480球目 中学時代は気にしない

 俺達がホテルに着くと、ロビーのソファーに阪体大付属の天塩あまじおが座っていた。



「ハーイ、ミスター・アマジオ。ベリィビジィ忙しいの中、ありがとうございます」


「いえいえ。チーちゃん、元気そうやね」


「もちろんやん! 甲子園の盗塁記録ぬりかえたるやん!」



 天塩あまじお千井田ちいださんはまだ付き合っているようだ。肉食獣になる者同士、馬が合ってるのかもね。



「ソー、ミスター・アマジオ、ショーデのミスター・トモノについて話してください」


「OK。友野とものは変わった奴で、鹿に変身する超能力持ちだけど、肉食野郎に負けんと言って、バリバリ筋肉きたえてたな。俊足で一発のある奴だよ」


「あれ? でも、友野君は夏の予選でホームラン0やけど」



 津灯つとうがスマホで埼玉さいたま翔出しょうでの予選記録を見ている。



「めちゃ体調悪うなったから、やめたんや」



 短パン・白Tシャツの夏の少年格好の男が話に割って入ってきた。彼の肌は茶色く、両脚は競輪選手のようにパンパンだ。



友野ともの! 久しぶりぃ!」

「ジョージィは元気なさそうやな。まっ、予選で負けたから、しゃあないか」

「うっせぇわい!」



 天塩あまじおとその男は、2人の世界が出来上がっている。確か、友野と言ったな。じゃあ、初戦のライバルか!



「ほんで、浜甲はまこうの連中にオイラの情報提供ってか?」


「すまん。中学時代はどんな奴かって聞かれてな」


「中学時代は過去、過去! 大事なんは今や。埼玉翔出しょうでのリードオフマンで、打率5割、11盗塁、守備も上手いってことは教えたんか?」


「ええっ!? 11盗塁!」



 千井田ちいださんが瞬時に驚く。



「ちな甲子園出場選手でトップの数字やで」

「嘘や。あたいより盗塁多い奴がおるなんて……」



 まぁ、ほぼ代走専門で8盗塁も立派だけどね。



「友野は何でここに来たんや」

桃野もものパイ先にカラオケ誘われたから、ジョージも一緒にと思うて。どや? 浜甲の皆さんも一緒に行くか?」

「あたいも行く!」

「ミスター・ミズミヤ、ゴーです、ゴー」



 東代とうだいが俺に耳打ちしてくる。



「ええ!?」



 天塩あまじおの彼女の千井田ちいださんならともかく、俺が行くと場違いじゃねぇか? 結局、東代とうだいの圧で参加を決めた。



(続く)

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