第31話 別行動
「問題はこの国の内情をどうやって調べるかだよな」
「そんなの簡単じゃない。一発で全部調べられる方法があるわ」
「ええ!? まじ!?」
ユナは自信ありげな表情だ。
そんな素晴らしい方法があるのか……!
「それは一体どんな方法なんだ……?」
「王城に忍び込めばいいのよ」
お、おお……。
大胆な作戦だなぁ……。
もういっそ内部を直接調べてしまうというわけか。
まあ確かにそれが一番手っ取り早い方法ではある。
……ありかもしれないな。
「そうだな……。でもかなり危険なやり方だぞ」
「そうね。だから今回は私一人で王城に侵入するわ」
「……へ?」
ユナは何を言ってるんだ?
王城に一人で行くなんて危険すぎる。
行かせられるわけない。俺も一緒に行く。
「あんた、隠密魔法も使えないのに王城に潜入する気?」
ユナが小首を傾げながらそう言った。
……ぐうの音も出ない。
たしかにユナの言う通りだった。
よく考えたら俺、潜入とか向いてねぇ……。魔法使えないってやっぱ不便……。
「私が王城に潜入して色々と調べてくるから、ハルトは魔物でも狩ってお金を稼いでおいて」
「ええ……、俺だけやること地味……」
「仕方ないでしょ。それに私たち今お金持ってないんだから、結局はお金を稼がないといけないのよ。だからハルトの仕事も必要なことなの」
「うっ……まぁそうか……」
ユナの言う通りだ。
ご飯を買うお金だって稼がないといけないし、この家だっていつまでも住まわせてもらうわけにはいかない。リタさん達にお世話になった分のお金も返したいし。
仕方ない。
また別行動かぁ……。
別に魔物を狩る仕事が嫌というわけではないけれど、危険度の高い仕事をユナに任せっきりにしてしまうのが少し心配だ。
……でもまあユナだって飛びぬけた実力を持っている。剣術は言うまでもないし、黒魔法だって使える。俺がそこまで心配する必要はないだろう。
「わかった。じゃあお金は俺が稼いでおくから王城の調査は任せた」
「うん。私に任せておきなさい」
ユナは俺を安心させようとしているのか、自信ありげに胸を張ってそう答えた。
ありがたい。ここはユナを信じて任せよう。
「じゃあ行動方針も決まったし、明日に備えて寝るか」
「そうね」
そう言い、部屋の電気を消して床に横になった。
***
翌日。
外は快晴。窓から差し込む朝日で目が覚めた。
ユナはまだベッドの上で寝ているようだった。可愛らしく寝息を立てている。
俺はユナを起こさないようにそっと洗面台へと向かった。
洗面台で顔を洗い、水で髪の毛を濡らして寝癖を直す。
冷たい水が気持ちいい。
気分もサッパリしたところで部屋へ戻ろうとすると、ユーリに出くわした。
「あ、おはようございますハルトさん」
「おはよう」
ユーリはまだ寝起きでまだ眠いのか、半開きの目で話しかけてくる。
「朝早いですね。どこかに行かれるんですか?」
「ああ。俺とユナは用事をこなしに外出するよ。ユーリたちは?」
「僕はいつも通り森へ修行に行きます。ミリヤとリタ姉は多分ずっと家にいると思います。いつもはリタ姉も森に行くんですけど……リタ姉、結婚のときまではなるべくミリヤと一緒にいたいみたいで」
「……なるほどな。俺も森へ行く予定なんだけど一緒に行くか?」
「……いえ、ハルトさんと一緒だと僕は助けられてばかりになって自分のためにならないと思うので、一人で大丈夫です」
「そうか。わかった」
また昨日みたいに蛇の魔物に襲われて死ぬなよ……。
いつもならリタさんが森についてきてくれるみたいだけど、今日はリタさんも家にいるのか。
まぁミリヤの結婚も間近だと言っていたしな。
そういえば聞いていなかったが、具体的にはあとどれくらいで結婚するのだろう。
「ちなみに結婚する日って決まってるのか?」
「結婚式が四日後に行われる予定です。なので正式に結婚するのはそのときですね」
「四日後!?」
まじか。
本当に間近じゃないか。
さすがにもう少し先だと思っていた……。
あれ? でも結婚間近なのにミリヤは、まだ国王と一緒に住んでないけどいいのか?
「そんなに結婚式が近いのにミリヤはこの家に住んでていいのか? 国王と一緒に住んでないみたいだけど……」
「この国では結婚式はあくまで形式的なものですからね。王城への移住は結婚式が終わってから行われるんです」
なるほど。
結婚というものは、同棲して籍を入れ、その後に結婚式を挙げるものだと勝手に想像していた。
…………四日後に結婚か。
思っていたより時間がないな。
……できたらミリヤが結婚してしまう前に国の内情を調べておきたいところだ。
急ぐ必要があるかもしれない。
そしてもう一つの問題。
それは目の前にいるユーリのことだ。
「……ユーリはその、大丈夫か?」
「…………」
俺がそう尋ねると、ユーリは物悲しそうな表情をして俯いてしまった。
俺はユーリがミリヤを好きだということを知ってしまっている。
大切な人が誰かに奪われてしまう苦しさを俺は知っている。
だからユーリの気持ちが痛いほど理解できた。
「……大丈夫です。僕はミリヤの結婚を祝わなきゃいけないですから」
ユーリは俯きながらも、そう言い切る。
「……話ならいつでも聞くから、あんまり無理はするなよ」
「ハルトさん……ありがとうございます」
そんな会話を交わして、俺は部屋へ戻った。
部屋に戻ると、ユナが目を覚ましており、ベッドの上で眠そうに目をこすっている。
「ユナ、思っていたより時間がないかもしれない」
俺は早速ユナにそう言った。
「ふぇ?」
ユナは半眼のまま、小首を傾げる。
あ、これ寝起きモードか。
「先、顔洗いに行こうか……」
先にユナに顔を洗いに行ってもらうことにした。
ユナに顔を洗わせ、目を覚ましてもらった後。
俺は結婚式が四日後に行われることを話した。
「四日後に結婚式……」
「ああ……」
「……結婚式で何かが起こるって決まってるわけじゃないけど、結婚式が開催されるまでには何か情報を掴んでおきたいわね」
とユナはこめかみに指を当てながら言う。
俺もユナの意見に賛成だった。
早めに情報を手に入れないと手遅れになってしまう気がする。
「時間がないけど、いけそうか?」
「そうね。やるだけやってみるわ」
とユナは真剣な表情で呟く。
今回の作戦は本当にユナに頼ってしまう所が大きい。
ユナを急かすような情報を伝えてしまったが、どうか無茶だけはしないでほしい。
「ユナ、あんまり無茶はしなくていいからな。王城侵入なんてバレたら絶対ヤバいし……」
「わかってる。慎重にやるわ」
そうユナは言った。
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