回はチートMODを正式採用するという奇策により難局を乗り越えた。それもかなり大きな痛手を被(こうむ)ったうえでだ。
運営とて慈善事業でゲームを管理しているワケではない。これ以上修整不能に陥れば、ゲームそのものを手放しかねないのだ。
「ある意味、ゲーム自体に復讐するために帰ってきたのかもしれないな」
レッドは苦しそうに、元『黄金の歯車騎士団』メンバーが成そうとする未来に、唇を噛んだ。
「今の話を聞いて分かったよ。僕は必ず『銀色の歯車騎士団』がしようとしている企みを止めないといけない。ただ情報も、おそらく時間も足りない。レッド達には協力して欲しい」
「どうします? レッドさん」
ケリーの真剣な眼差し、エリンの不安そうな視線、アンジーの諦観(ていかん)した表情、それらがレッドに選択を迫(せま)った。
「……俺はこのゲームをまだ諦めたくない。エリンのこともあるしな。それにオーダーニューロマンに愛着があるし、好きだ。だったら返事は1つだ」
「じゃあ、協力するんだね」
「ただし条件がある」
ケリーがレッドの返答に喜ぶのも束の間、レッドは条件を出してきた。
「潜入は俺1人でやる」
「そんな! 無茶ですよ」
レッドの提案にまず反対したのは、エリンだった。
「騎士団長と俺は顔なじみだ。他に余計な人数がいない方が話しやすい」
「でももし私たちの企みがばれたらどうするんですか!? それにどれだけの期間潜伏する必要があるかも分からないんですよ。1人で大丈夫なはずがありません!」
「餓鬼(がき)のお守(もり)じゃないんだ。1人で十分だ」
「十分じゃありません!」
「十分だ!」
こうなると先の心配をすればするほど水掛け論だ。そうなれば自然とどちらの声が大きいかで決まった。
「黙れ! 俺達の思い出に土足で踏み込むな! 過去は過去で全部俺に任せとけばいいんだよ! 分かったか!」
「ヒッ、う……」
レッドは森にこだまするほどの大声を張り裂け、エリンを威圧した。
「じゃあ、決まりだね。レッドが1人で行くんだ」
作戦は決まり。レッドは過去を清算するため、覚悟を決めた。
『銀色の歯車騎士団』との接触は遠距離でのチャットを禁止しているため、互いに話し合うのに直接キャラクターと遭遇する必要があった。
ケリーの情報から『銀色の歯車騎士団』のメンバーは今、レッド達と同じようにウェアウルフマンを生み出しているストレンジオブジェクトの捜索を行っていた。そう、彼らもこの新天地に仮の拠点を構えているのだ。
そこでレッドは『銀色の歯車騎士団』とエンカウントするため、彼らの行動範囲に移動していた。
それも1人である。
レッドの探索時間はさほど長くなく、複数人の人影を見つけ出した。
「『銀色の歯車騎士団』か?」
ウェアウルフマンを探して集中していた『銀色の歯車騎士団』メンバーたちは急なプレイヤーの遭遇に、やや戸惑(とまど)っていた。
「なんだ? 俺達に何か用か?」
「俺はレオナルド・マクスウェル。入団許可が欲しくて、メンバーを探していた」
「レオナルド!? あの『居残り組のレッド』か!?」
『銀色の歯車騎士団』メンバーたちの懐疑的(かいぎてき)な目は、侮蔑(ぶべつ)のこもったものに変わった。どうやらレッドの噂は承知しているようだ。
「おいおい、干からびたような古参が今更新しい騎士団に寄生か? 許可なんざもらえるわけがねえだろ! 帰れ帰れ」
他のメンバーも口々に「そうだそうだ」「お前なんかいらねえよ」と言葉にした。
だからと言って、レッドは引き下がる気など毛頭(もうとう)に無い。
「騎士団の入団条件はプレイヤースキルであって、アンタたちの御機嫌取りではないかったはずだよな。なんなら、ここで実力を測ってもいいぞ」
レッドは攻撃的な発言をして、装備を装着した。
「なんだ? この数の差でやるのか?」
『銀色の歯車騎士団』メンバーとレッドとの間で緊張が走る。このまま戦闘か。
そう思われた時、意外なところから援護射撃があった。
「実力なら問題ない。彼は入団条件に十分な人材だ」
「グ、グラムさん。いたんですか」
レッドを認めたのは神経質そうな白い顔、青白い髪、ひょろ長の男だ。なんとそこにいたのは『青の灯台騎士団』騎士団長、グラム・グラスだった。
「彼は私達に圧勝した男だ。悔しいことにな」
「おいおい、なんでアンタがここにいる。まさか仕返しに来たのか?」
「できることならそうした。だが、今の私は騎士団長ではない。今はこの『銀色の歯車騎士団』に所属しているのだよ」
「……身代わりが早い奴だ。ランキング上位にいるためには手段を選ばないってか」
「吸収合併だと言い訳はしておく。そういう君もこの『銀色の歯車騎士団』に入りたいのだろう? 私から許可を求めよう。では副団長に連絡を――」
グラムがそう指示を飛ばすのを、レッドが遮(さえぎ)った。
「会うなら騎士団長の方だ。それ以外で騎士団には入らない」
「何!? 条件を付けるつもりか。まさか何か意図があるのか」
「意図があるかと言えば、そうだな。噂では騎士団長は元『黄金の歯車騎士団』のメンバーだって言うじゃないか。俺もそこにいたんだ。久しぶりに懐かしい話をしたくてな」
レッドはできるかぎり不自然のない愛想(あいそ)笑いをした。
レッドの笑顔に、グラムも周りの騎士団員も疑問を浮かべたようだ。ただレッドの真意を探れない以上、疑っても仕方なかった。
「分かった。騎士団長に許可が取れればそうしよう。では――」
グラムがレッドの願いを承知し、掛け合ってくれようとしたその時、誰かのメールが届いた着信音が響いた。どうやら、グラム宛てらしい。
グラムはアドレスを見てから先にメールを閲覧(えつらん)する。そうしてメールを読み終わってから、グラムはレッドに向き直った。
「誰かがこのやり取りを監視していたらしい。レッド、騎士団長は君と会いたいそうだ」
レッドの思惑とは違い、あっさりと騎士団長との対面を認められてしまった。
さて、勝負はこれからだ。どれだけ情報を得られるか。『銀色の歯車騎士団』騎士団長の思惑が本当に復讐にあるのか。
そして元『黄金の歯車騎士団』円卓騎士の誰か、この目で見る必要があった。
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