第16話 ゴブリン討伐
それからさらに数週間、ギルド活動を続けた。
ギルドを設立してから間もないということもあり、いまだに『夜の騎士団』に持ち込まれる依頼は、掃除やペット探しなどの雑務系が多かった。
ただ、ときどき、低位ではあるが魔物討伐の依頼が持ち込まれることも出てきている。
もちろん、俺とユナの実力で魔物討伐を失敗することはなかったので、今のところ一度も失敗することなく迅速な魔物討伐をすることができていた。
その成果もあってか。
少しずつではあるが『夜の騎士団』の名前は世間に広がり始めてきていた。
今ではようやく国にも認知され、国からの依頼も回ってくるようになってきている。
しかし、まだ大物の依頼が回ってこないは確かだ。
近頃、超高額な報酬金のかかった黒龍討伐依頼が出回っていたという噂を聞いたが、うちにはそんな依頼きていない。
やはりそういったデカい依頼はもっと有名なギルドにしか出回らないのだろう。
はやくそのレベルまで登り詰めたいところだ。
というわけで今日も頑張りますか。
「今日の依頼は二件あるわね」
と、ユナが二枚の依頼書を見ながら言った。
二件か。
ちょうどいい数だ。俺とユナの二人でこなせば一日で片付けられるだろう。
「依頼内容は?」
「薬草採集と、ゴブリン退治よ」
お、魔物の討伐依頼きてるじゃん。
ユナはさらに依頼書を読んで内容をまとめてくれた。
「薬草採集は西の森での仕事で、ゴブリン退治は北の森での仕事みたい。
今回の依頼は別々の場所での作業になるから、手分けして一人一つの依頼をこなした方がよさそうね」
お、別行動か。
なんか久々の別行動だな。
ちょっと寂しい……。
仕方ないことだけど……。
「……わかった。俺はどっちの依頼でもいいけどユナはどっちの依頼を受けたい?」
「私もどっちでもいい。じゃんけんで決めましょ」
そして話し合いの末、じゃんけんで勝った方がゴブリン討伐の方を受けることになった。
結果。
じゃんけんには俺が勝った。
よって、俺がゴブリン討伐。ユナが薬草採集という割り振りになる。
「……よし、じゃあ行きますか」
「うん。そんなに大した魔物じゃないけど、気をつけてねハルト」
ユナが俺のこと心配してくれてる……。
めちゃくちゃ嬉しい……。
最近ユナのデレが増えてきてて俺は嬉しいよ。
「ユナこそ一応森に入るんだし気をつけてな」
「私は大丈夫よ」
まあ確かに、ユナほどの実力があれば森の魔物くらいなんてことはないか。
けど心配なもんは心配だ。
俺はユナの背中が見えなくなるまで彼女を見送った。
この頃ずっと一緒に行動してたから一人になるとやはり寂しさを感じる。
……さっさと依頼を終わらせよう。
こうして俺は北の森へ、ユナは西の森へ向かった。
***
ゴブリンはEランクの魔物だ。
山籠もりをする前に、俺も一度倒したことがある。
つまりそんなに強くない魔物ということだ。
ちなみに魔物のランク区分はこのようになっている。
S :複数の国にまたがる脅威となる力を持つ魔物。訓練された兵士がいくらいても勝てない力を持つ。
A :街一つを滅ぼす力を持つ魔物。よく訓練された兵士1000人に匹敵する力を持つ。
B :よく訓練された兵士100人に匹敵する力を持つ。
C :よく訓練された兵士10人に匹敵する力を持つ。
D :パーティーで戦うことが望ましいレベルの魔物。
E :剣術の訓練を受けた者であれば倒せるレベルの魔物。
F :一般人でも勝てる可能性があるレベルの魔物。
あくまで参考程度のランクではあるが。
ゴブリンはEランクの魔物なので今の俺ならどんなことがあっても負けやしないだろう。
俺はゴブリンを探しながら森を歩く。
「さて、ゴブリンはどこだ……」
しばらく歩いているがまだゴブリンは見つからない。
今回の依頼のノルマはゴブリン五体以上となっている。
はやいとこゴブリン見つけてユナのもとへ帰りたい。
ゴブリンどこだ、ゴブリン……。
「ゴブリンかぁ……」
俺はゴブリンという言葉で、あるひとりの人物を思い出していた。
アイリーンである。
アイリーンに振られる前日、俺はゴブリンを倒したことをアイリーンに褒められた覚えがある。
「……はぁ」
俺はいまさら何を思い出しているのだろうか。
もうアイリーンのことなど忘れたかった。
彼女のことを思い出すたびに胸が痛くなる。
別に未練があるとかじゃない。
ただ嫌な思い出として、心から彼女が消えないのだ。
だめだ。
一人になると、あのトラウマがどうしても頭の中に蘇ってしまう。
そういう時に俺は決まってユナのことを考えるようにしている。
ユナの顔を頭に思い浮かべると、心がスッと楽になるのだ。
もうこれ軽いドラッグだろ。
近いうちにユナが危険薬物に指定されてもおかしくないな……。
「よし、もう大丈夫だ」
俺は心の中でユナに感謝しつつ再び歩き出す。
あ、そうだ。
俺は首にかけていた赤い宝石のペンダントを手に取る。
アイリーンに誕生日プレゼントとして貰ったペンダントだ。
「…………」
なんだかんだずっと持ったままにしていた。
けどもう今の俺には必要無い。
俺はそのペンダントを首から取って捨てた。
俺は気持ちを切り替え、再び森を歩き出す。
「はやいとこ終わらせるぞー!」
***
「はやいとこ終わらせないとね」
アイリーンは馬車に揺られながらそう言った。
現在、アイリーンたち『月の騎士団』一行は馬車に乗って黒龍のもとへと向かっていた。
黒龍が最後に確認されたのは『ユーテリア王国』の付近であった。
よって、アイリーン達はいったん『ユーテリア王国』へと馬車を走らせている。
『ユーテリア王国』。
それは現在ハルトがいる国でもあった。
「そうだな。……このままでは世界中に被害が広がってしまう」
深刻な面持ちでそう言ったのは、アイリーンの隣に座っていた『月の騎士団』副団長ターニャだ。
ちょうど今、黒龍の被害が凄まじい勢いで拡大しているとの知らせが『月の騎士団』に届いたところだった。
「今回、ユーテリア王国に向かってるのは、私たちと『雪の騎士団』だけなんだね」
アイリーン達のもとにはさらに、『花の騎士団』が諸事情により今回の黒龍討伐には参加できないとの知らせも届いていた。
三大ギルドのうちのひとつが欠けるということは、非常に大きな戦力を失うということだ。
今回の黒龍は世界がひとつになって対処しなけらばならないというレベルの敵である。
『花の騎士団』不在の知らせに不安を覚えたメンバーもいるだろう。
「まあ私たちと『雪の騎士団』がいれば十分であろう。それに、ギルドに所属していない剣聖たちも黒龍討伐に乗り出しているらしいしな」
とターニャは呟く。
その通りだ。むしろ多すぎるぐらいの戦力だろう。とアイリーンは思った。
心配することは何もない。
アイリーンは目を瞑り、黒龍との戦闘に備えて精神統一を行った。
『月の騎士団』が『ユーテリア王国』に到着するまで、残り二日。
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