第3話

 ここはどこなのだろう。私はどうしたのだろう。

 どこか見たことある気がする。はっきりしない頭で周囲を見渡す。


 この部屋には見覚えがある。あのカーテンも、そこにあるソファーも。ソファーに置かれているクッションは私がプレゼントしたんだもの。そう、ここはカズの部屋…。


 何度も訪れた彼の部屋。奥の寝室に向かう扉から話し声がもれ聞こえていた。


 あぁ、カズ…。


 扉をすり抜けた私が見たものは、楽しげに談笑するカズと一人の女性の後姿だった。


 苦しい。そこにいるのに…。苦しいよ…、カズ、カズ、カズっ!


 呼びかけに答えるかのようにカズが振り向いた。私は彼に両手を差し出した。


『カズ…。』


「きゃあーっ!」

「や、やめろ、くるなぁーっ!」


 なぜ、逃げるの?なぜ、私じゃないの?ねぇ、なぜ?

 わからない、何もかも。ただ、あなたへの想いだけが私の中で未だ熱く燃えさかる。


『あぁ、熱い…。カズ…。』


「ヨウコ、あっち行ってくれよぉ。悪かったよぉ。頼むよぉ」


 どうして泣いてるの?ねぇ、泣かないで。困らせるつもりなんかないの。ただ、愛してるだけ、こんなに熱く。今も…。


「…あ、あっ、ヨウコ…」


 なぜ、カズはこんなに泣いているのだろう。まるで何かに怯える子犬のように。ほら、あんな女、こんなカズをほおって置いてもういないじゃない。私だけなのよ。カズを、ずっと愛してあげられるのは…。


 両手を広げる。泣いている彼を優しく抱きしめるために。


 ほら、私が抱きしめてあげる。泣かないでいいのよ。ずっと、あなただけ、愛してあげるから。


 カズを強く抱きしめた途端、あの日二人で見つめたキャンドルの炎が蘇った。カズの体から立ち上る、あの日見た永遠を思わせる炎。


 やっぱり、カズは私と同じ炎を見ていたのね…。


 赤く燃えさかる炎の中で、私は物言わぬカズに口付けた。

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