第33話 そうして一日が終わる

 気づけば日が暮れかけており、オレンジ色の空に薄く月が見え始めていた。


 魔物を探す。

 殴る。

 魔物を探す。

 殴る。


 ひたすらそれを繰り返した。

 すでに持ってきた布袋がパンパンになるほど素材が集まっている。

 どの魔物も一発で倒すことができるので、非常に効率よく素材を集めていくことができた。

 ただ、Dランク以下の低位な魔物しか出遭わなかったので、得られる金額としてはそう大した金額にはならないだろう。


 まあいい。


 素材も十分とれたしそろそろ帰るか。

 俺は街の方向へ歩き出す。



 しばらく歩き、国の外壁へと到着した。


 えーっと、確かここら辺に抜け穴が……。


 あった。


 よく見なければわからないほど亀裂が外壁の一部に走っている。

 ここを押せば……。


 ボコッ。


 音とともに、人が一人通れるくらいの抜け穴ができる。

 ユーリから教えてもらった例の抜け穴である。


 俺はそこから、中に入り、そして壁を再度塞いでおいた。


 中に入れば、見たことのある路地裏に出る。

 確かこの路地裏をまっすぐ歩いて、そして次の分かれ道を……。


 あれ。どっちに曲がるんだっけ。


 やっべ……、忘れた。


 俺は薄暗い路地裏の分かれ道で立ち止まっていた。


 まぁ、どっちに曲がろうとそのうち見慣れた大通りに出られるだろう。

 とりあえず右に曲がってみた。


 しばらくまっすぐ歩く。分岐道もない直線の道が続いた。

 そして進めば進むほど路地裏の暗さが増していく。

 あれ、大丈夫かこれ。


 引き返した方がいいかな? とは思いつつも、もう少しだけ歩いてみる。


 そんな感じで歩いていると、もうかなりの距離をまっすぐ歩いていた。

 絶対に道間違えたわこれ。こんなに歩いた覚えないもん。


 さすがに引き返そうかなぁ……。


 そう思ったとき、ちょうど目の前に分かれ道が現れた。

 右と左に道が分かれている、


 あー……。けっこう歩いちゃって引き返すの面倒だし、もうこの道から家に行こう。


 普通に考えて、さっき右に曲がったから連続で右に曲がったら元来た方向に戻ってしまうはず。

ということは左に曲がれば大通りに出られるだろう。


 俺は左の道を選び、先へ進む。


 そして歩くことしばし。


 薄暗い道の先にぼんやりと月明かりが差し込んできているのが見えた。あれは大通りじゃないか?


 よし! 路地裏を出られる!

 あっぶねえ、迷子になるところだった。


 そんなことを思いつつ、歩む足を速めて路地裏を抜けた。


 そして俺は、その先にあった景色に目を見開いた。


「……は?」


 そこには一面全ての建物が焼け落ちた街の姿があった。



***



 嘘だろ。

 俺が森へ行っている間に一体何が起こった?


 俺は焼け落ちた跡の街を歩いて様子を探った。

 すべての建物が跡形もなく燃え尽きている。


 火事でもあったのか? それとも誰かの仕業か? もしかして羊男?

 色々な推論が頭を巡る。


 しかしよく見るとその場所の様子が少し変だった。


 今日焼けた跡だったら熱が残っているはずなのに、建物の焼け跡はむしろ冷たかった。

 そして人が一人もいない。

 死体すらも落ちていない。



 ……これは今さっき燃え尽きたような感じじゃないな。

 まるで何年も前に焼けた街の跡地のようだった。


 もしかしてここはユーリ達の家がある区域ではなく、昔火事かなんかが起こった区域なのだろうか。


 ありえる。


 いたるところが真っ黒になった街を歩きながらそんなことを考えた。


 そうだ。来た道を戻ってみよう。

 来た道を戻ってユーリ達の家へ行くのだ。

 ユーリ達の家付近が燃えていないか確認したい。


 えっと、確か左の方向からきたから、その方向へ戻ればいいな。

 俺は元来た道を走った。


***


 来た方向とは逆方向に走ると、見たことのある大通りに出た。


 これはユーリの家に繋がるあの大通りだ。


 そして大通りは別に焼けた跡などもなくいつも通り平然と建物が並んでいる。

 ちゃんと人も歩いていた。


 なんだ、いつも通りじゃん。

 よかったぁ……。

 ユーリ達のいる街が燃えたのかと思ったわ……。


 やはり、さっきの場所は昔火事があった場所の跡地なのだろう。

 

 俺は胸をなでおろし、大通りをまっすぐ歩いた。

 この道なら知っている。

 ここをまっすぐ行けばユーリ達の家があるはずだ。


 歩くことしばし。


 あった。

 ユーリの家は特に燃えている様子もなくいつも通りそこにあった。

 改めてほっとした気分になる。


 家の扉を叩く。

 すると扉が開けられ、中からミリヤがひょこりと顔を出した。桃色の髪がふわりと揺れる。


「あ、ハルトさんお帰りなさい! ユナさんももう帰ってきてますよ」

「ただいま。お、そうなのか」


 ミリヤもいつもと変わらない雰囲気で俺を迎えてくれる。。

 軽く会話を交わし、家に入った。


 一旦部屋に戻って、集めた素材を置いた。


 そしてリビングに行くと、そこにはユーリ、リタさん、ユナの三人がすでに座っていた。


「ハルトさん、おかえりなさい!」

「おかえり。ちょうどいいタイミングね。遅かったから先にご飯を食べようと思ってたところだ」


 ユーリとリタさんがそう声をかけてくれる。

 見ると、テーブルの上に美味しそうなご飯が並んでいた。

 今日も美味しそうな匂いが部屋に満ちている。


「遅かったわね」


 と、ユナが俺の目を見てそう言ってきた。

 何かあったのか。言外にそう問いてくるような目だ。


「いや、ちょっと帰り道で迷っちゃって」


 俺はそう言いながら席に座った。


「はい、ハルトさんのご飯!」


 そう言い、ミリヤが白米の盛られたお椀を持ってきた。

 おお、いつの間に用意してくれたんだ。


「ありがとう」


 俺は礼を言って、そのお椀を受け取った。


「じゃあハルトも帰ってきたし食べるとするか」


 リタさんの音頭と共に、みんなで「いただきます」と言ってご飯を食べ始める。


 いやぁ、すっかり腹ペコだったから助かる。


「ハルトさんとユナさんは今日どこに行ってたんですか?」


 食べながら、ミリヤが小首を傾げながらそう尋ねてきた。


「ああ、ちょっと森に魔物を狩りにな。あ、そうだ。そしたら帰りに道に迷っちゃって。なんか建物が焼け落ちた跡地に出たんだよ。なんなんだあそこ?」


 俺はご飯を口へ運びながらそう言った。

 すると、それを聞いたリタさんは口を開く。


「それは東区域だな。数年前に大規模な火事があってあそこは全焼してしまったんだ。再建が進められているが、まだ焼けた跡地が残っていて、ハルトが迷い込んだのはそこだろうな」

「なるほど、そういうことだったんですね」


 なんだ。やっぱり昔の焼け跡だったのか。

 ここが燃えたのかと思ってびっくりした。


 リタさんの説明を聞いて納得できたので、ご飯を食べる手を進めた。


 その後もたわいない会話をしながら食事をした。

 本当にたわいない会話だ。


 誰もミリヤの結婚のことについては触れようともしない。

 いつも通りの楽しげな日常だった。

 


 さて。

 部屋に戻ってユナの今日の報告を聞くか。

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