心泣 (うらなく)

確実に近づいているものに

あらがう術は、もうないのか


「点滴を勝手に外してしまうのです。もう一口も食べられなくなりました」

病院からの電話に

すぐにでも駆けつけて側についていたいのに

コロナ禍の中、それさえ許されず

家に帰りたいと電話でせがむ父の

その願いを叶えることさえできない


「本来お一人だけですが、特別にお二人まで。その代わり明日面会したら来週以降でないと面会できません」

主治医の心苦しそうな声

明日、父が緩和ケア病院に行く日が決まる

痩せた肩と震えていた指先を思う

握った手の温もりを思う


いつか誰もが通らねばならない道だ

それはわかっているけれど


こんな見送り方しか出来ないのか

こんな見送り方しか……


せめて今宵、少しでも

父の心から

不安や寂しさが無くなりますように


できることなら

ずっとずっと

手を握っていたいのに


お父さん


お父さん……


側にいられなくてごめんなさい

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