第21話「過去の負の遺産」
『黄金の歯車騎士団』はオーダーニューロマンスが同時接続者1000万人を達成し、最も輝いていた時代にあった。しかも最多コミュニティ加入者数を記録し、冒険者ギルドと騎士団を含むコミュニティランキングは1位を独走していた。
そんな時期にあって、新規に円卓騎士団に選ばれたプレイヤーがいた。それがパーシヴァルの名前を頂(いただ)いたレッド、もう1人がガラハッドの名を持つユニオ・ベルベットというプレイヤーだった。
かつてパーシヴァルと呼ばれたレッドは、ゲームへの参加に熱中し、ランキング1位を目指して爆走していた。実際プレイングスキルは円卓騎士団の中でも飛びぬけており、いずれは上位のランキングに辿り着くはずだった。
しかし、そうはならなかった。レッドの目の前に立ちふさがったのは同期の加入者であるユニオ、ガウェインその人であった。
ユニオは堂々とした立ち振る舞い、戦い方をし。何よりもプレイスキルはレッドを超越(ちょうえつ)していた。これはレッド自身がそう認めるほどであった。
レッドはユニオの強さを前に自分の限界を感じ、ランキングに執着(しゅうちゃく)しなくなった。その代わりにユニオのランキング1位を確実にするために、彼のサポートを始めたのだ。
「今の私とレッドさんの関係みたいです……。いえ、こっちの方が先何ですか!?」
「こらこら、話の腰を折らないンゴ……」
ユニオとレッド、2人のペアの名前はオーダーニューロマンスを駆け巡り、当時ランキング1位であった冒険者の耳にも届いた。
その時、ランキング1位の冒険者プレイヤーが何を想っていたかは、レッドさえ知らない。ただ起こった現実を追うならば、そのランキング1位の冒険者が全ての原因だった。
「うちのギルドでも名前を知らないらしいね。でも、救世主って古参の人たちは言ってた」
「……だろうな。この話の続きを聞いても、冒険者側ならそう思うはずだ」
今では嘘のようだが、最隆盛(さいりゅうせい)を誇った騎士団連合、騎士団派閥は文字通りゲームを支配していた。
騎士団派閥は空(から)の王座を守り、過去と変わらぬ治世(ちせい)を敷(し)くロールプレイングを重視し、自由と開拓をを愛する冒険者を弾圧(だんあつ)さえしていた。それは自分達を崇高(すうこう)な存在として外部の人間を敵とみなす、一種のカルトだった。
レッドを含む一部プレイヤーは攻撃的な思想に疑問を呈(てい)し、何とか内部改革を行うとするも、騎士団長のアーサーの名を冠(かん)したプレイヤーは頑(かたく)なに認めようとしなかった。
そんな時、ある事件がオーダーニューロマンス中を揺るがした。
『黄金の歯車騎士団』による、その頃コミュニティランキング2位であった冒険者ギルド『暁(あかつき)のドラゴン亭(てい)』討伐であった。
討伐の対象になった原因は些細(ささい)なものだった。騎士団派閥から指名手配された冒険者プレイヤーを『暁(あかつき)のドラゴン亭(てい)』が匿(かくま)った。それだけである。
2つのコミュニティの戦いは他の騎士団や冒険者ギルドも巻き込み、後に『ニューロマンス大戦』と言われる大戦へと発展した。
「へー。じゃあレッドは『ニューロマンス大戦』の参加者なんだね。凄い」
「凄くねえよ。数え切れないほどキルされてもしぶとく居直った。それだけだ」
序盤(じょばん)から戦いは実力と数で上回る騎士団派閥が優勢、『暁(あかつき)のドラゴン亭(てい)』もここまでか、と思われた時、更なる事件が発生した。
後に『オーダーニューロマンス最大の汚点』とも言われる、500人規模の集団によるゲームデータの改竄(かいざん)、つまりチートMODの使用だった。
理屈は難しく、レッドも詳しくない。ただチートMODの使用例は過去にも何度かあり、その際には使用プレイヤーを特定してBAN、いわゆるプレイヤー権限の剥奪(はくだつ)を行っていた。
だが今回違ったのは同時にチートMODを使用した人数だ。急速なプレイヤー人口の拡大により急がれたアップデート、バグ報告の処理、イベントの開催、と手が回らない運営にとってこの話は寝耳に水だった。
とは言っても、前々から自由なMODを適応できるオーダーニューロマンスにおいてチートMODを大人数で使用した場合どうなるか、という推算(すいさん)は出ていた。
その仮想シュミレーションの結果は、現実と同じ結果になった。
「一応、昔よりもオーダーニューロマンスのセキュリティは強化されたンゴね……」
「だがMODを適応できる限り、他のゲームよりも穴は多い。……まさか、それが狙いか!」
「えっ、なんなんだンゴ……?」
最初の首謀者(しゅぼうしゃ)はランキング1位の冒険者とその仲間達だったと言われる。それこそ初めはたった500人、総人口1000万人以上のプレイヤーに影響はないと思われた。
ただ、このチートMODの使用はランキング1位の冒険者が管理していた動画チャンネルで動画配信された。その数、50万人だ。
次の日、ネットの口コミと運営の対処の遅れもあり、チートMOD使用者は100万人に増えていた。
何故かといえば、原因はランキング戦と『ニューロマンス大戦』にあった。ランキングで負けることはランキングの下降を意味し、プレイヤーキルされることはゲーム資産に大きなダメージを与えることになる。これがチートMODの使用を加速させた。
チートMODは名前の通り、適用したプレイヤーは強い。そのため使用者はランキング上位に駆けあがり、プレイヤーキルもし放題。一方、使用していないプレイヤーはじっと我慢だ。
そのうち、運営側がチートMODの使用によるランキング変動とプレイヤーキルの補填(ほてん)に動き出さないと知ると、非使用者は使用者に変わっていた。
運営は無能、と言われてもできなかった理由は、あまりにも大人数によるチートMODの使用でゲームへの影響を修正できなくなっていたからだ。
この修正不可能な状況はチートMODの蔓延(まんえん)を促進し、古い守りを信奉(しんぽう)する騎士団派閥はチートMODを使用する冒険者派閥に押されていた。
レッドやユニオはチートMODを使用せずに奮戦(ふんせん)するも、戦況の不利は確定的、負けるのも時間の問題となっていた。
更に追い打ちをかけるように、騎士団側でもチートMODを使用する者も現れ、内部分裂し始めたのだ。
結果、『ニューロマンス大戦』は冒険者派閥の勝利。『黄金の歯車騎士団』は責任を取って解散。騎士からも冒険者からも多くの引退者を出して終結した。
そしてチートMODはゲームバランスを維持するために、運営による事後承認がされた。そう、チートMODは元々から使用してもいいMODとされたのだ。
そのMODこそ、今でも使われている相手のステータスを表示する機能であった。
「……ひどい歴史ですね。システムの悪用者が正当化されるなんて……」
「ああ、だがこれは過去の話じゃない。もしかしたら『銀色の歯車騎士団』の狙いは、これだ」
「えっ? つまり」
「『銀色の歯車騎士団』は仲間を募(つの)って、『第二次ニューロマンス大戦』を行うかもしれない。ってことだよ」
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