第12話「弟子は最初の勝利を飾るようです」
「このおおおお! いいかげんにくらってくださいよおおおお!」
劇場型の中央アリーナでは、先ほどまで優勢だったヴァンがショットガンを振り回していた。
ただしヴァンのショットガンがエリンに向けられるたびに、その矛先はエリンによって別の方向へ変えられていた。
そうだ。それはエリンの、銃口を手によって逸らすという神業的なプレイングによってだ。
しかもただ逸らすだけではない。片手で受け流すたびにもう一方の片手で蒸気銃を撃つという、カウンターもやってのけているだ。
エリンの体力は残り6割、ヴァンに至っては残り3割と明らかに差が出始めていた。
「しかたないですねえ。ここからが正念場ですよお」
ヴァンはショットガンでの攻撃を諦(あきら)め、一時停止する。
エリンは圧倒的隙による追撃のチャンスがありながらも、ヴァンに集中するオーラのようなものを警戒して、追いすがることはしなかった。
「<バーサク>ですよお!」
バーサク、もしくはバーサーカー、ベルセルクともいう自分の全ステータスを一時的に増強するスキルだ。このスキルは<クイックラッシュ>のように自分を強化する代わりに、スキルの終了後行動ができなくなるハイリスクハイリターンな技だ。
ヴァンは片手にハンマーを、片手にショットガンを持ち。再びエリンと対峙した。
「もう手加減は抜きですよお。御命頂戴しますねぇ!」
ヴァンのスピードは今までと桁違いだ。表示されている速さだけならエリンとも互角。重量級騎士を上回る力と、軽量騎士と同等の敏捷によってエリンを追い詰めに来たのだ。
エリンは相手のステータスをしっかりと確認したうえで、ヴァンを見つめ返した。
「ならこうします」
エリンはなんと拳銃をホルスターに戻してしまった。これでは素手の状態、武器を持たずにヴァンを迎え撃つというのだ。
「<スキルスライド>×2」
エリンは両腕に集中する。対するヴァンはハンマーだけではなくショットガンさえも鈍器のように扱い、交互に振り下ろした。
「ハンマーは右手、ショットガンは左手……」
エリンは自分へ呪文のように言い聞かせながら動き出す。
言葉の通りハンマーは右手で軌道を変え、左手はショットガンに対応した。まるでそれは神の領域に辿り着いた武術家のような正確無比な精度だった。
「うーん。もしエリンが冒険者側で始めたプレイヤーなら、格闘家タイプの職業も行けたかもな」
レッドがエリンの動きに評価を下している間も、観客は決闘の番狂わせな展開に歓喜して盛り上がりを見せていた。
「いいぞ、お嬢ちゃん! ランキング3300位に勝っちまえ!」
「このままならいけるぞ! こいつはオーダーニューロマンスの新たな記録だ!」
観客も都合がいいものである。戦いの前は次の戦いでレッドが負けることを期待していたくせに、今では目の前のエリンの勝利を願っている。
エリンが勝てば自然とヴァン対レッドの戦いはなくなるというのに、そんなものは昔の話とばかりに忘れていた。
「こんなのは嘘に決まってますう! 私が負けるなど、負けるなどあってはいけませんんんんん!」
ヴァンは吠えながら、致命的な一撃になるように両手の武器を大きく振りかぶった。
「あ、ヴァンの奴。自分から早まりやがった」
ヴァンの起死回生の強撃はあまりにもタメが長く、エリンにとっては最大の反撃チャンスだった。
「<ドアノッカー>!」
エリンは暴風と共に振り下ろされたヴァン最大の攻撃をあっさりと避け、ガンマンのような早撃ちで蒸気銃を抜いた。
エリンのホルスターから放たれた蒸気銃の銃口は、そのままヴァンの顎に叩きつけられた。
そして、――閃光、爆発。
ヴァンのヘルムは紙風船のように破られ、貫いた弾丸はヴァンの頭を襲う。
次の瞬間、ヴァンの頭部はカボチャみたいに破裂した。
少なくとも、映像効果にグロテスクなゴア表現を残していたレッドにはそう見えた。
「おうっ」
多くのプレイヤーはレッドと同じ視覚効果を見たか、映像フィルターによってマイルドな表現に書き加えられたヴァンの頭の状況を認識した。
各々(おのおの)目撃したものは違えど、観客全員がエリンの勝利の瞬間に立ち会ったのだ。
「ヴァン・スタンリーのクリティカルキルを確認。勝者、エリン・スズカケ」
ゲームマスター013の抑揚(よくよう)のないアナウンスが降ると共に、熱気に包まれていた観客たちは喜びと驚きを爆発させた。
「よっしゃあああああああ!」
「ランキング11万位がランキング3000位を撃破! こいつはニュースになるぞ!」
「番狂わせ、番狂わせだ!」
観客はエリンの勝利を讃(たた)え、拍手喝(はくしゅかっ)さい、場内は熱狂の渦が取り巻いていた。
「エリン、エリン、エリン、エリン!」
勝者の名前が復唱され、エリンは中央アリーナに殺到した観客たちにもみくちゃにされる。
エリン本人は周りの反応に慌てつつも、喜んでいる様子だった。
「おめでとう。エリン。こいつはお前の第1歩だ」
レッドは空(す)いた客席からエリンを見下ろし、小さな賞賛(しょうさん)を贈(おく)った。
エリンはそんなレッドの視線に気づいたのか、観客が集まる中で、指を2本立てた。
「勝利の、Vサイン、です!」
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