サイダー

冷やしたサイダーを

父が飲みたがったのは

シュワシュワとした爽快さで

喉から胸にかけての重苦しさを

流してしまいたかったんだと思う


吸い飲みに入れたサイダー

コクリコクリと喉仏が動いて

数口をゆっくりと飲み込んだあと

ふぅと息を吐いて

父は満足そうに目を閉じる


この、ささやかなる清涼が

父のやまいの苦痛を

束の間でも消してくれますように

また夢と現実の狭間を漂っている

その横顔を見つめながら


わたしは思う


ああ、そうだ


幼い日に飲んだ

あの硝子コップの中の澄んだサイダーは

無数の小さな泡が弾けながら

そういえば身体の隅々までを

確かに清めてくれるようだった

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